第7話 捻じ曲げる輪廻

ショッピングモールでの買い物を終えて、ランチを食べに近くにあったファミレスに寄った。


「はい、メニュー。先選んでいいよ」


「ほう、どれどれ…」


パスタやハンバーグ、ステーキ等色々ある中、凪は少々遠慮してか、たらこスパゲッティを選択した。

よく見たら一番安いやつじゃないか…


「他になんか食べたいものある?」


「いや、これで十分だよ」


無神経なフリして、実はこういう所に気遣いができる。このギャップに、僕は魅力を感じたのかも知れない。


「じゃあ僕は…」


凪に少し食べさせようと、大きめのハンバーグを頼んだ。

偶然、財布の中にドリンクのチケットがあったので、飲み放題が無料だった。


「そういえば、今の凪ってどういう存在なんだ?」


戸籍上はもう亡くなっているはずだが、存在している以上色々不便なはずだ。

学校などに通わせるべきなのか、どうなのかはっきりしておきたかった。


「存在…?うーん、一応私の体がこの世界にある以上は、戸籍が無くてもある程度はなんでもできるよ」


「えっ、どういう事?」


「私が質量がある固体として顕現すると、自動的に私に関する情報が書き換えられるの」


「ちょっとストップ」


「なに?」


「いや急にそんなこと言われてもわかんないって」


「簡単に言うと、私があげたキーホルダーあるじゃん?」


凪が言っているキーホルダーとは、凪と初めて出逢った時、また会えるようにと貰ったやつだ。


「それの影響で、私が死んだ時に、私が死んだ時の世界と死んでない時の世界が同時に進むようになったの」


「それって、シュレディンガーの猫みたいだな?」


「まぁ死んだ世界がベースで進んで行くんだけどね」


「で、顕現した事によって書き換えられたと」


「ま、ざっとそんな感じだね」


理解したのか自分でも分からないままだったが、そんなもんかと理屈抜きで納得する。


「って事は、理屈はともかく普通の人間通り生活できるってことね」


「まぁ世界のルートを無理矢理捻じ曲げたようなもんだし」


わけわかんないし頭が痛くなってくる…

あの不思議な出来事といい、凪にはもしかして秘められし力などが宿ったりしているのだろうか。

確証も無い仮定を妄想する。


「お待ちどうさまでーす」


店員が頼んだ食事を持ってきた。

白い麺に上からたらこがかかっている簡易的なスパゲッティと、今でもジュージュー音を立てるハンバーグ。

脂が飛び散り、匂いで食欲を誘う。


「あ、凪。ハンバーグ1口どうだ?」


「えっ、それってもしかして…」


僕のハンバーグが刺さっているフォークを見つめる。

やがて凪の考えている事に行き着く。


「……わかった!あーん」


凪が口を大きく開けた。


「ええっと…」


僕がどうしていいか分からずモジモジしていると、


「はやくーはやくー」


と急かしてきた。


「わかったよ…」


フォークを凪の口絵と運ぶ。

その時間は、刹那であり、無限だった。


「んー!なにこれ、すごく美味しい!

あ、私のも食べてー」


そしてナチュラルに"あーん"をした。

自然な運びで、全く抵抗する暇もなかった。


「えへへっ、照れちゃうね」


僕は見惚れて、あはは…と笑うしかなかった。


その後もゲーセンや公園、いろんなところに行った。

何もかもが初めての体験で、とても充実していて。

それでいて、幸せだった。

幸せな時間は短く、それを感じる度に悲観的になる。

夕焼けに染まる真っ赤な空は、僕らの今の感情そのものだった。

凪が顔をあげて微笑む。

頬が夕日に煌めき、鮮やかに凪を彩った。

その時、凪は何かを察したように口を開いた。


「大丈夫だよ。ずっと側にいるから」


続けて凪が言う。


「明日も、明後日も。この先ずっといるよ」


「………そうだね」


ただ、気付いてしまったんだ。


彼女の瞳が、僅かな涙に覆われていた事に。

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