すべてが還った世界で

「りん!」


 ハッと目覚めると、そこは真っ白い部屋で男の子が私を呼んでいた。なんだか見覚えのある顔なのに、名前を思い出せない。身体もあちこちが痛くて、動こうとしてもできなかった。首も何かで固定してあるらしく思うように動かない。そうしている間に、男の子はどこかへ走り去っていく。バタバタと走る音に、廊下を走らない!と怒られる声が聞こえた。

 動かせるのは目だけだったので、ぐるりと見てみる。部屋は白を基調としてあり、窓は大きい。視界の端に、テレビと冷蔵庫が見えるので、ここはもしかしたら病院かもしれない。首も動かないよう固定されているし、身体はあちこち痛いし。

 バタバタとまた走る音がして、先生方も走らない!と一緒くたに怒られる声が聞こえた。


 ぞろぞろと、白衣を着た人たちが入ってくる。私をみてざわめき出す。いちばん年齢が高そうな人が、ひとつ咳払いをして、言う。


「小鳥遊さん、わたしの声が聞こえますか?声が出せなければ、瞬き一回ではい、二回でいいえと捉えますのでお答えください」

「………あ、………はい」


 声が出るのを確認して、言う。がさがさと掠れた声が出たので、自分の声じゃないみたいだった。


「足先の感覚はありますか?今触っています」

「わかります」


 これは?これは?と次々に私の感覚のテストをして、記憶の確認をして、

「もう少し入院してもらうことになりますが、若いですし頑張れば早く退院できるでしょう。とりあえず今日はもう休んでください。お大事に」

 と言って、ぞろぞろと帰って行った。




 最初に見た男の子だけ残っていて、不安そうな今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ている。


「りん、あのね、」

「うん?」


 声が次第に小さくなっていくので、聞き逃さないように耳をすませて聞いた。


「りんは助かったんだけど、りんのお母さんとお父さんはね………助からなくて天国に行っちゃった………」

「………私だけ?」

「……………うん」


 男の子はぼろぼろと涙を流している。ああ、この子の言葉で全てを思い出した。カミサマとかみさまのこと。男の子の顔はよく見知った顔だったはずだ、カミサマによく似ていた。声も、よく知るものだ。

 ああ、私はもう一度両親を失い、カミサマと再会したのだった。


「泣かないでよ、男の子でしょ」

「りんは悲しくないの?」

「悲しいよ。でも君が代わりに泣いてくれてるから。」

「りん………」


 さらにあふれる涙を拭うこともできず、ただそれを静かに見つめる。カミサマはもういないけど、この子とならきっと明日も歩んでいけるはずだ。



 ありがとう、かみさま――――。

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女子高生に銃 武田修一 @syu00123

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