学校

 校庭では、ゾンビがトラックを走っている。走らずに、日陰で休んでいるゾンビもいて、死んでも生前の行動を繰り返していた。なぜ校庭にたまるかは知らんけど。一日中外にいることなんてないだろうに。


「ねえ?」

「おまえの思考すべてを把握してると思うなよ」


 カミサマはじろりとこちらへ目を向ける。絶対零度の目で見られたし、地を這うようなひっくい声で言われたので、黙ろうと思います。

 おとなしくノートを開いて、ペンを走らせた。


 いかんせん日本の人口が半分になったって、ゾンビがあちらこちらに発生するようになったって、非日常と化すわけでもなく。ただ法律が増えて、武器持たされて、当たり前の日常を過ごせ、だもんなあ。残っている周りが普通すぎて、両親が死んだのもどこか他人事で、もしかしたら何事もなかったように帰ってくるんじゃないかとか思ってるし。どこか麻痺している。みんなそうなんだろうけど。どうしたって日常はやってくるので、強制させられるので。


「はぁ~~~~~~」

「うるさいぞ、小鳥遊」

「たかなしですぅ~~~~~ことりあそびじゃありません~~~~」

「いつにもましてうざいな」


 スッパン、といい音がした。先生が教科書を私の頭にたたきつけたからだ。じーみーに、いたい。


「体罰教師こわっ」

「誰が体罰教師だこら」


 ×××


「お昼だよカミサマ………!!」

「わかってる」

「今日も勝てなかった………」

「見りゃわかる」


 地面に手をついて敗北のポーズをとっていたが即座にやめた。瞬時に無意味だと悟ったからだ。

 お昼ご飯を毎日作るのは面倒なので、いつも購買でパンなどを買っている。そこの購買では幻のパンと言われるチキンカツサンドが数量限定で毎週月曜日に売られているのだが、いかんせん数量限定、月曜限定商品。命がいくらあっても足りないくらいに争奪戦と化すのだ。まだこの校内に人がこんなにもいたのかと思うほど、人でもみくちゃになり、怒号が響き、デススパイラル。飢えた獣たちがチキンカツサンドを求め、奪い合う。むり。あれに勝てるわけがなかった。一番こわいのは生きている人間である。

 とまあ、例のごとく戦争に負けた私は、いつもの焼きそばパンをゲットした。これの競争率はいやに低いので。いやチキンカツサンド以外は結構種類も豊富なので、分散してるんだろうけど。

 もっさりしたパンに、もっちりとした甘辛い麺がのっかっている。ちょうどいい弾力で、焼きそばだけ単品で売ってくれないかと思うくらいにすべてにおいてパーフェクト。パンはもっさりしすぎてダメダメである。


「毎回それで飽きないのか?」

「飽きないよ。つーかあの競争に勝てないんだから仕方ないでしょ。おいしいんだもん。パンはちょっとまずいけど」

「まずいのかよ」

「まずいね。………ごちそうさまでした」


 手を合わせる。あー、ほんとに焼きそばだけ単品で売ってくれないかな。

 お腹が膨れると眠くなる。ちらりと時計を見るが、まだ十二時半。少しだけ寝られそうだ、寝よう。


「食べてすぐ寝ると太るぞ」


 なんだか嫌な忠告が聞こえたが、聞こえないふりをした。





 スパーン!いい音がした。なんかデジャブ。頭痛いし。


「昼寝は気持ちいいか小鳥遊」

「アッハイ」


 スパーン!もう一度いい音がする。うん、完全に覚醒した。

 幸い人は、この暴力教師とカミサマぐらいしかいないので笑われることはないのだが、冷たい視線は受けることとなる。うーん、最悪。いっそ笑ってくれた方がマシだった。

 クラスメイトがいなくなってしまって、先生とマンツーマンみたいなことになっているのはよくないと思う。先生とラブロマンスを繰り広げられないよ………。イケメンだった佐藤くんも今は元気にゾンビしてるもんな、ゾンビと恋愛も無理だし。青春はどこにあるのだろう。

 もう一度、教科書が振り下ろされる前に、ノートを開いた。


 いきてるにんげんこわい!


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