第3話友達?
~笹森結衣視点~
なんとか自己紹介を終わらせました。拍手ももらえたし自分で言うのも何ですが成功したのではないでしょうか。
挨拶をしているときにチラチラと山田さんの方を見ていたのに、山田さんとは目が合わず全く気づいた様子がありませんでした。少し残念なような恨めしいような。
少し時間は経ち、皆さんの自己紹介が終わりました。今日はこれで学校は終わりです。学校が終わったら真っ先に山田さんの所へ行って友達になりに行きましょう!山田君も超能力を持つ人のようですし、きっと友達になってくれると思います!
「よしみんな自己紹介終わったな?ここにいる32名がこの1年3組のクラスメイトだ。みんな仲良く一年間過ごしていこうな。明日は身体測定だから学校指定のジャージを持ってくこと!ジャージで学校に来るのは禁止だからな。気をつけるように。では今日は帰りの学活は省略で解散!はいみんな起立!気をつけ!さようなら!」
松村先生がこのように言って生徒を解散させました。他の生徒達は学校が終わったのに帰らずに友達と話しています。私は友達がいないので、山田さんを目で探すと山田君はもう鞄を手にとって席を立とうとしていました。
ま、待って!私、あなたとたくさん話したいことがあるの!
そう思うのですが言葉には出来ず、席もだいぶ離れているので山田さんの行動を止めることが出来ません。もちろん超能力を使えばその限りではありませんが、家以外で超能力を使うことは極力避けているので使うわけにもいきません。
自分も席を立って山田さんを追いかけようとすると、ねぇ。と誰かに声をかけられました。私に声をかけた?いや勘違い?とも思いましたが、背中を指でトントンとされているので私で間違いないでしょう。
しかし、一体誰が私なんかに。そう思って後ろを振り返るとそこにいたのは、自分が先ほど友達になれるかどうか頭の中で考えていた長内さんでした。全く予想もしていない行動に体が緊張して背筋が立ったのが分かります。
「ねぇ、笹森さん。朝『夜、朝霧家にて』読んでなかった?あれ私も好きなんだ!」
『夜、朝霧家にて』は朝霧家の人が次々と謎の死を遂げていくサスペンスホラーなのですが、メジャーな本ではなく、この本も作家さんも世間にはあまり知られてはいません。自分は好きな作家さんで、なかなか売れずに書いたのは自分ではないのにもどかしい思いをいつもしています。
まさかクラスメイトに自分以外でこれを読んでいる人がいるなんて思いもしませんでした。
「そうなんだ!私も好きなの!この作家さんいつも面白い小説を書くから。」
「私もその作家さんの本は全部買ってるよ!自分も読んでいる人を見たことなくてびっくりしちゃった。いやー。笹森さんとは趣味が合いそうな気がするよ。結衣って読んでもいい?」
頭を軽くかきながらそう言って、私に微笑みかけてくれる長内さん。突然下の名前で呼ばれた物だからびっくりしてしまいました。両親以外に下の名前で呼んでもらったことは久しくなかったため、呼ばれなれていないのです。
「う、うん。結衣って呼んでください。えっと長内さんですよね?」
「いや、咲良でいいよ。友達はみんなそう呼んでるし。」
「わ、分かりました。では咲良ちゃんこれからよろしくお願いします。」
私がそう言ってお辞儀をすると、咲良ちゃんは吹き出すように笑って、
「結衣って意外と面白い性格してるね。うん、これからよろしく!じゃ私行くから。」
じゃあね。と手を振って咲良ちゃんは教室から出て行きました。
こ、これは友達になれたといって良いのでしょうか。少し不安ですが明日わざわざ、私たち友達になりましたか。なんて聞くのもめんどくさい人だと思われてしまいますし、友達になったと思っていいですよね。そう思いましょう!
小学校の頃には出来なかった、待望の友達があっさり出来てしまい、体から力が抜けたように感じました。このように感じるなんて、私って自分で思ったよりも友達を作ることに気が張っていたんだなぁと気づきました。
友達が出来て内心ウキウキな気持ちなんですが、なんか忘れているような気がします・・・
何を忘れてしまったのか咲良ちゃんが話しかけてくれる少し前まで記憶をさかのぼっていくとハッと思い出しました。
私、山田さんと話すつもりだったのに!
今までの浮ついていた気持ちが一気に冷め、私はこれ以上ないくらい憂鬱な気持ちになってしまいました。
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