女子高生にバール
「!、!、!」
がっがっ、と鈍い音が聞こえる。
いつもの通学路なのだけど、不穏な音だ。カミサマも少しだけ警戒している。
「なるべく足音立てんなよ」
「そっちこそ」
そろりそろりと音の方へ近づいていく。
赤が散る。黒い長い髪が舞っていた。桜がいやに似合わない子で、顔に飛び散った赤がとても似合う子だった。目と目が合った瞬間そう思ったのだ。
「………」
「!」
バールを持った彼女は一度だけこちらと目を合わせたかと思うと、すぐさまゾンビの頭を執拗に攻撃し始めた。こわ。
とてもきれいな子なのに、出会いの予感なのに、いかんせんシチュエーションがよろしくない。なんでだ。
私の周りこんなのばっかだよ!男もカミサマと教師しかいない!女の子もいいけど!男もいてほしい!青春したい!いや女の子でも青春はできるけどさあ!
話がだいぶ脱線した、閑話休題。
バールを持った彼女はうちの制服を着ている。リボンから察するに一個下、つまり一年生なのだろう。バールを躊躇なく振り下ろすので、たぶん最後まで生き残るタイプの子だ。
カミサマをちらりと横目で見る。
「は!?」
「…………」
人が恋に落ちる瞬間を初めて見てしまったのだった。
私の!青春は!どこにありますか!!
×××
カミサマも人の子だった。半分は人でできてるしそりゃそうなんだろうけど。恋に落ちるってなによ。
バールで残虐の限りを尽くす彼女にぎこちなく声をかけて、彼女もまんざらじゃない感じで答えて。なんか私をおいて甘酸っぱい空気を醸し出してるじゃん?私空気じゃん?
気分が沈みながらも、そろりと二人の脇を駆け抜けた。というか隠密しなくても、私の姿は彼らに認識されていない。空しくなったので、ゾンビの頭をヘッドショットしながら通学路を走った。
カミサマのいない通学路は久しぶりだ。
教室につくと誰も居ない。当たり前だ、教師は来る時間じゃないし、カミサマもいない。校庭ではゾンビがトラックを走り回っている。死んで走るんじゃない。
ぼんやりと眺めていると、やたら距離の近い男女が登校してきた。例のうかれぽんちのカミサマとバールを持った彼女だ。いつの間にかいい雰囲気で、やたら距離が近い、近い。
これが―――嫉妬?
初めての感情を取得したかのような感覚を覚えた。とても妬ましいのだ、いきなり青春し始めたカミサマが。恋愛に興味ありませんみたいな面してたのに、いきなり、いきなり恋に落ちたりするからとても腹立たしい。
はぁ~~~~~~勘弁してくれ~~~~~~。
「リア充爆発しろ」
久しぶりにこの用語を口にする私だった。
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