07.5. 「実力は計り知れませんねぇ」
コウキが部屋に足を踏み入れた後、名嶋は心配そうに扉を見ていた。対する古海は、スクエアタイプの眼鏡の奥に好奇心で瞳を輝かせている。叫び声が一度聞こえたきり、室内の物音が聞こえてくることはない。
「中はどうなってるのかしら……」
「本当に一人でよかったんですかね、彼」
「場数を踏んでるクラージマンだから問題はないと思うけど……ちょっと心配ね」
「やっぱり一緒に行くべきだったかなぁ。別にオレがいたところで何かが変わるわけでもないんですけど」
カソック服に付いた埃を払い落としながら、古海が言った。
「それにしても、何かコウキくんって緩い感じしますよね」
「緩い?」
電球の光に透かして眼鏡のレンズの汚れを見ている古海に名嶋が聞き返した。古海はポケットから取り出したクリーナーでレンズを拭う。
「えぇ。クラージマンとして働くことに気負いがないっていうか、使命感がないっていうか。やる気がないってわけではなさそうですけど、それにしたって真剣さを感じられないって印象受けます」
「そうね……彼をここに寄こしたローマの司祭は、「コウキは日銭を稼ぐためにクラージマンをしている」って言ってたわ」
「クラージマンってそんな給料高くないですよね? 食べていけるんですか?」
「普通はそんなに高額ではないけど、危険性が増すほど報酬は吊り上がっていくのよ。つまり、彼は普段から危ない依頼もこなしてるってこと。そもそも日本人神父がローマの教会で働いてるってだけでも異例なの」
「実力は計り知れませんねぇ、翠川コウキくん」
「……何でちょっと嬉しそうなのよ古海くん」
「いやぁ、オレ面白い人大好きなんで……いてっ」
童顔にへらりとした笑みを浮かべる古海の脇腹に、名嶋は黙って拳を打ち込んだ。
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