30.面白くないこと

朝起きたら突然の雪!実は俺にとってかなり珍しい雪。覗いてみると窓の外は真っ白で、テンションマックスで駆け出した俺。乾燥気味で山の方しかほとんど雨の降らないここ。まさかお目にかかれるとは・・・

「ばか浪花!ちゃんと着込め、風邪引くだろ!」

やっさんが気付いたらしく、寮の窓から叫んでいる。後ろからのっそり久松。

結構な身長差だ。ただ、顔面偏差値で言ったらどっこいだろう。・・・そうか、寮の部屋、一緒になったんだっけ。もう一、二週間経つのに、朝二人同時に部屋に入ってくることにもなかなか慣れない。

「早く入れったら 。」

「大丈夫ですよ!それより、これ積もりますかね?」

「積もったらタイヘンだぞ。・・・ああもう、そっち行くからな!」

窓から八重川さんの影が消えて、のそのそと動く久松だけになった。ちなみに久松は物音以外では目が醒めることはないという、不便なのか便利なのかはっきりしない睡眠形態をしているために、やっさんが同室で全く問題はないそうだ。深琴君に踏まれて起きないくらいだからな。

「ぼけっとしてるなよ。ほら、上着。」

「ありがとうございます。」

走って取りに行ってくれたらしくて、顔が真っ赤だった。聞いたところによると北区の出身らしく、半年近く降り籠められることもあるとか。それだから、雪が珍しいなんていうのが奇異に映るらしい。

「だって、写真とかニュースでも見るだろ、雪。」

「そうなんですけど・・・ ほら、海を見たことがなかった人が、感動するような感じです。」

大げさだの、そんなことはないだの言っているうちに、確かに寒くなって来た。防寒着とか安物しかなくて、地味にじわじわ寒くなってくる。

「だから言ったんだ。そろそろ戻るぞ。」

「八重川さん、ちょっと待って。」

腕をつかもうとした拍子に雪に滑って(?)転ぶという。わざとか?わざとじゃありませんよ。多分。

「わざとだよな?」

「滑って転びました。」

「・・・積もってもないのに?」

「・・・・・ちょっと気を抜いていてですね。 」

八重川さんが故意か事故かで下敷きになっていて、少し困ったような顔がすぐ近くにあった。いや、どちらかというと怒ってる?いやいや、段々機嫌が悪くなっているような。

「・・・あの、戻ったらホットココア飲みます?」

「飲むけどさ。何やってんだよ。」

なんとなーく面白くなかった、とか言ったら、また怒るんだろうなあ。

「浪花?」

「八重川さん、卒業したら住む場所、俺の家でいいんですか?」

「そ、それはこっちが聞きたいよ!あと、そろそろ背中が冷たい!」

「ごめんなさい!!」

慌ててどくと、やれやれといった感じで立ち上がり、叩かれると思ったら爽やかな満面の笑みを浮かべている・・・怖いよやっさん!

「つ、つい、出来心で!」

「出来心で?そう言えば済むと?」

「プリン!プリン作りますよ!」

「・・・プリンと、もう一つ。」

俺が口を開きかけたところで八重川さんが二、三歩近づいて来て、気付いた時には唇を合わせていた。

「あとでプリンな。」

にこにこしているやっさんを追いかけて一緒に寮に戻ると、呆れ顔の久松が出迎えたのだった。

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