12.学年集会の一悶着
遠足後、急遽誰かの問題提起によって開かれることになった学年集会では、同好会の活動について話し合われるらしい。一応各部場所取りとかも、主に深澤さんが掛け合ってくれてうまく回っていたし、先生も同伴だからと思っていたが。考えてみれば今まで問題にされなかった方がおかしいかもしれない。・・・言いたくはないが、八重川さんも派手にやらかしているし。
ただ、どうも声をあげたのは部活をやっている人たちではないらしく、クラス関係なしにぐちゃぐちゃに集まった生徒同士で、始まって早々結構な騒ぎになっている。
・・・3年にもなって、大丈夫なのか?これで。
「・・・でも、剣道部とか柔道部は黙認だよね?なんで格闘技はだめなの?」
因みに、今発言しているのもメンバーではない。勝手に白熱していく集会で、同好会メンバーは一番前の方にいながら端に追いやられ、全くこの場において存在感がない。そもそも俺たちは、学校でやることもなかったかと思い始めていたところだ。
「それはその、命に直結しないというか・・・」
「でも、割と死人出てんじゃん、柔道とか。」
なぜか肩を持ってくる花岡グループの女子。哀れなのはこの集会を開き論戦を切った集会長たちだ。先程から聞いていればかわいそうに、思惑が外れたのか、どんどん味方が少なくなっていっている印象だ。
「し、しかし、あのですね・・・ 」
「あいつらが包帯巻いてるとことか見たことないけど。それに俺らも・・・まあ、痛そうとか思うことはあっても、怖いとかそんなのないしな。」
これはいつも場所を融通してくれている野球部の人だ。前に立っている司会者はずり落ちてくる眼鏡を直しながら、冷や汗をかいている。
「だとしても。危険で、怖いという 意見があったということに変わりはないわけでして。」
「ちょっと、ちょっと待ってよ!怖いとか危険とか難癖つけたの、どうせモテない男子でしょ。私たちの楽しみ奪わないでくれる?それに、深澤さんがマネージャーで入ってるのよ。危険とか本気で思うなら、まず彼女を説得してみたらどうなの? 」
確かに・・・ただ、深澤さんは結構免疫ができてきているから、果たして彼女がいることイコール安全の等式が成り立つのかは結構疑問だ。
「し、しかし、 しかしですね、仮に深澤さんがよくても、その・・・このまま放任というのも・・・」
「へえ、いじめは見て見ぬ振りしたくせに。」
「そ、そ、それは。」
後ろの方からの声だったが、中々度胸のあるやつだ。さっきまでうるさかった集会室が一気に静まり返った。
・・・・あれ、その渦中にいたのって、もしかして俺か?
「いや、そ、その、しかしですね。本格派というのは別格といいますか・・・銃ですよ?た、ただのいじめと一緒にしないでいただきたい!」
「ただのって・・・あのさ、鍛えてなんかなくたって、刃物で切れば人は死ぬし、要は悪意があるかどうかだろ。それとも、面白半分で人を傷つけているところでも見たのか?」
「あう・・・で、でも犯罪を犯す可能性だって・・・」
「可能性?いや、普通の暴力だって犯罪だろ。」
「し、しかしその、殺傷能力が違うといいますか・・・」
「なるほど、つまりあいつらが人を殺す、かもしれないから、同好会を潰すと?」
もう集会長が泣きそうだ。情け容赦なく追及していくのは聞いていて楽しくないわけじゃないが、隅っこに追いやられている側からすると、そろそろ妥協して欲しいところでもある。
「そ・・・そうです!力があれば使いたくなるものでしょう。だから、危険と。」
「え!ちょっと待ってよ。」
神田くんが慌てて立ち上がった。
「俺たちそんなことしないって。それにさ、力があるから使いたいんじゃなくって、必要だから、戦えるようにしたんだよ。だから、必要じゃなければ絶対使わないよ。」
「必要、とは?」
「こないだの人たちみたく、銃とか持ってる人だけじゃないよ。蒲原さんとかもそうだけど、えーと、そう、悪意みたいなやつを、跳ね返したいというか。」
神田くんが頑張っている。一応何か言っておいたほうがいいだろうか。
「しかし、その手段が暴力である必要はないのでは?」
「武器持ってる相手に対話で解決できんのは、お互い狸になれる政治家じゃなければ聖人君子だけだ。刃物持ってる相手に何を言ったところで、絶対に自分が上だと思っている奴には何も響かない。
校内でいざこざが起きないようにしたいなら、誰も変なことをしなければいいんじゃないのか。もう三年なんだから、みんなそこまで暇でもないだろ。」
その誰かの言葉から先は、ほとんどぐたぐたになって後十分あまり。結局学年で同好会公認となった。
「いやー、よかったよかった。もし退学とかって話になったらー、山野部さん呼ぼうと思ってたからー。」
と、集会終わりに会った橋下さんがおっしゃった。いや、いくらある程度細身だからって、いかにもゴツいですって人いきなり来たらもう、即警察呼ばれても仕方ないのでは?
