15.その後
夕食を食べた後、みんないつもより早くに自分の部屋に行ってしまう。深琴君さえも、話があるからと久松の部屋に行ってしまいまして。今は俺の部屋で八重川さんと二人、勉強している。
「終わりそうか?」
「もう少し・・・」
どうしよう。間接的にだけど、告白してしまった。二人きりになると八重川さんの方を見る勇気がない。
いつもより口数少なく、頭にも入らない勉強を続けていたら、八重川さんが鉛筆を置いた。
「昼間のこと、あんまり気にしなくていいから。ああいう状況だったし・・・俺はお前があの場に来てくれたことも、説得してくれたことも、それだけで嬉しかった。だから、変な気の使い方しないで欲しい。負担にだけは、なりたくないから。」
なんでこの人は、いつもそうなんだろう。自分の気持ちばかり犠牲にして、いつもこっちに気を使う。・・・だから俺もつい甘えてしまうし、大事なことがどんどん先延ばしになっていく。それも、もう今日で終わりにしたい。
「八重川さん、俺は・・・」
「ちょっと待て!待ってくれ。・・・後になって、やっぱ違ったとか、そんなのは嫌だから、いくつか確認しておきたい。イエスかノーで答えてくれればいいから。」
「わかった。」
「・・・もし俺が、もうお前のことなんとも思ってなくて、クラスの女子が好きとか言ったら、どうする?」
「・・・・・考えたことないです。」
「実は橋下と付き合ってるーとか。」
なんか、めちゃくちゃ嫌だ。凄く嫌だ。橋下さんが基本いい人ということはわかっていても、そういう問題じゃない。
「嫌ですね。」
「そっか。」
相変わらず進まない、今日の課題。八重川さんの方はとっくに終わらせ、ベッドの方に腰掛けているのに、全然頭に入ってこない。
「そういえば八重川さん、頭いいんですね。霜月学院の階級、最初から9クラスだったんですか?」
「実感は全くないし、中学の成績も良くなかったけど、あの学院は相性が良かったんだと思う。俺はそれより、お前たち三人・・・久松と松永な・・・が上がって来たことの方に驚いたよ。普通、クラス内で移動することはあっても、8から9に階級自体が上がることなんて滅多にないから。でも、ついて来ようとしてぶっ倒れたっていう話はもっと聞かないな。」
「それはほんとすみませんでした!」
八重川さんが笑うのが見える。こんな話をしていたら、本当に課題の終わりが見えない。
「あの時ほんと、なんてバカが入って来たんだって思ったよ。自分のことなんか眼中になくて、結果的に周りを不安にさせる。勉強も運動も、全部自分のためにやるものだと思っていたから、変なやつだって思った。」
「人のためにっていうのも、結局自分のためだったんですけどね・・・深琴くんを守りたいのも、八重川さんと一緒にいたいのも、やっぱり自分だから。」
終わらない課題は放って、八重川さんの座る方に向き直った。詰まる所夕方の騒動も、八重川さん自身のためというよりは自分が我慢できなかっただけだし、もし仮に八重川さん本人が望んでいなかったとしても、引き下がる気なんか更々なかった。
だから、もうちょっと橋下さんのストップが遅かったら、今頃こうしていないということだ。
「そう言えば俺、誰かを殴ろうとしたの初めてだったかもしれない。」
「課題終わったのか?」
「まだですけど、明日やろうかなって。ちょうど筋トレも休みの日だし。」
ベッドに並んで座って見ると、無駄に広い部屋が見渡せた。
「八重川さん、いなくなったりしませんよね?」
「しないよ。」
「・・・本当のところ、橋下さんとは何もないですよね?」
八重川さんは静かに笑っていた。自分でも、なんてありえそうもない質問をしてるんだって思っている。それでも気になって、これまでに付き合ってる人がいたのかとか、好きな人がいたのかとか、聞いてもしょうもないことばかり疑問が湧いてくる。
「八重川さん、はぐらかさないでくださいよ。」
「いや、なんか嬉しくて。」
本当に 嬉しそうににこにこしているのを見ていたらたまらなくなって、軽く触れるだけのキスをした。
「好きです、八重川さん。」
見る間に真っ赤になっていった八重川さんと、今度は深く。
「俺もだよ。・・・因みに橋下とは何もない。あんまりくだらん質問をするなよ。」
それから2人揃って布団に潜り込んだのだが。今現在夜の11時、疲労感も手伝って、すぐに眠ってしまった。
*
朝叩き起こされて見ると。八重川さんをがっしり抱き締めたまま眠っていたようで、ベッドから落ちるなんてことにはなりませんでした。最初からこうしていればよかったのか。
「何寝ぼけているんですか、浪花さん!朝ですよ。」
「深琴くんおはよう。」
「全く、今時の高校生とは思えません! 今度蒲原さんから漫画でも借りて見たらいかがですか?」
え?なぜあのディープな世界に足を突っ込む必要が?
