敵と味方と

 ペイトンとテオドール、そしてアデルバートが交代で番をして夜を明かし、夜明けとともに馬に鞍を乗せた。

 一行は森を出ると、見通しのきく草原を避けて岩の多い峡谷を選んで進んでいた。

 ここまでくれば、帝国の騎兵隊はかなりの数で哨戒しており、隠れる場所のない平野はむしろ危険だった。

 それなら一人が偵察で安全を確かめながら、入り組んだ谷を進んだほうが安全だろうと判断したのだ。

 偵察はいつもペイトンが買って出た。軍用地図片手に荒野の道を先行し、待ち伏せがいないことを確認して戻ってくる。

 ペイトンの馬が疲れたら、テオドールが代わった。テオドールの馬も疲れてしまったころには午後一時を過ぎていた。

 缶詰とビスケットで腹をくちくし、後片付けをする。次に進むのは崖と窪地が入り組む複雑な地形で地図にもないような小道が砂礫に埋もれた乾燥した渓谷だった。

 ペイトンは休養を取り終えた馬の背に鞍を乗せると、近くの小川から汲んだ水で手をぬらして、自分の顔をバンバン叩いて気合を入れた。

「よし! 俺がひとっ走りして、谷の様子を見てこよう。どこか谷を一望できる場所を探せば、軽く偵察できる」

 テオドールも立ち上がり、手袋を嵌めている。

「いえ、私が行きますよ。あなたの体格で坂を登らせれば馬がつぶれてしまいますよ」

「なんの。いざとなったら、馬をかついで登ってやるさ」

「あなたなら本当にやりそうですね」

 ところが二人が鞍の鐙に足をかけたときにはアデルバートが既に鞍上の人となっていた。

「今度は僕が偵察に行くよ」と、アデルバートが言った。「急勾配の谷は僕の専門だ。それに僕はまだ一度も偵察に出ていない。今度は僕の番だ」

 ペイトンはとんでもない、と真っ赤な頭をぶんぶん振った。

「だめです! 坊ちゃんをそんな危険な目にあわせるわけにはいきませんよ」

 だが、テオドールは足を鐙から外して馬を下り、アデルバートに賛意を示した。

「行かせてあげればいいじゃないですか。アデルバートも軍人です。過保護はよくありませんよ」

 だが、ペイトンは絶対に譲らない。帝国の峡谷に坊ちゃんを一人送り出すくらいなら自分の頭を撃ち抜いたほうがマシだと抗弁してきた。

 アデルバートがむっとして言い返す。

「僕はもう子供じゃない」

「坊ちゃん!」ペイトンは涙目になって、すがりついた。「そんな目で俺を見ないでください! 俺は坊ちゃんのためを思えばこそ! ……よござんす。どうしても行くってんなら、このペイトンを馬蹄にかけてから……あらら?」

 アデルバートは立ちはだかるペイトンを軽くいなして馬首を山道の入り口に転じた。すると冒険の匂いを嗅ぎ取ったシャルロットが岩の上から、アデルバートのすぐ後ろに飛び乗った。

「シャルロット!」

 アデルバートが驚き、声をあげる。

「私も行く!」

 シャルロットはバルティーの背に跨り、元気に声をあげた。

「駄目だよ、危ないからみんなと一緒に……」

 言い終わるより前にシャルロットの手で何かが閃いた。シャルロットが木の枝で馬の尻をぴしりと打ったのだ。

 力はさほど強くもなかったがバルティーは半狂乱になり夢中で突っ走った。

「坊ちゃん!」「シャルロット!」

 アデルバートたちは既に急斜面に入ってしまい、ぐんぐん距離を離されていた。アデルバートほどうまく斜面が登れない二人は溜息をつき、アデルバートたちが無事戻ってくることを祈りながら回り道で後を追った。


