5.コンスタンチノフスク条約
守るべきもの、信ずるべきもの
メイランド伯爵の宣言通り、アデルバートは軍法会議にかけられた。
怒っている将軍と優しそうな将軍と賢そうな将軍の三人がテーブルにでんと構え、質問を浴びせてくる。アデルバートは弁護人もなく、徽章と赤条を剥ぎ取られた軍服で一人起立させられていた。
「言え! 秘宝をどこに隠した!」
怒っている将軍、メイランド伯爵がカンカンになって机をドンと叩いた。
「お前は秘宝を独り占めするつもりだろう! だが、そうはいかんぞ、強欲でずる賢い小僧め。お前は今、祖国と女王陛下と、この場に居揃ったわしらに対し重大な侮辱と裏切りをやらかしたのだぞ!」
賢そうな将軍が質問を代わる。この将軍はチョブルイで騒ぎ散らしていたあの旅団長だった。
「被告人リップルコット」旅団長が言った。「君が発見した秘宝は元はといえば王家が代々所有していたものなのだ。その所在を君が隠すのであれば、これは君、窃盗ではないかね?」
アデルバートは毅然と答えた。
「僕は何も盗んでいません」
「盗んだも同じだ、こいつ!」
メイランド伯爵は髭を目一杯捻り上げて睨みつけた。
「絞首刑だ! 秘宝をこっそり持ち帰って、売りさばこうとした罪で絞首刑だぞ!」
「僕は秘宝を売りさばこうなんて考えたことはありません!」
売りさばくという品のない言い様にアデルバートもカッとなって声を大にした。
「君は秘宝の正体を我々には話そうとしない。何か理由があるのではないのかね?」
旅団長がたずねた。チョブルイで見かけたときとはガラリと印象が違う。本来はずっと知的で慎重な老人だったようだ。
アデルバートは押し黙る。旅団長は続けた。
「コンスタンチノフスクでは助かる見込みのない重傷者が次々と命を拾ったという『奇跡』の話で持ちきりだ。そのことと何か関係しているのではないのかね?」
鋭い質問にアデルバートはギクッと身を強張らせる。
旅団長はそこを見逃さず、質問を畳みかけた。アデルバートはただ「話したくありません」と答え続けるしかなかった。
「軍法会議を馬鹿にしおって!」
メイランド伯爵が絞め殺さんばかりの剣幕で怒鳴る。
すると、書記役を買って出ていた優しそうな将軍、サマーフォード卿がペンを止めて、窓から差す西日に目を細めると、この日初めて発言した。
「今日はこの辺で閉廷としましょう」
こうしてアデルバートは毎日五時間、長いときならば半日以上の厳しい尋問に晒された。営倉と尋問用のテントを往復する日々が続き、数日があっという間に過ぎた。その間もメイランド伯爵の音頭で情け容赦ない尋問が続く。
判事と検事の権力を一手に握ったメイランド伯爵は大いに責めた。
「貴様は我が第三騎兵師団の師団旗に泥を塗ったんだ! 恥を知れ、業突く張りの裏切り者! かつての戦友たちもみなお前を罵っておるぞ! 連隊長から候補生、平の兵卒に至るまで全員がだ。アデルバート・リップルコットは私欲のために祖国を裏切った卑劣漢、畜生にも劣る奴だとな! もう騎兵隊にお前の居場所などありゃせんのだ! だが、わしも鬼じゃない。少しでも罪を悔いる心があるなら、秘宝のことを話すがいい。そうすれば、連隊厩舎の雑用係として使ってやる」
「話したくありません」
「貴っ様あ!」
次の日、メイランド伯爵は別の手でアデルバートに揺さぶりをかけた。
「貴様の従卒だが……」
嬉しそうに笑うメイランド伯爵は手元の書類をめくりながらアデルバートの反応を探った。
「ペイトン・ブレンズギル伍長。そう、この大男だ。こいつが全て吐いたぞ。秘宝の正体も隠された場所もな。おかげで秘宝はちゃんと手に入ったよ。それに連合公国のあの士官……」
伯爵はまた資料をめくった。
