第4話お父さんとお母さん

 よくよく考えればまだ明日も明日以降もいつでも山田さんと話す機会はあると思い直して、私は家に帰ることにしました。


 私の家は学校から少し離れた住宅街にある一軒家でそこには両親と私の三人で暮らしています。お母さんはいわゆる専業主婦というもので、いつも家事をやってくれていて、ご飯もおいしいし、いつもニコニコしていて大好きなお母さんです。お父さんは会社で働いているサラリーマンで、毎日大変なのにいつも家の中では悪口も言わずお母さんと一緒で優しく、ニコニコしています。お父さんも私の誇りです。こんなすてきな両親の元に生まれてこれて本当に良かったと思っています。


 話を戻して、私の家は学校から徒歩40分と、同じ学校に通っている生徒の中では少し遠いけど運動系の習いごとをしてこなかった私にとっては良い運動になるし、考え事を良くする私にとっては、登下校の時間を使って考え事をするのは効率的ではないかとポジティブにこの40分の登下校を使うことに決めました。

 しかしながら、実際40分間歩き続けるのは大変で家に着いた頃にはもう足がパンパンになってもう動けないと家の玄関で座り込んでしまいました。


「お帰り。以外と早く帰ってきたのね。ってどうしたの!座り込んで!何かいやなことでもあった?」


 家の扉が開く音が聞こえたので私が帰ってきたとお母さんが私のことを出迎えてくれたのですが、私が座り込んでいるのを見ると、驚いた顔をして、私の顔の高さまで目線を合わせて心配してくれました。

 心配してくれるのはありがたいんですが、中学生になった初日からこのような心配をされるのは恥ずかしいです。しかも実際はただ体力がなくて疲れてしまっただけ。すごく恥ずかしい・・・


「いや、ちょっと疲れちゃって。この間までは学校まで10分ぐらいだったのに一気に家と学校の距離が開いちゃったから。」


「あら、そうだったの。てっきり結衣ちゃんが自己紹介で失敗でもしたのかと思っちゃった。」


 私の態度から自己紹介で失敗してないと分かった上で、こうやってお母さんは私のことをからかってきたのが分かる。


 お母さんは昔から私が何を思っているのか、ことごとく当ててしまう。


 「お母さんは結衣ちゃんのようにたくさんの超能力は持っていないけれど、結衣ちゃんが何を考えているのか当てる超能力は持っているわ!」


 昔にお母さんが私に言ってくれた言葉。あれは比喩ではなくほんとに私の心を読む超能力をもっているんじゃないかと思うときが多々あります。

 今もどうやって自己紹介で失敗していないのかを確信したのが全く分かりません。

 

 「自己紹介は問題なかったよ。それどころか聞いて!お母さん!私友達出来たの。」


 さっきまであんなに疲れていたのに体のどこにそんな元気が残っていたのかというほど自分でも分かるぐらい力強い声でお母さんに伝えます。


 そう言うとお母さんはまた目を大きく見開いて優しく笑って私の頭をなでてくれました。


 「そう。じゃぁ初めての中学校はどうだったのかお母さんに教えてね。玄関で座ってないでリビングで聞かせて。あ、ちゃんと洗面所で手を洗ってからね。」

 

 中学生にもなって頭をなでられるのは恥ずかしいですけど、お母さんの愛情を感じられるこのスキンシップは嫌いじゃないです。


 お母さんに今日会ったことを話すため、私は立ち上がって洗面所へと歩いて行くのでした。


 「あ、そこに置きっぱの鞄はちゃんと自分の部屋まで持って行くの忘れないようにね。」


 はい。





 こうしてお母さんと一緒に少し遅めのお昼ご飯をとりながら、今日一日学校で会ったことを説明した後、私は二階にある自分の部屋に戻りました。明日の学校の準備や、学校の勉強をしていると、お母さんが二階にいる私の事を一階から呼びます。時計を見るといつの間にか時間は経っていて夜ご飯の時間になっていました。

学校の話で一番お母さんが驚いていたのは山田さんの話で、私がクラスメイトに超能力者がいる!と言うとひどく驚いた顔をして、結衣ちゃんより強い超能力を持ったクラスメイトがいるの?想像も出来ないわ。と言っていました。私も驚いているのでお母さんと一緒にうなずきながら、今度は山田さんとも話してみたいと私は話しました。


 二階から下に降りるとちょうどお父さんが帰ってくるところでした。いつもお父さんは夜ご飯の時間になると帰ってきます。お父さんが夜ご飯の時間に帰ってきているのか、お母さんがお父さんの帰宅時間に合わせてご飯を作っているのか。二人は連絡を取り合っているわけでもないのに毎日ぴったりです。

 ご飯は家族みんなで、が私の家の暗黙の了解です。


 「ただいま。ママ。結衣。」


 「お帰りなさいパパ。」


 「おかえりお父さん。」


 「パパ聞いて。結衣友達が出来たんですって!」


 「そうかそうか。それはよい知らせだね。パパにも後で教えてくれるかい。」


 そう言ってお父さんは会社で着ていく服から家用のラフな服に着替えるために二階の両親兼用の部屋に向かっていきます。


 ご飯の席で私はお父さんにもお母さんに話したのと同じ話をしました。お母さんと反応が似ていて、二人はお似合いだなと娘ながらに思いました。


 「そうか。その山田君が結衣と同じ様に超能力を持っていると自分から言ったんだね。」


 「うん。実際に超能力を使っているところをハッキリと見たわけじゃないけど、あの場面で嘘をつく理由もないしほんとだと思うよ。」


 「うーん。パパとしては実際に超能力を使っているところを見るまでは山田君が超能力者だとは信じることは難しいけど、もし山田君が本当に超能力者だとしたら結衣にとっては本当の意味でお互いにとっての理解者になれるかもしれないね。」


 お父さんはお母さんと違って山田さんが超能力だとは信じてはくれないみたいですけど、私は山田さんの事を超能力者だと信じています。


 「だから明日山田さんと話して見ようと思うの。」


 ごちそうさま。と付け足して私は食べ終わった食器をシンクにおいて自分の部屋に戻ろうとしました。


 あ、そうだ結衣。と、お父さんが私を呼ぶので階段からお父さんの方向を見ると、


 「遅くなったけど入学式おめでとう。すてきな中学校生活になるといいね。」


 私は笑顔で頷いて自分の部屋に戻るのでした。

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