 だいぶ山道を走ってから、アデルバートは何とかバルティーを立ち止まらせることが出来た。

 シャルロットが興奮気味に声をあげた。

「いやっほー! まるで風ね。私、ドキドキしちゃっ……」

「二度とあんなことするな!」

 褐色岩だらけの渓谷にアデルバートの叱責がこだまする。

「今度やったら、もう乗せないぞ!」

 人が変わったようなアデルバートの剣幕にシャルロットは戸惑った。

「そ、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃない。偵察が危ないのは分かるけど、でも、アデルバートが行くから一緒についていきたかっただけなのに……」

「違う。そのことじゃない」

 アデルバートはシャルロットが握っていた木の枝を取り上げて路肩に放り捨てた。

 鞍が小刻みに揺れていた。

 バルティーが震えながら泡のような息を吐き、脚をガクガク震わしている。アデルバートは鞍から降りると不安げに汗を噴く馬の首を全身で抱きかかえ震えをおさえてやった。

 アデルバートは馬の首に抱きつき、しきりに撫でた。たてがみに頭を埋めたまま、シャルロットに振り向いた。その表情は咎めるように厳しい。

「絶対に鞭でぶつな。僕と会う前、バルティーはひどいやつに使われて立てなくなるまで鞭でぶたれてたんだ。大砲の音は耐えられるけど、鞭だけは絶対に駄目なんだ」

 眼はきょろきょろ頼りなく、たてがみが震え、耳もぶるぶる震えていた。アデルバートが何度も撫でてくすぐってやると、ようやく落ち着いたのか、くるくる道を回り始めた。

 アデルバートが鞍に乗ると前進が再開した。

 目の前に二本の小道が現れる。左は谷底を通り、右は登り道で谷を見渡せる稜線に沿っていた。バルティーは指示されたわけでもなく、偵察向きの登り道を選んだ。

「手綱で引っぱらなくても僕が行きたい道を選んでくれる。チョブルイ川を渡るときだって、バルティーはちっとも怯えないで進んでくれたし、コサックから逃げるときだって頑張ってくれた。本当は勇敢で賢い馬なんだ。鞭なんて必要ないんだ」

 山道でただ一本の広葉樹が影を落として二人を包み込む。木漏れ日がシャルロットのブラウスに散りばめられて、陽の光がその浮かない顔をきらっ、きらっと明滅させた。

「ごめんなさい」

 木陰を過ぎて、全てが輝きだすがシャルロットの表情はしゅんとなったまま沈んでいた。

 アデルバートも怒り慣れないものだから、顔の表情を緩めるタイミングが分からず、ずっと気難しいまま、たてがみを手櫛で梳いていた。

 シャルロットはまるでバルティーからアデルバートを取り戻そうとするかのように上衣の裾を軽く引っぱった。

 仲直りの機会が見つからない。二人とも黙りこくる。

 突然、視界がぐるっと回った。

 バルティーがすぐ脇の断崖に刺さる急な山道を選んで勝手に登り始めたのだ。道なき道、清水か滴る大きな岩をいくつか回り込み、まばらな木立を通り過ぎて、高台に向かう。

 彼は誰に命じられるでもなく、アデルバートたちを渓谷が一望できる頂に連れて行った。

 渓谷の狭間で水が輝く。大岩が斜面から思い思いの形で突き出して、その圧巻を見せつけていた。頭上の鳶が空から吹き落とされた風にのって急降下する。風が吹き渡り、眼下の渓谷をさわやかな空気で満たしていった。鳶は高く鳴きながら谷を舞うと、木立や小道、岩や水面が風と音に震えて、共鳴する。

 だが、この頂で最も印象的なものは花だった。

 頂には野の花が崖からこぼれんばかりに咲き乱れていた。緑樹を生やした優しい岩山が花の絨毯の真ん中から咲けよ芽吹けよと清水を走らせている。荒野に侵食されないよう神様が花を取っておいたかのようだ。