「そうそう、フォン・カールノゼ男爵。こいつも全部白状した。こいつらは二人ともお前を裏切ったぞ。秘宝を独り占めしようと企んだのはお前であって自分たちは無関係だと。秘宝の在り処を教えるから、自分たちの告訴を取り下げてくれと泣いて頼んできおった。あんまり情けなくて見ておれんかったわい。さあ、どうする? 頑固にだんまり決め込んでおるのはお前だけだ。一人で首吊り台の桁にぶら下がるのはさぞ気分がいいだろう。だが、わしは慈悲深い男だ。こちらにおられる両将軍もな。今からでも遅くないぞ、秘宝の在り処をお前の口から正直に言うんだ。秘宝はもうこっちの手に入ったんだから強情を張っても無駄だ。形だけでも白状すれば情状酌量してやらんことはない」
「僕が話すことは何もありません。閣下、僕は嘘もつきません。秘宝が見つかったのなら僕はとっくに絞首刑にされています。僕がこうして呼び出され、僕の仲間が僕を裏切ったなんて嘘を聞かされているのは、みんなが何も話していないからです」
「このお!」
翌日の尋問は銃声で始まった。
パーン……ヒヒィーン……
乾いた破裂音と悲しげないななき。目の前で聞かされたのではない。連隊厩舎のバラックから響いてきたのだ。
メイランド伯爵はにんまり笑いながら意地悪く告げた。
「今の銃声が何だか分かるか? 必要のない馬を撃ち殺したのだ。もう乗り手がいなくなった軍馬をな。その軍馬には軍籍から除かれた卑劣な裏切り者が跨っておった。そう、お前だ、小僧。今のはお前の馬の断末魔だ。お前のための弔砲だ。お前がもう連隊に必要ないのと同様、お前の馬も必要なくなったわけだから銃殺されたのだ。いい馬だったが、裏切り者の馬に飼い葉をくれてやるほど、我が師団は甘くない。あの馬は裏切りの代償として屠られたのだ。わかったか、この生意気な小僧め」
大粒の涙が止める術もなく、ぽろぽろと流れ落ちた。
船酔いに苦しめられた航海にも、命の危険を感じた戦いの最中にも、そして自分の軍人としての道が途絶えたときでも堪えてきた大粒の涙。その涙が、苦楽をずっと共にしてくれたバルティーの死を告げられて初めて流された。
旅団長は無表情だったが、気の優しいサマーフォード卿は耐えられなかったのだろう。真相をあっけなく暴露してしまった。
「安心しなさい。本当は空砲を撃っただけで、あの馬は殺していない。君に揺さぶりをかけるために伯爵が仕組んだお芝居である」
サマーフォード卿の裏切りに対し、メイランド伯爵はあと少しだったのに、と不満げに舌打ちした。
次の尋問は実に静かであった。メイランド伯爵は何一言発せず、ただ、その手紙を読むように厳粛に言い渡した。
実家からの手紙である。母親の筆跡だった。
お前をそんな卑怯な真似をする子に育てた覚えはない。父さんは悲しんでいる。母さんもお前のことを考えると涙が止まらず、一刻もはやくお前が正道に立ち返ってくれることを切に願っている。もし、父さんと母さんを愛しているのなら、メイランド伯爵を親代わりと思い、全てを正直に告白しなさい、伯爵の慈悲にすがるのです、エトセトラ、エトセトラ……
実に切実な文言で綴られていた。
メイランド伯爵は厳粛に見せようと顔をしかめていたが、どうしてもほくそ笑みが目尻を下げてしまう。
母を巻き込む卑劣なやり方に憤りを感じたが、グッとこらえて冷静にやり返した。
「この手紙は母が書いたものではありません。字はよく似ていますが別人です。もし、僕が盗みで裁判にかけられていると母が知れば、……そして、僕が罪を犯したと信じたのなら、僕は手紙の中でコテンパンにやっつけられているはずです。慈悲にすがるなんて言葉も使わず、『壁に頭を打ちつけて死ね!』くらいの強烈なことを書きますよ。母は曲がったことが大嫌いですから。そもそも僕は逮捕されてからまだ半月ほどしか経っていません。いくら電報が発明されたとはいえ、二週間で母から手紙が届くはずがありませんよ。エルボニン半島と王国の間に直通電報なんて存在しないんですから」
「こいつを営倉にぶち込め!」
メイランド伯爵の堪忍袋が真っ二つに裂けた。
「下手に出ていればつけあがりおって! 三日間閉じ込め続けてやる! パンも水も貰えずに干上がってみれば、自分がいかに愚かで傲慢な恩知らずだったか思い知るだろう!」
