第5話超能力使用


 そして夜は更け今日は身体測定の日です。今日の目標は山田さんと話すこと。昨日は咲良ちゃんが話しかけてくれたので話せませんでしたから。


 「おはよう。今日も早いのね。」


 一階のリビングに行くといつものようにお母さんは起きていて台所で朝ご飯を作ってくれています。そして私が起きたことに気づくと私に声をかけてくれます。お母さんは、今日も早い。とそう言ってくれますが、お母さんの方が早起きです。私とお父さんよりも早く起きて朝ご飯と、お父さんのお弁当を作る。それを当たり前に毎日欠かさずやるのは本当にすごいです。

 

 「朝ご飯もう出来るからパパ起こしてきてくれる?」


 「分かった。起こしてくるね。」

 

 お父さんは寝起きが悪いのでいつも私かお母さんが起こしに行ってあげないと自分からは絶対に起きません。今日はまだお母さんが朝ご飯を作っているので私が起こしに行きます。


 「お父さん起きて。朝ご飯出来てるよ。」


 そう言ってお父さんの体を何度も揺らしてようやくお父さんは目を覚まします。

 

 「もう朝かい。今起きるから先に下に降りてていいよ。すぐ行く。」


 お父さんにそう言われたので私は下に降りてお母さんの朝ご飯の支度を手伝います。手伝うといってもお母さんはもう料理のほとんどを作り終えてしまっているので私に出来るのはせいぜい食器を出したり、料理をテーブルに運んだりすることぐらいです。


 私とお母さんで朝ご飯を支度しているとお父さんが下に降りてきて、私とお母さんにおはようと挨拶をします。そしてみんなで席について朝ご飯を食べ始めます。


 朝ご飯を食べ終えたら、朝の身支度をします。


 今日はジャージ持ってくれば後は何もいらないよね。後は筆記用具と本だけ持っていこうかな。


 そう考えて鞄にペンケースと、昨日咲良ちゃんと友達になるきっかけを作ってくれた『夜、朝霧家にて』を入れて、学校指定のジャージとTシャツ、短パンが入っている少し小さめの手提げバックをソファーの横に忘れないよう置いておきます。


 身支度を終えるとソファーに座って登校するまでテレビを見ながら少し休憩をします。


 そうしているうちにお父さんが会社に行く時間になってしまいました。

 仕事用のスーツに着替えて私とお母さんに行ってくるねと声をかけます。


 私とお母さんは玄関までお父さんを見送ります。


 そのあと私も登校する時間になり今度はお母さんが私の事を見送ってくれます。


 「じゃあ行ってくるね。」


 「はい。行ってらっしゃい。今日もお昼ご飯作っておくからね。」


 笑顔のお母さんに見送られて私は学校に向かいます。


ジャージが入った手提げバックを家に忘れたことに気づかないまま。





40分の登校時間をかけて学校に到着して教室に入ると、まだ人は4人しか来ていませんでした。今は8時ちょうど。朝の学活が始まる8時30分までゆっくり本でも読もうかと思って鞄から本を取り出そうとした瞬間に私は気づいてしまいました。

 

 ジャージが入ったバックを持ってくるのを忘れました。


 心臓の鼓動がクラス中に響き渡るんじゃないかと錯覚するほど心臓が大きく鼓動を始めて、頭の回転が急加速していくのが分かります。


 ああ、持って行くのを忘れないようにってソファーの横に置いておいたんだっけ。何で鞄は持ってきたのにジャージの入ったバックだけ持ってくるのを忘れてしまったんだろう。

 私のバカバカバカ!

 ジャージを着てくれば絶対忘れることなかったのに、制服を着て登校しなきゃいけないなんて・・・

 そんなこと言っても仕方ないしどうしよう。こういうときは家に帰って取りに戻る?いいや、取りに帰ってまた学校に行くのにどれだけ急いでも一時間以上はかかっちゃう。お母さん免許持ってないから車で送迎してもらうわけにもいかないし・・・

 そうだ!こうなったら超能力使って瞬間移動(テレポート)するしかない!超能力は使わないようにしてるけど非常事態だから仕方ない・・・よね?

早くどこか人目につかないところで瞬間移動しないとクラスのみんな来ちゃう・・・! 

 端から見ると私は、突然顔が青くなったと思ったら頭を横に振る。頭のおかしい人です。


 後で冷静になって考えてみるとわざわざ超能力なんて使って取りに戻らないでも、保健室に行けば服一式を貸してもらえるので何ら焦ることはなかったのですけど、人って焦ったときほど普段じゃ考えつかないような事を考えついてしまうものです。


 急いでトイレに行って。瞬間移動して。それからジャージを取りに戻って。もう一回瞬間移動して同じトイレの個室に戻ってくれば何も問題ない!

 

 どう考えても問題しかない行動なのですが、焦りに焦った人の思考はそれをよしとしてしまうものです。


 そうと決まれば早くトイレに向かわないと!


 私が席を立とうとしたその時、結衣おはよう!と声をかけられました。

 

 咲良ちゃんだ!こんな時じゃなかったらすっごくうれしいのに今はそんな感情が生まれる心の余裕がないです。

 

 「うん!おはよう。」

 

 挨拶は自然に出来ていたでしょうか。咲良ちゃんに挨拶をした後、席を立って教室出ようとします。


 「あれ、結衣どっか行くの?トイレ?」


 「うん。」


 「じゃあ私も一緒に行くよ!」


 ま、まずいです。一緒に着いてこられると超能力を見られる可能性が生まれてしまいます。これは断らないと。


 「いや、大丈夫だよ!」


 「そっか。了解!」


 私が断るとあっさりと引いてくれました。

 

 そのことに安堵しつつ私は一人でトイレへ向かいます。


 トイレに入ると、鍵をかけて家に瞬間移動をしました。私の瞬間移動は知っているところにノータイムで移動できるという超能力です。私が持っている物や着ている服も一緒に瞬間移動します。私は自分の超能力も完全には理解していません。私は感覚で超能力を使っているので、未だに分かっていないことも多く、ちゃんと理解するためには国の調査機関にでも調査を依頼しないといけないんでしょうが、私の意思で両親以外の誰にも伝えていないのでそんなことをするわけにはいきません。そもそも国の超能力に関する調査機関なんて存在しているのかも分かりません。少なくても公に出ている情報では出てきていないのは知っています。

 

 家の玄関に瞬間移動して上靴を玄関に置いておきます。お母さんにひどく驚かれましたが、ごめん!急いでるから!とだけ言ってジャージの入ったバックを持ってそのまま元いたトイレへもう一度瞬間移動をしました。


 なんとかなりました・・・


 手にはしっかりと手提げバックを持っており、念のため中を確認しましたがジャージがしっかりと入っていました。瞬間移動成功です。


 ホッとして教室に戻ってくると私がいない数分の間に数人が登校をしてきたようで教室内は少し賑わっていました。席に座ろうとするとどこからか視線を感じたので、視線を感じる方向に気づかれないように意識を向けると咲良ちゃんがこっちを見ていました。


 なんでこっちを見ているんだろう?


 こっちに来ることもなく、自分の席に着いたまま真剣な表情で私の事を見て、なるほどね。とつぶやいているのが聞こえました。

 

 何に対してのなるほどなのか、その意味を考えている内に一つの答えが浮かび上がってきました。


 もしかして私が超能力者ってばれました!?

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