29.不死鳥の如く

蒲原さん卒業。まさかのクリスマスの日に決まり、滂沱の涙を流していた。 それから勇子さん、神田、橋下の三人が脱出し、C組はゼロとなる。

で、元々先に進んでいた方の進捗はといえば・・・

なんと俺がダントツトップだった!

いや、なんかよくわからないうちに教官が変わったり帯の色がころころ変わったりするなあとは思っていたが。体術以外入っていないから有利なんだろうが。

で、橋下さん曰く。このままいけば2月には確実に卒業資格を得られるだろうとのこと。そしたら、三年に入るまではどこぞの道場に入れてもらうとしよう。

それから発覚した、深琴くんの衝撃の新事実。橋下さんが西條君とこの学院で会ったのは今から七年程前。現在おおよそ小学五年生くらいと考えると・・・幼稚園生はさすがにちょっと無理があるような。ということで、年齢不詳疑惑が浮上した。

まあ実際が何歳だろうと別に関係ありませんが。


宴会で例のごとく作りすぎるのを、人数の減った頭数でもなんとか完食し、蒲原さんには抱きつかれ、やはりまた、しばしの外出、と言って別れを否定していた。いや、戻ってこないでね!?

「みんなー、寂しくなってくけど、たぶん出れば顔合わせられるんだからー。とにかく、がんばろーねー!」

橋下さんは切実だろう。一体この人はどれほどの人たちをこうして見送ってきたのだろう。今のC組は空っぽだが、橋下さんはずっとそこに一人でいたはず。一人減り二人減り、最後には自分一人しか残らずに。そして次の入学生達を待っていた。まるで不死身の人間がそこにいるかのように。





・・・とかいいつつ、ちゃっかり一月で卒業の橋下さん!いや、ちょい待ち、ひとつきでコンプリートは普通にすごいんですが!?他の組はまだ目処が立たずに、俺もちょっとした不調続きでとても間に合わなかった。

で、今月の悪夢ボックス再び・・・あのー。普通に検閲済みと書かれているのは、気のせい?もっとも、住所連絡先はもうかなり初期に交換済みだが。

間違いなく橋下さん。ちょっと嬉しすぎるこの待遇。

「浪花また泣いてるし。」

「う、うるさい!虫が目に入っただけ・・・」

「虫ぃ!?」

暴れそうになる先輩を久松と取り押さえつつ、毎度うまくないことを言う自分に腹がたつ。

「あー、でも注意書きあるぞ。」

ひっくり返して見たやっさんが、一応確認しておけと言って渡してくれた。

『やーほー、まさるん。ご存知橋下検閲だよー!まあ取り敢えず、感涙にむせんだ後勢いで開けないほうがいいことだけは伝えとくねー。

ざっくりいって脅迫文だから。読まずに燃やしてもいいと思うよー。』

親切・・・丸っこいへたれた字が忠告まで!

「読む?」

「・・・一応。」

心配そうなやっさん。大丈夫です、文字で人は死なないので。


えーっと。中身は薄っぺらい紙。宛名がないから、鮒羽ではない。読まなくてもいいかなとは思いつつ、橋下さんに読ませておいて自分が読まないのもなあと、取り敢えず読んで見る。

「大丈夫か?」

「平気。わざわざポストにまで運んだのが不思議なくらいのやつですよ。橋下さんの方が長文だし。」

鬱憤を溜め込むと人間、ろくなことをしないものだが。この箱に鮒羽からのものがないことの方が怖い。修学旅行は二月の初めの方にあるし。やめて正解だろう。


手紙の方は焼却処分ですが、封筒は永久保存版だよ、勿論。

あ、そうそう。部屋割りがちょっと変わったのだった。橋下さんと蒲原筋肉マッチョが抜けたことで、やっさんと久松が同室に。やっさん寝相悪いし安眠の保証はないが。先輩は中野が抜けてからずっと一人部屋状態のままだそうで。冬休み組が今年はいなかったので、相部屋にはならなかったそうな。

それから、こうなってからやっと気づく。最初の宴会の時は偶然かも知れないが、その時俺の異変に気付いたのは久松だけではなかった、ということ。わざわざ手紙が届きそうな時を見計らって、どんちゃん騒ぎ、というか、俺や久松のを一人で開けさせないためのものだったこと。多分長くいると訳ありの人を相手にすることも多かったのだろう、地味な心遣いが嬉しすぎて、また泣きたくなってくる。

まあ、橋下さん抜けてからも毎週ここに集まっているわけだけどね。

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