11.遠足、プール!
着いて着替えて思った。・・・今更だけど霜月勢、筋肉質だな。蒲原さんは置いておくとしても、見かけはゆるい橋本さんでもシックスパックである。
それにしても・・・筋肥大はあまり意味がないとは知りつつ、やはり蒲原さん級のムキムキマッチョには憧れる。
「いいなあー。マッチョ。」
「・・・お前だってそこそこ付いてるだろ。」
俺ほどじゃないが、と笑う久松。
「そうだな、 そのおかげで瞬発力残念だもんな。」
「あ?」
「お黙りっ!」
バシィっと橋下さん。すみません。
「浪花さん!見てください、流れてますよ!」
「そうだね・・・」
流れるプールを見てハイテンションの深琴くんと、それを取り押さえて浮き輪を投げる久松。軽い準備運動だけして、息ぴったりで駆け出していく。
「・・・西條って、本当に子どもだよな。」
「え?まあ。」
「・・・最近見てて、本当にそう思うよ。学院では年齢不詳って感じだったけど。」
しみじみと感想を述べる八重川さん。確かに深琴くんは元々おませさんではあるが、やっぱり行動の端々に、ああ、まだ小学生なんだなって思うような子どもっぽさがあるのは確かだ。
「西條、プールサイドを走るな。」
「僕子どもじゃないですってば。」
「・・・子供にしか見えない。」
そんな会話をしている2人のところまで行き見渡すと、なかなか広いプールである。広いんだが・・・3クラス の生徒が入れば、プールサイドはかなり混雑する。
そんな中にあってやれビーチバレーやったり、トレーニングがわりに水中鬼ごっこやったりと割と楽しめたのは・・・
女子の八割がたがそもそもプールに入っていなかったからであろう。君たちそれで本当にいいのか!?水着着て話すだけで楽しいのは海辺くらいでは?
そんな風に心の中で叫びながら、気付けば結構時間が経っている。
「疲れたぁー、俺、温水プールの方行って来ます!」
そんな神田の一言がうらやましくなり、結局八重川さん、蒲原さん、深澤さんも乗って温水プールへ向かった。因みに久松と深琴くんはスライダーでお楽しみでしたので大丈夫。・・・二人とも身長制限クリアしたんですね。深琴くんはともかく、久松の仏頂面が流れてくると思うとちょっとしたホラーだが。
移動してしばらくまったりしてから、トイレに立った・・・なんかこれ、結構ヤバい気がする。気のせいかな。
「一人か・・・ラッキーだな。うっぜえ取巻きいすぎて近寄れなかったからなあ。」
気のせいじゃないよね。大体、佐倉とか他諸々がプールで遊んでるとことか見てないんだから、トイレが魔窟化してるのも自明といえば自明か。
そんな風に冷静にながめているけれども。現在中田中村佐倉及びその取り巻き数人に囲まれています。かえってプロであって欲しかった・・・何かあってもお互い様になりますからね。ある意味とても厄介です。
「 折角邪魔もん消えたのにさあ、ボコること一つできなくてストレス溜めてんだわ。」
いやいや、 そんな場合には健全な運動をお勧めしますよ、中田氏。
でも困った。防水仕様かわからないバッチ、落としたらまずいバッチはコインロッカーの中だ。逃げることはできても、有効な抵抗はできない。せいぜい抑え込むことくらいだが、大人数相手でそれで被害を防ぐのは不可能に近い。
「浪花、鮒羽に抱かれたんだろ?なあ。俺らにもやらせろよ。」
佐倉そっちの人だったか?って、今更その話題は蒸し返されたくないんだが。・・・しかし、ボコるとか言ってるくせに、暴力でくるんじゃないのか?
「俺らさ、あんただったらいけそうって話なってさ。試してみたいんだよね。」
「菌移るんじゃなかったのか。」
嫌味の一つも言いたくなるさ。触るのもいやとか言ってたくせに。
「・・・ねえ、さっさとやろうよ」
中村の一言で、数人の手が俺に伸びる。逃げねばなるまい。当然、それ以外に選択肢はない。手を払いのけつつ出口に手を伸ばしたとき。
前のめりになってしまったところに佐倉渾身のタックルがクリーンヒットしてしまう。
俺は中田ら数名に引き戻され、手足拘束の上のしかかられた。
「うっわ硬!なにこれ。」
気持ち悪い・・・!体を触られることが、こんなに気持ち悪いこととは。
「いいね、その顔。すっごい唆るよ。鮒羽とかまじ羨ましいなあ。これ独り占めだろ?」
下手なことはできない。触られているのがどんなに嫌でも、変に暴れて怪我をさせれば、どんな処分が下るかわからない。八重川さんも西條君も守れなくなる・・・
「浪花!」
扉が開く音と、舌打ちの声。中田の体が離れた。
「八重川かよ。・・・お前も入るか?こいつぜってぇ美味いと思うんだけ・・・」
周りの人々が一歩引いた。さすがの中田も青ざめて震えている。
「警察と病院と、どちらか選ばせてやろうか?手加減できれば、だけどな。」
無表情の中に確かな炎が見て取れる。彼が一歩中に踏み込んだ途端に奴ら、一箇所しかない出口へ走った。
「逃げられるとでも思ってんのか!」
まずい。絶対にまずい。何人もが寄ってたかって狭い出入り口を通ろうとするために、もみくちゃになっている。このまま止めなければ、彼らはほぼ間違いなく病院行きに、そして八重川さんは・・・
「待って!」
殴りかかろうとしていたのを、全力で引き止めた。そのうちにやつらは逃げていったが、そんなことはどうでもいい。
「やめてください。お願いですから・・・」
怒りでわなわな震えている八戸川さんを抱きしめると、最初のうちこそ暴れていた彼も徐々に落ち着きを取り戻していく。
「・・迷惑だったか?」
「違います!俺は来てくれて嬉しかった。だけど・・・もし、何も持っていない今何かしてしまったら・・・・・一緒にいられなくなっちゃうじゃないですか。」
一歩遅かったら、失っていたかもしれないことを想像すると、自分がまたひどい目にあいかけたことよりも悲しく絶望的だった。八重川さんはもう大丈夫だって言っていたけど、もう二度と、油断はしないと心に誓った。
「八重川さん、本当にごめんなさい。」
「謝ることないだろ!・・・全く、何も悪くないっていったのはどの口だよ。」
そうじゃない。謝りたかったのは、本当はこのとき、今回は八重川さんじゃなくてよかったって、思ってしまっていたから。
二人してプールに向かうと、久松と深琴くんも合流していて、しばらくのんびりしようという神田の案は呆気なく無視され、結局再びプール内鬼ごっこをすることになったのだった。
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