 壮大な景色が人の悩みをちっぽけにし、仲直りの勇気を与えた。

 きつく閉じた唇と強張った心が一緒にほどけていく。

「シャルロット……さっきはごめん。大声出したりして……」

 風が舞い、瑞々しい花の匂いとともにシャルロットの金髪がアデルバートの栗色髪に舞いかかる。それを手で押さえながらシャルロットが言った。

「アデルバートは優しいのね」

 その声には静かな明るさが戻っている。シャルロットはバルティーの背から降りると彼の鼻面を優しく撫でた。

「ぶったりして、ごめんね。もうしないから……それと素敵なところに連れてきてくれてありがと」

 バルティーは、ぶるるっと鼻を鳴らして、顔を振り、シャルロットの手の平に鼻先を押しつけた。

「もう気にしてないってさ」アデルバートが仕草を通訳した。

 アデルバートも鞍から降りて、馬を自由に走らせることにした。

「あんまり遠くに行っちゃ駄目だぞ」

 ヒィンと一ついなないてみずみずしい野草が茂る小道を下ってゆくバルティーに一声かける。アデルバートは花畑を一望できる岩の上によじ登った。ハンカチを平らな石の上に広げてから、シャルロットの手を取る。シャルロットは照れくさく笑って手を取るとハンカチの上にちょこんと腰を下ろした。

 遙か北に目を凝らす。

 深い群青の湾が横たわり、西に口を開けている。灰白色の乾いた湾岸では帝国の要塞都市がその防壁を巡らして市街を守り、海岸にへばりついていた。塚山のように盛り上がった堡塁。帝国の軍艦が湾口に集結していた。

「あれがコンスタンチノフスク……」

 一方、東の地平線は砂塵の帯に包まれていた。おそらく要塞を目指す同盟軍であろう。この調子ならテオドールの言うとおり、夜には要塞へ総攻撃が始まるはずだ。

「また戦いね……」

 シャルロットが悲しげにつぶやいた。

「シャルロット」アデルバートがたずねた。「前からきこうと思ってたんだけど、どうして従軍看護婦なんかになったの? やっぱり冒険が目当て?」

「それもあるけど……」シャルロットは髪を風に遊ばせた。「人助けだってしたいと思ったわよ。だって、かわいそうじゃない。こんな馴染みのない土地で撃たれたり刺されたりして倒れるなんて……。だから、そんな人をたくさん助けてあげたいと思ったの。おばあちゃんも死ぬ前に言ってたわ。世界中の人間を助けられるなんて自惚れを捨てて、まず目の前の人を精一杯助けるように努力しなさいって。つまり、考える暇があったら、まずは行動。世界中の人が幸せになればいいなって考えるよりも、世界中を歩き回って見つけた人を片っ端から幸せにしていったほうが手っ取り早いし効果的でしょ?」

「意味がちょっと違う気もするけど……。それで遠征隊に加わったの?」

「そうよ。私、自分に出来ることを考えたの。私は王様みたいに偉いわけじゃないしお金持ちでもないから戦争は止められないわ。でも、私にはちゃんと動く指もあれば、けっこう丈夫な足もある。それにガッツじゃ男の子には負けないわよ。そんな私が精一杯出来ることを考えると、戦争なんか嫌いって駄々をこねるよりは戦地に行って怪我した人を一人でも助けたほうがいいんじゃないかって思ったの。……私ね、アデルバート。本当は医者になりたいんだ」

「看護婦じゃなくて?」

「ええ。そうすればもっとたくさんの人を助けられるわ。私に出来ることはまだまだたくさんあるもの」

「すごい行動力だね」

「ありがと。そういえば、アデルバートはなんで軍人になったの?」

「弱きを助け、強きをくじく。男だったらみんなが憧れるさ」

 アデルバートは自信たっぷりに答えて胸を張ったが、シャルロットはなにかしっくりこないものを感じたらしく、首をかしげていた。

「僕、何か変なこと言った?」

「ねえ、アデルバート」

「ん?」

「包帯所で一緒だったあの子……昨日襲ってきた子よ。あの子と私、包帯所で会って一時間くらいしか一緒にいなかったけど、とてもいい子だったわ。優しかったし、一見大人しそうだけど、なんていうか……芯がしっかりしてたわ」

