19.災難

久松アンドやっさん予想的中。先輩はあの夜、別れ話を切り出された。

ざっくり言うと、これ以上待ちきれない、今月中(と言ってももう数日)に戻って来ないなら別れる、と。卒業は無理だと素直に言うと、失望したみたいなことを延々と言われ、もうそれはいいから戻ってきてくれ、だと。人のいい先輩はもともと、ここを卒業したらそのまま三年に戻るつもり、延長した今でもそれは変わらず、留年という形で学校に残り、彼女さんと最後一年過ごすつもりだったそう。それは手紙でも述べ、電話でも伝えて了承済みだったにもかかわらず、その話。

それでも、なんの資格も得られずに戻るのはリスクの高すぎる選択であることを半分泣きながら訴えたところ、「新しく彼氏ができたから必要ないっていってるの。」

・・・もともと二股かけていたのが、本命が移ったのだろうとやっさん。キープには近くにいてもらわなければ、といったところ。

さすがの先輩も怒って自分から別れようと言って電話を切ったらしい。因みに明け方まで5時間近く話通しだったらしく、さすがに昨日は出てこなかった。

だから、筋肉はいいんだ。唐突ですが。間違いのない努力の結晶だからこそ、絶対にこいつらは裏切らない。しかもどんな金持ちがどれだけ大枚叩いたところで、怠けていては手に入らないのだ。病気でないかぎり完全平等。まあね、俺は蒲原さんのようなヘラクレスみたいな筋肉つかなくてちょっと不満なんだが。

とはいえ信用できるのは筋肉だけとは、なんとも前向きなのか寂しいやつなのかよくわからないのだけどね。


やっさん、神田、久松で、今度何かしてやろうかという話になっていたところで、案の定他の人々ものっかり、美味い料理を食べさせると神田が言えば、蒲原は恋は食べ物じゃ買えないのだとかよくわからないことをいい、楽しい話で盛り上がろうと橋下が言えば、桜田がそれは自殺しかねないと深刻な顔。各々失恋話持ちだそうかというところまできて、

「それは普通にやめたほうがいい」

と、坂本氏。いつの間にかおられたのでアドバイスを聞いたところ、

「それ以上のショックを与えるか、苛烈な運動で全て忘れるのが手取り早い。」

そんなものかと感心していたら、久松から呆れた目で見られたのはなぜだろう。

「まあ、ここでは新しい恋というのはほとんど不可能だからな。」

坂本氏後からぼそっと。男所帯ですからね。

結局その後虫取りに行こうとか、季節外れの肝試しがいいとか、なんかもう誰のためのイベントかわからなくなってきたため、坂本氏と山野辺氏に事情を説明、超過激三日間限定トレーニングを組んくださった。

いや、・・・普通に生きて帰って来られるんでしょうか。

1日目、普通に山登り・・・ではなく、鉛板かなんかで重くして登る、あれ。

2日目アンド3日目。問題はこれ。途中野宿を挟む、これ。もうここ山ですから、ほとんど秋というか、冬なんです。つまり変な虫に目をつけられる心配はほとんどない、by橋下。蜂の巣はないそうですから。それでも虫除けはもちろん、食事各自携帯。これが負荷ですね。テント張るなんてのは費用も時間も重量もかかりすぎる・・・故に、木の上ででも寝ろと。それから熊よけの鈴と匂い、それから万が一のために動物にやるための生肉など腰からつるさげて。

・・・いや、普通にやめましょうよ。超過激って。そっちに行っちゃうんですか。先輩にしてみたらただの災難・・・いや、これこそ失恋の上をいく衝撃ということか!

あ、因みにSOSのための無線は持たされました。その日に行くのはいつもと違う山みたいでね。小屋行きではないのです。

何も知らない先輩は死んだ魚の眼で今日をなんとか乗り切りましたが・・・明日からそれでは済みませんのでがんばって!

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