東京はいつも涙味 vol.2「親友」

Capricorn_2plus5

【1】




卒業旅行の行き先を東京にして、


合格発表を見に行くという提案をしたのは麻未だった。


先にそれを聞いていた梢も大賛成で、


わたしの命運が懸かった大学受験の結果は、


まるで二人のお楽しみイベントみたいになっていた。




麻未と梢は既に進路が決まっている。


そういう立場は気が楽なものだ。






二人ともどこか、


いやにテンションを高くしていたし、


それが引っ掛かったから、最初は別の行き先を主張した。


もし、手応えも感じない入試だったなら、


わたしは旅行をキャンセルしてでも東京行きを反対しただろう。


わざわざ現地まで見に行かなくても合否は確認できるし、


二人を連れ立って大学まで訪れるというのは、やっぱり気が引けた。






けれど、正直に言って内心は自信がないわけでもなかった。


入試のあった夜に自分で採点してみたが、


どう安く見積もっても合格ラインはクリアしていた。


だからといって、決して合格が保証されている訳ではないが。






「大丈夫だって。石橋を叩き割るくらい臆病な優希でも脈ありっていうくらいなら」


麻未はいかにも麻未らしい、どこかのアニキみたいな頼もしい口調でわたしを勇気づけた。


確かにわたしは大胆なタイプではないけれど、


でも、たとえ親友にだってもう少し言い方があるでしょうに。






「万一ダメでもさ、第二志望だっていい大学じゃん?」


あのね梢、そういう問題じゃないでしょう?


万一ダメだったら、


二度と経験できない高校の卒業旅行が、いきなり台無しになるんだよ?






こんなやり取りが延々と続き、


結局は多数決で東京行きが決定した。


三人で多数決なんて、わたしが負けるに決まっているのだけれど


最後は二人の勢いに押されてしまった。









姉御肌で情に厚い麻未。


天然で優しく、少し甘えん坊の梢。


慎重でマジメと言われるわたし。


中学校に入学して、同じクラスになったわたしたちは


最初の一週間で打ち解けあっていた。


高校も同じで、合わせて六年。


三人はいつもお互いに、


お互いのバランスを取り合ってきた。

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