第14話山田くんと会話…えぇ!

 「聖戦…?テストのことですか?結構出来ましたよ!」


 私は笑顔で山田君に伝えます。結構、いえ、本当はすごく出来たのですが、あまり正直に伝えると、もし相手が出来ていなかったときに相手が傷ついたら申し訳ないなと思うので、控えめに伝えます。しかし山田君にはそんな遠慮する必要もなかったようで、山田君は安心した表情を浮かべながら、そうか。と頷いた後こう言いました。


 「お前はやはり私と並び立つ存在だな!私も今回の聖戦は良い出来だったぞ。」


 山田君にそう言われると、なんか誇らしいようなうれしいような気持ちです。同じ超能力者に認められるのは、たとえそれが超能力の事じゃなかったとしてもうれしいです。特に“並び立つ存在”と言われたのは山田君の方が強い能力者ということを踏まえると本当に…本当に。


 「そうなんですね!ファ、山田君は勉強出来るんですね。」

 

 危ない危ない。ついファントムさんと呼んでしまうところでした。ファントムさんと呼ぶのは二人っきりの時だけにしてくれと言われたのに!幸い隣にいた咲良ちゃんには気づかれなかった様子。


 「“力を持つ者。しかして叡智を持たざる者なれば即ちただの愚者なり”だからな。勉強も出来なければ永久なる闇(エターナルファントム)としてみんなを守る事は出来ないからな。」


 なんだか難しい事を山田君は言っているようですが私にはその意味はよく分かりません。どこかの本からの引用でしょうか。だとしたら山田君もよく本を読んだりするのかな。今度どんな本を読むのか聞いてみようかな。

 そんなことを思っていると、山田君は不敵な笑みを浮かべながら話を続けて、


「ならば同胞よ、どちらが優れた戦歴を残すことが出来たか来週、石碑に刻まれた記録(とくてん)を元に勝負しようではないか!」


と言うのでした。


 私は山田君がなんと言ったのか、頭の中で解読していきます。山田君の言葉は所々分からないところがあって、それを自分なりに翻訳しないと意味が分からないことがあります。私が翻訳した言葉が、実際に山田君が伝えたい意味で合っているのかは分かりませんが、今まで山田君と話していて会話が通じないことはなかったので、今のところはどうにか山田君の会話について行けていると思っていても良いでしょうか。

 IQが20違うと会話が成立しないとよく言われますが、そういうことなのでしょうか。


 戦歴っていうのはテストの結果のことですよね…。その次の石碑に刻まれた記録というのは全く意味が分かりませんが、テスト結果という事を加味すると恐らく、恐らくですが上位30名が載っている掲示板のことかと推測します。


テストの結果で勝負するなんて山田君には悪いですけど、あんまり乗り気はしないです。そう思って否定の言葉をかけようと口を開きます。


 「勝負ですか?…あの…私、あんまり点数で競うのは好き…。」


 「うむ?そうか!では来週以降、戦歴の公開を楽しみに待っているぞ!」


 しかし私が最後まで言い切る前に山田君はそれを遮って言葉を発してしまいました。

ナハハハハ。と高笑いをしながら帰って行く山田君。声が小さすぎて山田君には聞こえなかったのでしょうか。それとも自分の世界に完全に入りきってしまっていた為なのか。そのどちらでもないのかは定かではありませんが、とにかく私の意思に関係なく、山田君と競うことになるのは確定したようです。


 「そ、そんなぁ…。」


 勉強の得点とはいえ友達と争うことに嫌悪感があって落ち込んでいると、隣にいた咲良ちゃんがなにやら不穏なオーラを出し始めました。


 「山田のやつ!いきなり結衣に話しかけたと思ったら訳の分からないこと言って!それに結衣の返事も遮って無理矢理逃げられないようにするなんて。ほんと最低!」


 わ、わぁ!怒ってる!?しかも結構本気のやつじゃ…。

 山田君と咲良ちゃんがけんかするなんて事にならないよう仲裁に入らないと!

 二人とも私の大事な友達だから!


 「あ、あの、たぶん山田君は悪気があってそんなことをしたわけじゃないと思う…よ?私の声小さかったから聞えなかったんじゃないかな?」


 あくまで私が原因だと言えば咲良ちゃんも怒らないはず!っていうか怒らないでー!

 しかし私のそんな思いと行動とは裏腹に咲良ちゃんはますます怒気を高めたようです。


 「悪気があったらもっと最低よ!山田、何言ってるか全然わかんないし、やっぱりあいつおかしいやつよ!」


 山田君の印象すごく悪くなっちゃった。咲良ちゃんと山田君の二人にも仲良くなって欲しいのに…


 私が山田君をかばおうと色々咲良ちゃんに伝えましたが、私が言えば言うほど咲良ちゃんは怒りが収まらない様子。しかしながら怒りはそこまで長続きしない性格なのか、最終的に少し落ち着いて、今度あいつが結衣に向かって変なこと言ったらとっちめてやるんだから!!と言って怒りながら意気込んでいました。





 「じゃぁ結衣またね!」


 「うん。また明日。」


 咲良ちゃんと一緒に校門から出て、それぞれ家が別の方向なので二手に分かれます。先ほどまでの怒りの表情とは違い、輝くような笑顔で手を振って私にさよならの挨拶をしてくれる結衣ちゃん。やっぱり結衣ちゃんはかわいいなぁ。と、同じ性別なのに思ってしまいます。私もあんな風な笑顔が出来たらな…。少し咲良ちゃんのことをうらやましく思いながら下校しました。


 家に着いて、玄関を開けて靴を脱ぐとリビングでテレビを見ているお母さんがいました。そして、ただいまと挨拶するとお帰りと返事があってお母さんが私の顔を見ると一言。


「あらどうしたの?結衣ちゃん。そんなうれしそうな顔して良いことでもあった?」


 いつも通りの優しい笑顔で私に話しかけてくれるお母さん。今日返してもらったテストをお母さんに見せます。


 「あのね。お母さん。今日、この間あったテストが返ってきたの。はいこれそのテスト。」


 「そうだったの。あらあら!全部90点以上じゃない!まぁ!数学は100点!?」


 私のテストを見てとにかく驚くお母さん。そしてすべてのテストに目を通した後、私の目を見て褒めてくれました。


 「よく頑張ったわね。結衣ちゃん。あなたはお母さんの自慢の娘だわ。」


 「そんな大げさだよお母さん。」


 お母さんのあまりの褒め言葉につい否定の言葉をかけてしまいます。お母さんはそんな私の言葉を否定して言います。

 

 「ううん。結衣ちゃんは。パパとママの自慢の娘だわ。どこへ出しても恥ずかしくないもの。結衣ちゃんは昔から自分に自信がないのが欠点ね。もっと自分に自信を持って良いのよ。」

 

 その言葉に私は何も言えず、そうかな。とその場を濁してしまいました。自分に自信がないわけではありませんが、自分が特別優れているわけではないと思っているのでそう口にしてしまいました。


 「よし!今日は結衣ちゃんの為に腕によりをかけてご飯作るからね。」


 腕まくりのジェスチャーをするお母さん。その仕草に私はクスリと笑って、うん、待ってるね。と言って鞄を持って自分の部屋に向かおうと階段を上がるのでした。


 「あ、結衣ちゃん手洗った?」


 あ、忘れてました…。

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