旅団長は肩をすくめ、サマーフォード卿はどうしたらいいか分からずにただおろおろしていた。
アデルバートは同盟軍に占領されたオリガ堡塁に監禁された。数ヤード四方の冷たい石部屋で足に枷をはめられて、乾いた葦の上に寝かされて食を絶たれるのだ。ただ一つの鉄格子付き窓は月を飲み込むように大口を開けたマリア堡塁の残骸のみを見せている。
休戦交渉により一切の戦闘を禁じられた軍隊は今夜も静かに野営し、自分たちが勝っているのか負けているのか分からないまま、不安な夜を過ごしている。コンスタンチノフスクの激闘があった後では戦争を冒険や英雄物語と考えるものは一人もなく、みなこの不毛な戦争がはやく終わってくれればいいと思いながら、不味い缶詰と砂っぽいパンをかき込んでいた。
アデルバートの状態はそれよりも悪い。
メイランド伯爵からは三日間飲まず食わずの拷問にかけると脅された。
ペイトンやテオドールが裏切ったとも聞かされた。
そんなことあるわけがない。
アデルバートは幼さの残る顔を引き締めて、強い意志で疑念を跳ね除けた。
しかし、飢えと渇きが襲いかかってきたとき、自分はどれだけ気丈に構えていられるだろうか?
だが、自分がメイランド伯爵の圧力に負けて、秘宝の正体を明かしたとき、最もひどい目に合わされるのはシャルロットなのだ。もし王国にシャルロットのことが知られれば、シャルロットは王国の宮殿のどこか人目のつかない部屋に閉じ込められ、二度と外の太陽を見ることも叶わなくなるのだ。
当然である。どんな怪我難病でもたちまち治癒してみせる能力ともあれば、誰もが欲しがる特別な力だ。そんな力を逃がしてはなるものかと各国は躍起になってシャルロットを奪い合うだろう。
そうなれば、シャルロットを巡って、王国と共和国、連合公国と帝国は新たに四つ巴の戦争を繰り広げるかも知れない。
自分に出来ることはまだまだある。
もっとたくさん人を助けられる。
医者になって出来るだけ多くの人を助けてあげたい。
シャルロットはそう言っていた。コンスタンチノフスクではシャルロットは自分の命を削って、敵味方問わず命を救い続けた。もしここで自分が音をあげればシャルロットが閉じ込められてしまう。シャルロットの名の下にもっと多くの血が流れるかもしれない。そんなこと――
「絶対にさせるもんか。僕は……」
もう軍人ではない。徽章を千切られた軍服がそう告げている。
「……僕は、何者なんだろう?」
営倉に放り込まれて、まだ八時間。
だが飢え、渇き、弱気、疑い、孤独は少年の勇気を食い尽くそうと手ぐすねを引いていた。
「お腹、空いたなあ。……朝から何も食べてないや」
早速、『飢え』が襲いかかってきた。 次にやってくるのは『弱気』と『孤独』、そして『疑い』がその狡猾な頭をもたげたとき、『裏切り』が甘い囁きを耳に吹き込むのだ。
アデルバートは空腹を忘れるために気晴らしに大声で歌を唄った。連合公国の兵隊たちが唄っていたあれである。だが、いくら大声で唄っても空腹感は晴らされるばかりか増してゆく一方だった。さらに薄気味悪いのは、これだけ大声を張り上げても当直の兵隊がちっとも文句を言わないことだった。
看守がいない。脱獄の常習犯ならば金塊を積んででも手に入れたい絶好のチャンスだったが、アデルバートはむしろ寂しさを覚えてしまった。そこに『弱気』と『孤独』が仲良く肩を並べてアデルバートに取り付いてくる。
「ひょっとして、僕に味方はいないのかな……」
頭を振る。
口を結んで歯を食いしばる。
バルティーと一緒に鞍もつけず草原を駆ける様子を想像し、自分を苛む全ての衝動に立ち向かおうとした。
だが『裏切り』の誘いは残酷で甘美、そして抗い難い。幾多の賢人、清廉な乙女、勇猛なこと比ぶることのない戦士たちがその言葉と息吹に惑わされ、背徳の足元にかしずいた。金貸しのように強欲で、美女の微笑みのように悩ましい裏切りを前にどこまで抗えるだろうか?
