24.勉強会
さて、やってきた勉強会。松永さんと黒部さん、蒲原さんの話を聞きながらどんなクラス選択が有効かを話し合う。昼の弁当は各自持参。少しずつ集まる中で白板の前では菅原さんがポージングをきめていた。
「よし!揃ったな?では始めよう!俺はまず、特定の大事な人を守ることを任務とし、昼夜を問わず戦う。個人集団問わず、武装非武装問わない。つまり、いろいろ限定されない。限定されるのは己の身体のみだ!
で、俺は筋肉が頑丈で、ちょっとやそっとでは刃物でも傷つかない。もちろん、ぐさっと来れば別だけどな。あとは・・・銃とか。
で、だ。一度傷つくと治るのに時間がかかるからと言って、飛び道具みたいなものに頼るのかといえば、それは得策じゃないということだ!」
超ハイテンションで言い募る蒲原さんだが。
銃か・・・考えたくはないけど、西区の裏町ってとこでは割と普通に存在しているらしい。怖っ。
「つまり、選択では得意を伸ばすことを考えろ、ということかな?」
「谷崎さん、近いんだけど、ちょっと違うの。得意を活かす選択をする、ということよ。その時、得意なことが二つ以上あるとき、リスクが低い方を選択した方がいいわ。
例えば八重川君の場合、遠視を取るとしても・・・そうね、狙撃くらいしかできなそう。だけど、暗殺とかするわけじゃないなら、あまり利点はない。」
松永さんがなんか物騒になっている気がする・・・原因っぽい闇のオーラを放つ黒部さんの方はなかなか割り込めずに落ち着かなそうだけど。
「そうだな。遠視を矯正して、時間を気をつけつつ動体視力の方を取った方がいいか。」
因みにやっさんの目はDVA動体視力(目の前を横に移動する対象、例えば車とかを歩道から見る動体視力)、それからKVA動体視力(遠くから自分に向かってくる対象、例えば列車の真っ正面に立って見た動体視力)共に優れているらしい。他にも目に関しては色々とチートが起こっているらしいけど、唯一近くがほとんど見えないという、かなり深刻な欠陥がある。なんでも、矯正視力でいると無意識に目を酷使してしまうとかで、無敵タイム(?)は制限時間があるらしい。
「でも、実戦ではあまり特殊性が発揮されない場合もあるわよね。その場合はやっぱり、一般武術を選択した方がいいかしら。」
「でも、勇子ちゃんは夜の方がいいんじゃ・・・」
「そう、思っていたんだけど。仕事をするとしたらやっぱり都会の方がいいし、そうすると夜も普通に明るいじゃない?だから最近、この目の方は封印でいいかなって。目くらましも怖いし。」
タイヘン物騒だが、ここ最近荒れた地域が増えているのも事実で。なんでも、お偉いさんの方で小競り合いが続いているとかなんとか。
でもまあ、普通に生活していれば全く問題はないけどね。
「あと、浪花か。」
やっと出て来た言葉がそれの黒部さん。そういや俺、治癒能力三分の一とか言われてたけど、それは考えてみれば、特別アドバンテージがないってことになるんだよな。
「武器になりそうなのは?」
「えっと・・・柔軟性と瞬発力 、ですかね。あと、敵意を向けられれば一キロ以内ならわかるようになってます。」
すごいだろ、これ。伊達に何ヶ月も過ごしていたわけじゃないぞ?
「あ、でも。刃物はちょっと苦手で。」
こればかりはまだだめだ。自分で扱うには問題ないが、向けられると足が竦む・・・それ、普通にまずいのでは?これまでの会話の流れからすると。
「刃物!刃物ならそこは俺がなんとかします!俺、握力とかやっぱつきにくいから、足技と短刀みたいのでがんばる。そこは絶対俺が!」
神田君が頼もしい。非常に頼もしいけれども。学校とか大丈夫だろうか?
「銃とかなら、俺だってなんとかする。」
「やっさんこわー。」
銃をなんとかって。なんとかできるものか?『避けてみな』ってやつだよ?・・・どうするつもりか、聞くのがすごく怖い。
「あとは久松君だけかしら。」
「俺は持久力と全般的な力が強い。が、瞬発力や柔軟性、身の軽さに欠ける。 逆に言えば浪花とは水と油だな。」
「確かに。俺は持久力そんなないからな。」
え、そこ驚くところ?
「まさるんさ、比べる相手間違ってるって気付いてるー?」
橋下さん・・・え、でも俺久松より早くいつも息切れしてるんですが。
「浪花君。久松君は・・・こう言っちゃなんだけど、化け物じみてるわ。それと生身の人間を比べちゃダメよ。因みに持久力勝負ではあなた、相当いい線いってるわ。」
「勇ちゃんが言うなら間違いないよー。」
ゆうこさんだけは絶対お世辞とか言わなそう。
「なによ!まるで私が鬼教官みたいじゃない。」
「勇子ちゃんはそのままでいいと思う。」
なんとなくほんわかしていたら、大御所がヘラヘラしながら手を挙げた。言わずもがな、橋下さんである。
「あのね、俺ね、武術全般行こうと思うんだー。目的できたからー。あ、でもCの最後、俺だから安心してねー。」
なんていう人だ。これはますます気合を入れなければ。
「あ、そうそう、俺は特殊職コースで、薄くやろうと思うんだ。手に職あって、一応護衛もできる、って感じに。結構ここ、色んな資格取れるみたいでさ。」
方針転換の先輩。でもそんなコースまで用意されているとは、すごすぎるだろうこの学校。
「これで全員だな!」
夕暮れ時になり、解散かと思ったら・・・
本当、これだからこの人たちは!
突如知らない人たちによって運び込まれる巨大ホールケーキ。他のクラスの人に頼み込んでいたらしい。
これの計画に参加したがった神田久松を探して、俺がうろちょろしないか見張るために、やっさんが前部屋に来ていた、と。
「ちょっと遅くなっちゃったけどー。いつも掃除とか食事とかなんのかんのやってくれてるしー・・・」
「橋下さん、回りくどいし素直じゃない。」
「はははっ!くろべーの言う通りだなっ!浪花は頑張り屋だから、なにかしたかったのだ!先のお礼もしていないしな!」
涙腺崩壊。慌てふためく人々に必死で弁解するも止まることを知らず。最後にこんな風に祝われたのは・・・ああ、そんなことはどうでもいい。そのときよりきっと今日はいい日だから。
それからちょっとしょっぱいケーキを食べ、中からはちゃんとした食事っぽいのが出てきたりして、感動したりだった。
その間もなぜかやっさんに食べ物を口に放り込まれたり、久松に例のごとく皿の上をいっぱいにされたりで、とにかく楽しかった。
名残惜しくも宴が果てた後、いつもの2人プラスやっさんが部屋に来た。あの料理を作るのに、主に神田君がとんでもないことをやろうとしたという、その内容を聞いてある種の才能に感服したり、最初久松が全て破壊しそうになった話などを聞いている間に軽食をつくり、みんなに呆れられたのだった。
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