2.悠久ミーティアー
話は家で聞く、ということで自宅に戻ってきた。小脇にカモノハシ隠して帰宅する女子高生は本邦初に違いない。
七時をやや回ったところで、すでに親も起きている。挨拶もそこそこにして自室へ直行、あらためてカモノハシ君と向き合う。
「まずは、匿ってくれたことに礼を言おう。なにぶん、移動にも難儀する身でな」
「うちペット禁止なんだけどね」
「かたじけない。名前を伺っても?」
「
返しつつ、早速スマホで調べ物。コイツの意味不明な発言もそうだけど、そもそもこうして調べなきゃカモノハシ自体どんな生物かイマイチ分からんのだ。
渦中の彼は、無遠慮にも乙女の部屋をキョロキョロ見渡している。相手のことが気になる心境はお互い様らしい。水生生物に見られて困るモノなんて特に無いからいいけどさ。
「んじゃま、聞かせてもらおうじゃないの。アンタんこと」
「うむ。拙者自身は普通のカモノハシである。オーストラリアの自然保護区で暮らしていたのだが、水中である日アタマをぶつけてな」
「ドジっ子?」
「断じて否! 我々は水中で長く目を開けられんのだ」
ネット情報によれば、たしかにカモノハシは水中で目を開けられないとある。代わりにクチバシで生体電流を感知して、それによってエサを獲るとのこと。
にしたって自分の生息域で頭ぶつけんのはやっぱドジだと思う。喋りは偉そうなのにね。
「ともかく、そのショックで拙者は覚醒した。我がDNAに連綿と刻まれた、遥か太古の祖先の記憶を思い出したのだ」
「祖先……宇宙からってやつか」
「それを思い出したからこそ、太平洋を渡り、必死の思いでこの島国まで辿り着いたのだよ!」
銀河宇宙と日本にどういう関係あんのか今ンとこさっぱり分からんが、その苦労は忍ばれた。短い手足を必至にバタバタして、泳いで海を越えてきたんだろう。ニューギニアとかで休憩しながら。
そうして彼は、地球生まれ日本育ちな普通の女子高生であるあたしの常識の到底及ばない来歴を語り出した。
「もとを正せば我々カモノハシ一族は、二億年前に宇宙より
ほう。せいぶつへいき。
「見よ、陸も海も移動可能な優れた体組織! 岩石をも噛み砕き、生体電流を感知する索敵機能付きの強靭なクチバシ! 鋼鉄をも斬り裂く鋭い爪! 例え斬撃で奪命できぬとも致命傷を与える毒を持ち! 恐竜と言えど歯が立たぬ硬い殻の卵で繁殖する! 水中や寒い所でも生き抜けるもふもふな体毛! それにふおぉぉ」
ちょっとうるさいので、なでなでして黙らせた。自分で言うだけあって中々もふもふしている。これじゃ高温多湿の日本の夏はツラかろうよ。
にしても、なるほど生物兵器ときたか。スマホ調べによれば、今述べられた各要素は確かに全て備わっているようだ――全部、大幅にレベルダウンした感じで。話だけ聞くと、SF映画のモンスターさながらだけど。
そりゃ、こんだけヘンテコでクチバシや毒まで持ってる卵生哺乳類ときたら、宇宙生物の子孫ってのも有り得る気はする。人言まで覚えちゃう学習能力も、そういう出自だからと思えば。
「やるではないか……。ときに今、誇張だと思ったな?」
「だって見るからに弱そうだし」
「むべなるかな。祖先はこの星の環境に適応するため、原住生物と交配することで生き延びてきた。ゆえに、今となってはこのようなか弱き姿と成り果てたのだ。かつては本当に、凄まじい戦闘能力を持っていたのだ」
カモノハシという種は、太古の昔から姿が一切変わっていない『生きた化石』であるらしい。一説によれば、かつてはカバくらいの巨大な身体を持っていたとも。
「じゃ、あたしら人間はその創造主様の子孫?」
「それは違う。君達は純粋にこの星で生まれた存在であって無関係だ。……創造主はこの星を早々に見限り、我が祖先達を見捨てて去ってしまったのだよ。この星に住むのはあまりにも危険すぎたからな」
「……恐竜か」
「そうだ」
当時、地球上のあらゆる大地を蹂躙していた巨躯の最強生物達。彼らの最盛期に降り立ったとは、あまりにも間の悪い。いかに生物兵器でも、ティラノサウルス軍団と戦うのはさぞかし骨が折れたに違いない。
「所詮、我らの存在は一山いくら。祖先達は身を護ることに手一杯で宇宙へ帰ることもできず、やがて、この星で生きざるを得なくなったというわけさ」
宇宙航行技術を持った宇宙人でさえ移住を諦めるとなると、地球はよほど厄介な星だったのだろう。今の考古学者達に聞かせたら鼻で笑われそうだ。今のところ一応、ムーよりはネイチャー向けの物語かなとあたしは思ってる。
んで、今さらになってそのアイデンティティを取り戻したカモノハシ君が何を願う?
その答えは、突然の大声にさえぎられた。
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