【2】
大学の合格発表は、
高校の卒業式の翌日だった。
麻未も梢も、地元で進路を決めた。
麻未は美容師の専門学校で、
梢は栄養学の短大。
わたしたちはそれぞれの進路について
あまり多くを話していない。
麻未も梢も、なりたい職業が決まっているから
そうではないわたしにとって、
進路の話題が出ないのは、なんとなく安堵する気分だった。
わたしには、父親がいない。
きょうだいもいなくて、家には母とわたしだけだ。
物心ついたときから、うちは母子家庭だった。
二十歳でわたしを産んだ母は、一日中仕事をしていた。
看護師とか服屋さんとか飲食店とかではなく、
会社勤めをしている。
だから、小さい頃のわたしは祖母と過ごすことが多かったけれど、
週末や、時々早く帰ってきたときなど
仕事以外の時間は、ずっと母はわたしと一緒にいてくれた。
職業は決まってないけれど、
母のように、ビジネスの世界へ進みたい。
そのためには地元の大学よりも
東京の有名な大学に進んだ方が、キャリアを築きやすいと思う。
麻未と梢に打ち明けた、進路に対する話しはこの程度だ。
梢は一度、母が乗り越えてきた苦労を想って静かに泣いたが、
わたしが東京の大学を志望していることについて
反対意見や引き留めの言葉を、
すなわち、わたしの心が揺らいでしまうようなセリフを
二人から聞くことはなかった。
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