25. 「お手柔らかに頼むぜ」
「やっほー、おにーさんたち。来たよ」
翌日。上機嫌な田代が九重教会に現れた。年季の入ったサッカーボールを小脇に抱えた少年は、相変わらず人を食ったような笑みを浮かべている。入り口の階段に座り込みながら煙草を吸っていたコウキは、田代の姿を認めると吸いさしを地面に落として靴でもみ消した。
「おう、早かったな」
「この町思ったよりも何もないからつまんなくてさ。早すぎた?」
「別に。もう少ししたらカズも来るからちょっと待ってろ」
立ち上がったコウキはジーンズの尻を叩いて砂埃を落とす。昨日と大して変わらない半袖のシャツと色褪せたジーンズといった出で立ちのコウキを見て、田代が眉を上げた。
「おにーさん、その恰好でサッカーするの?」
「そのつもりだけど。サッカーったって、ちょっとボール蹴るくらいだろ? お前は気合入った恰好してるな」
「練習着持ってきちゃった。遊びでもやっぱサッカーするならちゃんとしたいからさ」
そう言って田代は自分が着ているTシャツの裾を軽く引いた。
白いハーフパンツからすらりと伸びた足には、スラックスに隠されてよく見えなかったが綺麗に筋肉が付いている。丈の長いサッカーソックスは黒地で、ふくらはぎを囲む白のラインが眩しい。群青の半袖シャツは学校の練習着なのか、背中に「Kinoshita High school Soccer Club」とロゴが入っていた。
そして、やはりシャツの下には長袖のスポーツインナーを着用している。
「運動なんて久しくしてないからなぁ……お手柔らかに頼むぜ」
「あはは、神父のおにーさん面白いね」
「あのなぁ……カズも一応神父だぞ。紛らわしくないのか?」
「眼鏡のおにーさんの事? あの人カズって言うの?」
「古海和輝だからカズ。んで、今更だけど俺は翠川コウキ」
「じゃあ、カズさんとコウキさんかな。すごいね! どっちも有名選手と同じ名前じゃん」
「おー……そう言えばそうだな」
「お待たせ! あ、健斗くんもう来てたんだね」
背後から古海が二人に声を掛ける。彼の服装に、田代もコウキも顔をしかめた。
「え……何あのTシャツ。ダサすぎない?」
「俺に言うな。初めて会った時からあぁなんだよ」
二人の視線の先にある古海のTシャツに書かれた文字は、「超☆エキサイティンッッ」だ。文字にはご丁寧にラメ加工まで施されている。
「サッカーなんて久しぶりだから楽しみだよオレ!」
「そ、そうなんだ……」
楽しそうに話す古海に苦笑いを浮かべながらも、田代は返事をした。コウキは地面に落とした吸い殻を拾い上げ、ポケットに入れていた携帯灰皿に突っ込む。
「んじゃ行くか」
コウキの一言に、古海と田代が頷いた。教会の裏にはセミの鳴き声が反響して騒音を奏でていた。湿気を重く含んだ空気が嫌に体にまとわりつき、コウキは深く息を吐き出した。
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