17.やり過ぎはコメディー

・・・山野辺氏がいなかったのは、例の悪夢のポストのためでした。中身の回収は一月ひとつき二月ふたつきに一度だそうで。翌々日特訓の後に道場で渡された。

俺はさすがにいろいろ期待することはやめ中を見ると・・・

「わー。こりゃすごいな。」

関心関心。夏休み終わっても登校して来ないからかな、憂さ晴らしエスカレートといったところか。逆にここまでくるとアッパレとしか言いようがない。

「 どうかしたか?うわっ。それ、もしかしなくても・・・動物の骨、と、なんだ。」

「この数のセミの死骸、集めるの大変だっただろうな。ご丁寧に死後数日の鳩まで。」

動物の骨といっても、みーちゃんのではないはず。なんせ奴らも知らなかったからね。でなければとっくに悲惨なことになっていただろう。

「しかしこれやったやつも、わざわざ冷凍ボックスまで用意して凍ったチャバネ〇〇まで大量に運ばなくても。これ全部取ったとか。どんだけ暇なんだ。」

久松と微妙な会話を繰り広げていると、見終わったと思われる橋下さんと、にやけた先輩が寄ってきたが・・・

「す、ストップ先輩!これ見ない方がいい、絶対!見ると怖い!死ぬ!」

駆逐してやるとか叫びながら処構わずやるこの人をみたら、この、虫だけでもどれくらい入っているか知れないボックスを見せようという気はおきないだろう。

「虫が入ってるわけでもあるまいし・・・」

「氷漬けでも入ってるから!やめたほうがいいですよ!」

青ざめる先輩、二歩下がる。

「しかし特にこの蝉とか、そのまま捨てるのもったいないな。動物の餌・・・とか。」

「久松、考えてみろよ。こんなに大量に森に捨てたら、生態系壊れるぞ。普通に捨てよう。」

「生命は土に還ってこそだ。生態系の一員として死なせてやるのが親切だ。」

「その結果他の生き物が無駄に増えて、植物食い荒らしたりしたらどうすんだよ。」

俺と久松が不毛な言い争いを繰り広げていた時、後頭部にバシッと。

「二人ともまたー。懲りないねー。父さん、大安売りのスイカ大量に送ってきたから冷やして明後日みんなで食べよーかーって思ってたんだけどなー。」

「浪花が生物の授業に振り回されたのがいけない。」

「は?配慮しない久松が無神経なんだ!」

「・・・吊るすよ?」

橋下さん、普段はゆるいが怒ると怖い。平謝りしていたら、ボックスに目をつけられた。

「これ、すごいね。」

「せんぱーい!何送られて・・・げっ。」

神田君も眉をひそめる。しかし困るのはこの有機物たちが思いっきし紙類の上に置かれているということで。まあ多分なにもないだろうけど。

「今時まだこんなことあるんだー。前俺のマンションで一人似たようなことされている人いたからなー、でも、本当暇だね。」

橋下さんも同じ感想。

「あ、でも鳩丸ごとはいいね。レチョンマノックって料理があるからー。」

「いや、これ多分近所の鳩よけに引っかかって死んだやつだから、あんまりおすすめは・・・」

「俺ってどんな位置付けなの!? 冗談だよー。それに鳩じゃなくて普通鶏だし。あ、やっさん!ねえこれすごいよー?」

「・・・これやったの、前鮒羽とか言ってたやつか?」

「多分・・・違う。あいつはもうちょっとえげつないから。」

「まだいんのかよ。」

「うん。でもここまであからさまだと腹も立たないかな。」

「ち、ちょっと待って先輩!こ、こ、これ以上ひどいとかあるの?」

「まあ、物としてはないかもしれないけどね。なに?強いて言うなら・・・」

蒲原さんの悲鳴に驚いてすっ飛んだ。地響きレベルの物凄さ。改めて、やっさんが小屋を担当してくれてよかったと思う瞬間。

「なにごとー?」

「は、橋下さん!こ、こ、鯉道先生、連載、休止って。」

「鯉道?そんな先生いたか?」

「谷崎、あれだ、ほら。BL作家で蒲原さん大ファンの。」

久松のフォローで思い出す先輩。しかし、そこまで思い入れるならいっそボディーガードにでもなればいいのに。

「最近ストーカー、ひどくて、彼氏、全然だめで、こ、怖くて仕方ないって、投稿、あったばっかだった!」

「蒲原さん、卒業したらその人の護衛ついたらどうですか。」

目がまん丸の筋肉。まさにデジャビュ。

「なにわー!俺の救世主かあああ!俺、精神鍛えるためにここ入ったけど、目的なくてダメだったんだっ!感謝するぞおおおお!」

号泣しながら抱きつかれた。力加減だめなの久松だけじゃないだろうというレベルで。

「・・・骨折れる」

「筋肉に聞いても分からなかったのだ!浪花よ、これから何かあったら俺を頼るよろしい!俺は!」

やっと片腕外れたが、もう片方はがっちり。その片腕?ガッツポーズ。

「俺は!鯉道先生を守り抜く!絶対だっ!!きっと例の展開も、それが原因だっ。あの方の素晴らしい作品を取り戻すため、俺はここを卒業するー!!」

やっさんと久松が救出してくれ、やっと解放された。そこで思い知る筋肉の偉大さ。骨はちゃんと筋肉が守ってくれるのだ!

「眠れる獅子起こしちゃったねー、まさるん。」

橋下さん・・・あなたこそちゃんと起きるべきだろうよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る