まあ、とにかく何事もなく解決してくれたから良かったが。
その日家に帰った後、皆で夕食を囲みながらやはり集会の話になり、もしアウトになっていたらという仮定を話し合った。
「とにかく、道場にまた通い詰めることになるんだろうな。」
「いや、浪花甘いぞ。彼らの中で危険物扱いということは、退学させられるのが筋だ。」
「あの人たち、そこまで考えてませんよ、八重川さん。目障りだからやめてくれ、くらいなもので、あそこで言っていたのは後付けです。たぶん、同好会潰すだけで満足しましたよ。」
「でも、なんでっすかね。特に迷惑かけてるわけでもないのに・・・」
神田の言ったのは結構疑問の核心をついている。ちょっと委員会呼び出されて遅れて行った時とかも、応援されこそすれそこで罵倒されたり、叫ばれたりした記憶はない。あの場でも、私たちの楽しみを取らないでっ、という悲鳴が聞こえて来たくらいだ。
結局謎は謎のままに、食べ終わった後は各自学院の宿題をやったりと部屋に散っていった。
で、リビングに残ったのは、八重川さんと俺だけ。久松が深琴君を引っ張って連れて行ってしまったので。
会話はないまま鉛筆の音ばかりが響く。別に気まずいわけでもないはずが、なんだかちょっと落ち着かない。とにかく今日の課題を終え、部屋に戻った。
「浪花。俺がいるのは迷惑じゃないか?・・・正直に言ってくれ」
寝支度をしていた時、八重川さんが唐突に切り出した。部屋の出入り口のところで、じっと俺の方を見つめている。
「迷惑なわけないでしょ、なんでそんなこと。・・・いなくなったりしたら
、泣きますからね。」
「いや・・・危険か危険じゃないかって話が出た時思ったんだ。そもそも集会長とか、あの場で何も言えなかった、怖いと思っている人たちは、俺たちがみんなと違うこと、その他大勢より強いことに違和感なり危険なりを感じたんだろうって。」
「でも、味方してくれる人も多かったでしょう。」
「その大半は、ある意味娯楽として楽しんでいるからだ。自分と切り離して・・・そう、映画をかけ流しているみたいに。だから、反論の仕方が揚げ足をとるようなものばかりで本質まで切り込んでこない。そこに触れたら、真っ当な意見、つまり集会長側につくことになるとわかっているからだ。だからあの場にいた中で、唯一本当に認めるべきだと、存在自体を認めたのは・・・本当に癪だし言いたくないが、一人だけだと思う。」
「・・・確かに。」
「脱線したが、俺が言いたいのは、その・・・俺は他の奴らみたいにお前を見られていない。それを、本当にわかっているのか?これまで一緒にいた期間のこととか考えて、平和に暮らしたいからって、本当は嫌だとか、怖いとかいう気持ちを見ないことにしたりしていないか?・・・それも、この、分かれていない部屋で寝起きしていることとか。」
八重川さんに対して怖いと思ったのは・・・いや、何回かあるけど、そういう意味では一度としてない。それはそれでまずいのかもしれないが、そもそもそうした気持ちを抱かれている事に対して、嬉しいと思いこそすれ嫌悪感もなければ恐怖もない。それは遠慮したり、美化したり、はたまた他人事と決め込んでいるからではないだろう。
「俺は怖いとか思いませんから。そう思っていたなら最初から神田くんに押し付けてますよ。」
「それはそうだけど・・・いや、待て。なんで神田の申し出を断った?あの時も気になったんだけど。」
「それはほら、部屋が狭いし・・・」
「流石の俺でも、壁に穴は開けてないが。」
八重川さんの質問に答えが詰まる。あの時、確かに神田の提案に乗るのが一番よかったはずだ。こんな風に八重川さんに余計な気を遣わせることもなかっただろうから。
じゃあ、なぜ?
「・・・まあいいか。今はいいってことにしておく。この部屋にいても大丈夫なんだな。」
「それはもう。」
八重川さんがほっとして表情を緩める。なんか俺、気を遣わせてばっかりだ。本当はそろそろはっきりさせなきゃいけないはずなのに。
「あ。・・・そういえば、もうアレがある時期か。」
布団に潜り込んだところで、不意に低い声が聞こえて来た。
「え?・・・・・ああ、アレですか。」
二人してため息をついた翌日のこと。
アレの紙が配られた。・・・久松の元から凶悪な顔がさらに極悪になって、今にもその紙を破きそうになっている。八重川さんは既に破きかけ、橋下さんに怒られていた。
「いいですね、ちゃんと親御さんに渡してくださいね。」
三者面談の紙という、嫌がらせとしか思えない紙を。
「もういっそのこと、僕久松さんの息子になります。」
深琴くんの目が・・・目が、虚無化している。
「じゃあ俺は深琴くんのお兄さん枠で。」
「ならやっさんはー・・・いやいや睨まないでよ。末っ子枠かなあとか思っただけだからー。」
蹴りを入れるやっさん。そもそも深琴くんの弟というのが無い気がするけど。
「あ、それじゃあお母さん役に俺入ろうかー。」
「なんで橋下さんと夫婦にならなきゃいけないんだ。」
ふざけた話で時間は終わってしまい、踏ん切りのつかない彼らにはちゃんと橋下さんが指導をくれてました。
因みに俺は、なぜか。なぜか、橋下さん、もとい橋本先生と二者面談を初っ端にやることになった。・・・なんか先生として対峙するとか、新鮮すぎて困ってしまう。
しかし久松とか、大丈夫だろうか?すごく心配だ。
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