「シャルロット」アデルバートが目線を落とした。「こんなこと言いたくないけど、あの子のことは考えないほうがいいよ。もう僕らの敵なんだから」

「敵……。あの子のこと、敵だと思ってるんだ」

「だって、君の首にナイフを突きつけて殺そうとしたんだよ? 僕もあの子の仲間に殺されかけた。テオドールだってそうじゃないか」

「じゃあ、包帯所で見せたあの子の優しさは偽物だったってこと?」

「それは……」

 人の善意を偽物呼ばわりし否定するのがアデルバートには躊躇われた。あの少女がベッドの患者を優しく看病する姿が思い出される。

「きっと演技だよ……。僕らを油断させるための……」

 自分の言葉に自信を込められない。

 声の大きさも後ろめたそうに落ちていく。

「アデルバート」シャルロットがはっきりした口調で言った。「あの包帯所であなたが意識を失ってたとき、あなた、一度ひどくうなされたことがあったの。とても辛そうだった。そのとき、あの子があなたの手を取って優しくさすりながら、大丈夫、安心してって何度も声をかけてたのよ。あれも演技だったって言うの?」

「覚えてないよ、そんなこと」

 アデルバートは気まずくなり、ぷいっと顔をそらした。

「私を殺すなら、あの子はいつでも出来たわ。でも、しなかった……」

 シャルロットの気持ちはやや複雑だった。

「アデルバート。敵、敵って言うけど、あなた帝国兵はみんな悪い奴らだと思うの?」

「そうなんじゃないのかな?」

「ずいぶんいいかげんね。心からそう思ってる?」

「思ってるさ」

「じゃあ、どうして彼らは悪いの?」

「えーと、それは……」

 これは戦争の理由を聞かれている。自分たちがこんな遠くまで出征した理由。確か、新聞は海峡問題がこんがらがったと報道していた。

「海峡問題さ」

「それでどうして帝国の人が悪くなるの?」シャルロットは手加減せずに詰め寄った。「悪を倒す、帝国と戦うっていうけど、その帝国兵にだって家族はいるし、誰かを守りたいって思って軍隊に入ったのかもしれないわ。それでも悪だと思う? 私たちのこと追いかけまわしたコサックたちや昨日襲ってきたあの子。あの人たちだって戦ったりあんなことしたりするのには理由があるわ」

「シャルロット。今は戦争中なんだよ」

「だから、戦争って嫌いよ。アデルバート。人の心って正義の味方と悪の親玉で簡単に分かれてくれるほど単純かしら?」

「……僕は軍人だから。命令があれば相手が誰でも戦うよ」

「じゃあ、王国と連合公国が戦争することになったら、あなたはテオドールと戦えるの?」

「え?」

「王国と共和国が戦争になったら、私は敵の国の人間になるのよ」

「どうしてそんなイヤなことばかり言うのさ」

 アデルバートがたまらず、立ち上がる。

「これだけは教えて」シャルロットは手をつかんだ。「あなたは命令があれば、テオドールやわたしを敵だと思えるの?」

「僕は……軍人だから」

 それしか言えなかった。

 バルティーが戻ってきて、アデルバートの顔をなめた。どうやら、散歩にも飽きてしまったらしく、ひとっ走りしたくてしょうがないようだ。

 二人は馬の背に跨った。高台から岩窟寺院のある谷を見ることは出来なかったが、周囲の道の安全くらいは確かめられたので後は小道を下りながら、岩陰に敵の斥候が潜んでいないか確かめるだけだった。

