11.C組と課題と

中野くんの門出の会第2弾と、俺と久松、先輩のC組編入のお祝いをした翌日。詳しい成績が開示されて愕然。俺は実質久松と同点で合格していたのだ。

そう、神田くんね。彼はやはり足の筋肉以外付きにくいそうで、三月みつきは待たなければ間違いなく体を壊すと脅され、泣く泣く残留になりました。なんだかもう、サバイバル。

それで、今日からC組なんだけど・・・寝ている久松を置いて出て来て、30分の新メニューをこなしていた俺の元に、松永さん。

運動しながら話す間に、彼女が残留になっているのは、戦い方の選択に迷いがあるからだという話を聞いた。

人の目という脅威がネックになる松永さんの場合、遠方からの護衛が最も現実的なのだが、世に言う霊感のようなものが強い彼女にとって、人を殺してしまう可能性の高いそれが怖いんだとか。

・・・いやいや、別に無理に戦わなくても、現場の援護に回れば良いのでは?司令塔的な。

正直に言ってみたら面食らった顔になって、何度も頷いていました。

それから暫くして徐々に人は集まり始め、黒部さんは闇討ちコース・・・ではないですが、夜間専門のようなクラスに無事入られたよう。二十名近くいた人々は消えたが、黒部さん以外の元の残留組は悉く残留。

久松に起こさなかったことを怒られながら教師を待っていたら、俺たち新C組だけ残され、元々いた人々だけトレーニングに入ってしまった。

「私はこのC組の責任者の、山野辺やまのべだ。もう知っているとは思うが、ここでは己の能力と、身体的な特質を加味した上でその後のクラスを選択するための特訓をしてもらう。」

俺は多分、体術系になるのだろうな。わからないけど。それにしてもこの先生、ここでは珍しい細マッチョ。

ちょっと長くなるぞといいながら、続けた。

「しかし、忘れないで欲しいのはこの学院が、兵士や武器を量産するための場ではないということだ。このクラスでさらに鍛えれば、下手をすると人を一発で意識不明にできるようになるだろう。そこで、だ。使い所を確認しておきたい。

不特定多数を標的にするな。自分に向かって襲いかかってきたとして、自分が死なない程度に防衛はしても、決して相手を傷つけるな。武器は人を傷つけるためにしかないことを忘れてはならない。力を振るうのは、あくまで守るべき存在が危機に瀕しているときに限ること。それも、警察が来るまでの時間を稼ぐことに集中し、決して相手に危害を加えないことだ。

例えば、熊の親子に、守りたい人間Aと遭遇したとしよう。まず、Aに覆いかぶさって自分をサンドバッグにするのは論外だ。Aの精神的負担と、それからお前らが力尽きた後Aも襲われ共倒れになる。故に応戦して時間を稼ぐのだ。しかし襲ってきた母熊には家族もある。それを殺していいことになるか?・・・人ならなおさらだ。まあ家族がなくたって同じだがな。そういう微妙な力加減がきくようにするために、力を制御するための精神力とさらなる力が必要なんだ。

それで、まず久松。お前はどういう敵を想定する。」

「・・・そこまで強くはないが、徒党を組んできそうな奴らだ。」

どんなだよ、それは。百姓一揆か?打ちこわしか?

「時間は。」

「主に夕方から・・・夜は多分ない。昼になるか。」

「相手が武装している可能性は。」

「武装といっても、たぶん包丁とかバット止まりだろう。」

こいつの標的はヤンキーかなんかか?しかも真昼間に暴れるらしい。

「まあいいだろう。それじゃあ浪花。」

「敵は多分、武装した腕利きのはず。集団でも個人でもあり得る。時間帯は限定されません。」

こう言うとすごいアバウトだが、警察が敵に回る可能性を考えると、ちょっと恐ろしい。

「 ・・・お前、ギャング相手にするのか?」

「久松、おまえこそどこのヤンキーとやりあう積りだよ!」

溜息をついた教官山野部が軽く俺たちを諌めると、先輩にも同じ質問を投げかけた。

「武装をしている場合は多分夜間。強いか弱いかわからない。多分昼夜は問わない。」

なるほど。彼女さんの敵というわけですか。

「・・・それでは、取り敢えず君らには守りたい特定の人物がいるということでいいな。では、殺したいほど憎い人間、または一発殴らなければ気が済まない人間はいるか。」

即座に首を横に振ったのは先輩だけだった。

・・・これまで俺は弱いから、暴力を受けていた。それでは、強くなったら?

考えてみたらわからない。逃げることすら念頭になかった深琴くんと出会う以前、逃げるように、抵抗の意思を見せるようにはなった以後。俺はここを出た後どうしたい?

俺は首を振った。

憎くて、辛くて、痛くて、悲しくて、寂しくても、俺は彼らをどうこうしようとは思わない。俺はどうしたって奴らを信じたいらしい。一発殴るのも手かもしれないが、下手をすれば深琴君に跳ね返る。必要のない怨恨を彼に与えたくはない。

久松が首を振る気配もした。

「そこの二人には該当する人物の心当たりがあり、それを揉み消す理由をつけたな。それは理性だ。逆に理性が飛べば即刻警察行きだ。

しかし谷崎。お前に現在恨み辛みがなかったとしても、これから先 生まれないという保証はどこにもない。現れた瞬間に血管が切れればやはりブダ箱行きだな。」

朗らかに笑う先生。しかし警察とやり合うかもしれない俺はそうでなくとも敵に回る可能性があるわけだ、怖い怖い。

「別に、恨みに思う気持ちを消せというのではない。ただ、取り敢えず久松、顔を思い浮かべただけで拳に力が入るのは失格だ。目の前にすれば打ち消した弱い理性など吹っ飛ぶ。

知らない誰か相手に戦う時、そいつが憎い相手以上の存在なはずはないな。だから人形相手でも、そいつらの顔を思い浮かべても力を制御できるようにしろ。それから、相手の実力を見抜くことも重要になる。そのためには

これまで以上に厳しい時間になりそうな予感を漂わせながら、教官は去っていった。

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