31.卒業
雪が降り始めた頃にスランプを脱し、それからはトントン拍子に習得が 進んでしまい、そして昨日、卒業が決定した。普通は無理でもここでは異世界召喚的なチートを発動してますので気にしないでください。
問題は、同時期に卒業できることになったのが、勇子さん、先輩。のみということで。
いや、 そうかもしれないとは思っていたけど。
深琴君は他三人の卒業と同時に帰ると言っていますし・・・
帰省は結局ひとりぼっち。
深琴くんが文庫本の方は置いていってほしいと言っていたので、最初持っていた小さい行李は置いて、深琴くんの入っていたのは殻のまま、・・・ということにはならず、ここで使っていた道着やトレーニングシャツ、制服で半分ほど埋まった。
段々空になっていく部屋が寂しい。もうちょっと長くいても良かった気までしてしまう。これまではずっと一人で、それが当たり前だったのに、俺はある意味弱くなってしまったかもしれない。あんなに賑やかだった調理台も、机の上も・・・
「浪花、泣いてる?」
「や、八重川さん。」
ちょうど一人でいた所に来てくれた八重川さんを、寂しさに堪えず抱きしめると、本当に泣けてきた。これから先ずっと一人というわけでもないのに、皆んなが卒業してくるだろうまでの期間が、永遠のように長く感じると思う。
「大丈夫、安心しろ。再来月、お前がまた登校するまでに必ず卒業する。俺も、他の奴らも。だから、大丈夫だ。それに、道場を申し込んだの通ったんだろ?少なくとも1人の部屋に戻ることはないんだ。それから、何かあったら・・・いや、無かったとしても、ここに連絡してこい。で、戻ってこいと言いたいところだけど・・・」
八重川さんが差し出して来た紙切れには、松永さんと黒部さんの連絡先が書かれていたが、前にもらっていたのとちょっと違う。
「まだ下っ端だが、警察になったらしい。昼間なら松永、夜なら黒部さんに連絡すれば、万が一の時は助けてくれる。でも!寂しくなったらこっちにかけて来いよ?絶対に!」
俺よりむしろ、八重川さんの方が寂しそうだ。もう本当に泣きそうな感じで、卒業後の注意事項を列挙してくる。
久松よ、同室になったんなら絶対脱出するなよ?なんか微妙に面白くないけど、一人の部屋はかなり寂しいんだから!
「俺、帰ってからも頑張ります・・・待ってますから。」
「当然だ。っていうか、俺の心配なんかするなよ。仮に皆んなばらばらに卒業したとしても、ここを出れば一緒に居られるんだろ?」
絶対日曜日には電話するからと約束して、この部屋を一緒に出た。よし、しょぼくれて隅っこで丸まってたら怒られそうだし。気合いだ、気合い。
「だからって、張りきりすぎて体壊すなよ。その方も結構心配。」
「大丈夫です!治るの早いので。」
「そういう問題じゃない!」
二人で笑っていたら深琴君や神田、久松が集まって来て、暴走するなとか、 張り合うなとか、散々に言われてしまう。・・・え、駄目なの?
「みんな心配してるんですから、本当に・・・何事もないことが一番って、忘れないでください。」
「わかってる、大丈夫だよ。 」
疑いの目は向けられたままだが。深琴君は主に神田君が絶対面倒見るとか張り切っているので(どちらかといえば久松の方が適任っぽいが)大丈夫だと思う。因みに深琴くん、今の今まで坂本先生に捕まっていたらしい。寮部屋を確保するために。
「深琴くん、帰って来たくなったら、いつでも・・・」
「ちっこいからってあんまり甘やかすなよ。少なくともここ卒業してるくらいだ、なんとでもなるだろ。」
「なんとでもってなんですか!ひどいですよ久松さん、僕、こんなに寄る辺ないのに。」
前言撤回、久松はダメだ。だってさ、小学生(仮)ですから!いくら卒業してたって、甘えさせちゃだめなんてことないですよ。
「深琴くん、困ったことがあったらや・・・神田君かいっそ山野部先生のところに行った方がいいからね。」
「ありがとうございます、浪花さん。」
可愛い・・・んだけど。やっさんの名前を出そうと思った瞬間の形相が、凄まじい。
この一月ちょっとの間に関係が改善されていることを祈りつつ、とにかく帰路につくことにした。
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