 ペイトンたちが待っているであろう空き地まであと十分というところで馬が首を震って進むのを嫌がった。

「どうしたんだ? ……ん?」

 アデルバートとシャルロットはそれぞれ左右に身を乗り出して、馬首の向こうを窺った。

 道の向こう側から三人の帝国兵が現れた。平たい軍帽に灰色の外套、手にはマスケット銃。ふざけあい、けらけら笑っていた。

 隠れるものの何もない褐色の小道。両側は切り立った崖である。

 帝国兵たちはアデルバートたちと鉢合わせて、ぽかんと口を開けた。

「強行突破する。つかまって」

 この道を突っ切れば、ペイトンたちと合流できるはずだ。

 アデルバートが抜刀する。シャルロットはアデルバートの腰に抱きつき、手をきつく結んだ。

 馬腹を蹴るため足を浮かせかけたとき、椿事は起きた。

 敵であるはずの帝国兵が身構えるアデルバートたちに対し両手を挙げたのだ。こちらは少年と少女の二人組、それに対し相手は体格も良くマスケットも持っている三人組である。有利なのは帝国兵たちのはずなのだが……

 帝国兵たちは銃を道の脇に置いて、はやく通り過ぎるように顎で道をしゃくっていた。その仕草も追っ払うような悪意はなく、開園前の遊園地にこっそり子供を入れてあげるチケット係のような気のよさがあった。

 アデルバートはきょとんとして剣を下げた。

 帝国兵たちのしている行動は全く理解できないが、戦意のない相手に刃を向けるのは躊躇われる。

 帝国兵たちは道の左に寄り、アデルバートたちのための通り道を開け始めた。

「ますます分からない。彼らと僕らは敵同士なのに……」

 そのとき、銃声が小道の奥から響いてきた。驚く帝国兵の向こうから挟み撃ちにする形でペイトンとテオドールが駆けてきたのだ。

「坊ちゃん!」ペイトンの威嚇発砲が帝国兵の帽子を撃ち飛ばした。

「〈動くな!〉」テオドールも白刃をかざして、帝国語で叫んでいる。

 帝国兵はすっかり縮みあがり、両手を空高く真っ直ぐ上げた。

「おい、動くな! この野郎!」

 ペイトンは銃を向けながら馬を降り、帝国兵を縛り上げようとした。

 頭上から弾が降ってきて、ペイトンをかすめる。

「銃を捨てろ!」

 王国語の鋭い一喝が聞こえてきた。

 見上げると、崖の上に王国の軍服を身につけた兵士がライフルを構えて、谷を見下ろしていた。

「友軍だ!」ペイトンが嬉しそうに声を張った。「おお~い! 降りてきてくれ! 帝国兵を三人捕まえたんだ!」

 ところが味方からの返答は鉛弾だった。ペイトンは跳弾を薄気味悪いほど近くに感じ、表情をこわばらせた。今度は後ろの崖から撃鉄をあげる音と共和国語の罵声が飛んできた。

「動くんじゃねえ!」

 叫んでいたのは共和国海軍の水兵だった。その射線は明らかに一行を捉えている。

 崖上の狙撃者はこれだけではない。連合公国の猟兵や下士官、共和国植民地兵や帝国軍の砲兵、水兵、コサックたちもいる。王国兵が叫んだ。

「一歩でも動いてみろ! 蜂の巣だぞ!」

 彼らの銃はみなアデルバートたちを狙っていた。

「これは一体……」

 テオドールもこの不意打ちにはさすがに混乱したらしく、いつもの涼しさが吹っ飛んでいた。なぜ同盟国の兵士たちが敵であるはずの帝国人たちと一緒に銃を向けるのか?

 最初に鉢合わせた帝国兵が崖上目がけて大きな帝国語を張り上げた。

「〈おおい、撃つんじゃねえ!〉」

 他の帝国兵もぶんぶん手をふりまわしている。

「〈こいつら脱走狩りじゃねえよ。見ろ、女の子を連れてる!〉」

 崖上のコサックが手を額にやって目を凝らしてから、納得したように銃を下ろした。それを見て、他の国の兵士たちも順々に銃を下ろす。

 崖の上の王国兵がたずねた。

「なーんだ! お前らも脱走兵か!」

「脱走兵?」

 一行はお互いの顔を見合わせて首をかしげた。

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