しかし、ささやかな励ましで勇気づけようと骨を折り、牢獄の裏で箱を積み上げる友人たちはちゃんといたのだ。
友人たちは小さな足場でぐらつきながらも鉄格子の窓にすがりつき、絶望に打ちひしがれている少年に声をかけた。
「アデルバート!」
アデルバートは声に反応して、のっそりと顔を上げた。
士官候補生の同窓イングルワースのぽっちゃりした丸顔が鉄格子の向こうに見えた。マクギルベリー中尉もいる。
「イングルワース! それに中尉も!」
「しぃっ! 声が大きい」
中尉は口に指を立てると、包みを鉄格子の間からねじ込んで、紐でゆっくり牢獄の中に降ろしてやった。
「俺たちからの差し入れだ」
マスタードをたっぷり塗ったハムと生野菜のサンドイッチ。みずみずしい果物。喉から手が出るほど欲しいがアデルバートは手を出さず、うつむいた。
「どうしたの? お腹すいてるはずだよ」
「ありがとう、イングルワース。でも、僕は営倉に入れられてる身なんだ。この食べ物に手をつけたら君にも迷惑がかかる。僕は大丈夫だから」
マクギルベリー中尉が眉をひそめ、馬鹿言うんじゃないと口を挟む。
「大丈夫なもんか。いいかい、アデルバート。メイランド伯爵は本気で君を干上がらせるつもりなんだ。あの因業じじいのことだから、食事なんか出しやしないぞ。うちの師団はずっと予備軍にまわされて手柄を立てられなかったもんだから、メイランド伯爵は気が気じゃない。手柄と自慢できるのは、君が見つけたともっぱら噂になってる秘宝だけなんだ。だから、あのじいさんは手加減しない。君を責めまくるぞ。手柄のこととなるとどこまでもひどいことができるじいさんだからな」
「では、なおさらこの食べ物をもらうわけにはいきません。中尉にも害が及びます」
「そのことなら安心しな。牢屋の警備隊長はビリヤードで金貨三十枚分、俺に借りがある。一分見逃すごとに一枚チャラにしてやることになってるから、あと三十分は大丈夫だ」
「ね、大丈夫でしょ。さあ、はやく」
アデルバートは辛そうに言った。
「ごめん。それでも食べられないよ……」
「アデルバート……」
「連隊のみんなは僕のことを責めてるだろうね」
イングルワースが首を振った。
「そんなことないよ、アデルバート。みんな何か事情があるって分かってくれてる」
マクギルベリーも笑いながらつけ加えた。
「その通り。だいたいうちの連隊じゃメイランド伯爵こそ嫌われ者だからね。君が旅立ってから大変だったんだぜ。我らが師団長殿はとんでもない因業ぶりを発揮してくれたよ。昼間に行軍しっ放しでくたくた、尻が痛くてかなわないのに夜間訓練と称して意味のない体操を強制したり、俺たちにはハンダの味がするコンビーフを支給しておきながら、自分はテントでフルコースをたらふく食ったりしてみんなの反感を買いまくったのさ。安心したまえ、アデルバート。第三軽騎兵連隊は連隊長から玉突き台の修理係に至るまで、全員が君の味方さ。ブラウン連隊長は君が軍法会議にかけられると聞いて、弁護人を買って出たくらいだ。ただ、それがメイランド伯爵は気に入らなかったらしくてね」
マクギルベリーは悔しそうに鼻から息を吹いた。
「連隊長は南の浜辺の兵站基地に飛ばされて師団の物資管理をさせられてる」
「ブラウン連隊長が僕のせいで……」