「んん・・・浪花?」
「あ、おはようございます、八重川さん。」
「おはよう。」
やっぱりにこにこしている八重川さんは本当に可愛い。今朝は甘味多めに作ろう。
「もう、何なんですかあなたたちは!ぼくは何も知りませんから!永遠にプラトニックしてればいいんです!」
「西条、あんまり騒ぐな、近所迷惑だ。」
「久松さんまでなんですか! 僕は、僕は・・・・・」
あやすようにぽんぽん頭を叩く久松。何も言えずにジト目で膨れているみことくん。
「あと、今日も学校はあるからな。うっかり朝食抜いて倒れるなよ。」
「わかってるよ!」
ヒョイっと深琴君を回収して出て行く久松を見送り、調理に向かうのだった。
*
それにしても、恋人同士って普通どういうことをするものだろう。やっぱり、デートとか?いや、なんかいろいろすっとばかして同棲みたいなノリだけど、普段と変わったことが一緒に寝たことくらいというのは、どうなんだろう?
まあいっか。幸せだし。
「あっ、ちょ、久松人の取るな!」
「一人でにやにやしてる方が悪い。」
因みに、一人でニヤニヤはしていない。昼間はいつも屋上で、同好会一同と昼ごはんを囲むことが習慣になっていて、今日は橋下さんも乱入しているから、ニヤニヤしている人物も数名はいる。
「そっかー、みんな一緒に住んでるってことは、このお弁当、やっぱまさるん作だよねー。」
「え、浪花君、それだけの量いつも作ってるの?」
深沢さん、驚くことなかれ。この量は序の口なのだよ。さすがに慣れた今ではリビングの机に入りきらないほど作りすぎることはなくなってきてはいるが。本格的に困って最初のうちは近所のおばあちゃんにお裾分けする羽目に陥ったりしていたのだ。
「あ、ちょうどいいやー。俺のも作っといてー?自分で作るのめんどくさーい。」
「いいですけど・・・すみません、余っちゃったら蒲原さんも協力してください。」
「もちろんだとも!いつでも歓迎だ!」
あ、 ちなみに蒲原さんは深澤さんの家に居候しているそうで。割と気に入られてもいるらしく、特大の弁当を提げている。
それにしても、一年前には想像もできなかった光景だ。こんなふうにおおっぴらに弁当を広げ、たまに具を奪われたり取ったり。いやまあ、取るななんだけどさ。やっぱり楽しい。
で、その日の放課後には、最遊記?の面々が招集され、西條家の品の良い奥様と執事っぽい人から感謝され、これからもよろしくとの言葉を授かりました。
まあ、その後我々が退場した後、主に深琴君バーサス母上様のとんでもない修羅場になっていたことは秘密にしておこう。取り敢えず、誘拐犯扱いされなかったことだけは報告しておく。
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