「悪いことばかりじゃないんだ」イングルワースが励ました。「実は君のための嘆願書が二通、なんと他国の将軍から届いてるんだ。一通は連合公国のシンメルフェニッヒ将軍。君みたいな馬術の天才を失うことは王国軍にとって計り知れない損失になるだろうって力説してる。もう一通はなんと帝国のポトポフ提督からなんだ。詳細は記されていなかったけど人道的見地から君の無罪を訴えている」
「サマーフォード卿も日に日に話が大きくなってしまって、この件をメイランド伯爵一人に任せるのを危ぶみ始めている。信じてこらえるんだ、アデルバート。時間と連隊、俺とイングルワース、それに君の仲間たちが味方だよ」
アデルバートは顔を上げた。
「僕の、仲間……?」
兵隊用の水筒が紐でくくられて、鉄格子の間から吊るされてきた。
「開けてごらん」
「中尉。受け取るわけには……」
「軍への義理立てはいいから、はやく蓋を開けるんだ」
強い物言いに押され、おずおずと蓋を開ける。
甘く、馴染み深い匂い。
一分三十五秒の練り具合が引き出す最高のココアが香ってきた。
「君の従卒からだよ、アデルバート」中尉が言った。「やつの場合、もう飯抜きにされて五日目なんだけど、これっぽっちもこたえてない。みんな驚くを通り越して呆れ返ってるよ。さっき、たまたま様子を見に行くことが出来てね。そうしたら、君のためにどうしてもココアを練るっていうんだ。食事もこっそり差し入れてやったけど、君が食べてからじゃないとパンくず一つ口にしないって言ってたぜ。だから、アデルバートに食事を差し入れてから必ず戻るってあいつに約束してやった。アデルバート、あいつは君にとって最高の宝物だよ。飢え死に寸前なのに自分のメシもそっちのけで、君のためにココアを練りたいなんて言ってくれる人はそうそういない。この絆を大切にしたいなら、はやく食事をとるんだな」
アデルバートは感謝の言葉もつまるほど泣きそうになり、それをこらえて空っぽの胃袋にサンドイッチを夢中で詰め込み、乾いた喉を果物とココアで潤した。するすると引き上げられていく空の水筒を見上げながら、アデルバートがたずねた。
「カールノゼ中尉はご無事ですか?」
「無事だよ。あの人は連合公国のテントに軟禁されてる。逮捕されて以来、ただ騎士の約束を果たすのみって言ってそれ以外は何にも話さないらしい」
シャルロットはどうなったんだろう?
「僕と一緒にいた看護婦の少女はいまどうしてるかな?」
イングルワースは分からないと首を振った。
「名前は分かるかい? もしかしたら、探し出せるかもしれない」
「名前はどうしても言えないんだ。勝手なこと言ってごめん」
「気にしなくてもいいよ、アデルバート」
イングルワースはにっこり微笑んで慰めた。
「そうとも」
マクギルベリーも屈託のない笑みを浮かべて、ウインクした。
「人間一つくらい秘密を抱えて生きていたほうがカッコいい。女の子に関する秘密は特にね」
イングルワースとマクギルベリーはまた明日、同じ時刻にやってくると言い残して帰っていった。
アデルバートはその夜、声を押し殺して泣いた。
自分は孤独なんかではない。
助けてくれる仲間がいるのだ。
そのことを考えると体が熱くなり、どんな困難にも打ち克てる勇気が湧いてくる。
「負けるもんか。アデルバート・ヘンリー・リップルコットは騎士なんだ」
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