第6話 少女との休日
目覚めたらそこは自宅だった。
「んんっ〜」
僕が起き上がって伸びていると、布団の中には大きな膨らみがあった。
「またロンか?それにしてもお前、少し大きくなったか?」
そう呟いて布団をめくって見ると、
「んっ、おはよう湊」
………………ちょっと待て。
再び布団を被り、今の状況をしばらく考えることにした。
まさか、僕の布団の中に女の子が潜ってる訳がない。
そう、そんなはずはないのだ。
一糸まとわぬ姿の美少女が僕の布団にいるはずがない。
自己暗示を入念にかけ、再び布団を被ると…
「湊、何してるの?」
居た。普通に居た。
というか結構温もりを感じる。
「あ、暖かい…」
身体が火照って、僕のモノが大きくなっていく。
「ちょちょちょちょっ!な、凪?!」
「どうしたの?」
「なんでそんな平然としてるの!」
「だって私、今日から住むとこ無いからここに居候しようと思って。言ったのは湊だよ?」
言ったとかそんなの全く身に覚えがない。
昨日は途中から思考停止してたから…
「もしかして、昨日のこと忘れちゃったの?」
「わ、忘れたと言うか、元々覚えてないと言うか…」
やんわりと伝えたつもりが、彼女にはそのニュアンスがはっきり伝わって居ないようだ。
「あの時の言葉は嘘だったの…!」
凪は悲しそうに言った。だから僕は、こう言わざるを得なかった。
「そ、そんなわけないじゃないか!僕は今までもこれからも凪のことが好きだぞ」
泣きそうだった顔が嘘みたいに晴れた。
「言質はとった!もうずっと一緒だよ!」
誘導された…と思いながら、嬉しいけどなんか違うような違和感に襲われた。
「………ってか!服を着ろよ!!」
何故か最初に言わなきゃいけないことを、最後に言うことになってしまったのは、僕の思考が追いつかなかったせいである。
「そういえば今日って、土曜日なんだよね?」
「ああ、そうだけど?」
「あ…あのさ…」
珍しく凪が下を向いて頰を赤らめる。
「お出かけしようよ!」
お出かけ…そんな事にほぼ縁がなかった僕には少々重い提案だった。
「お出かけ?どこに?」
「そりゃあ、買い物…とか?映画とか?後は…えっと、えっと…」
「わかったよ。そんな急ぐなって、すぐ準備するぞ」
「うん!」
嬉しそうな凪の顔を見ると、疲れなんて吹き飛んでしまう、そんな不思議な感覚だった。
僕は着替えて、歯を磨いて身支度を済ませた。
「わざわざ待ち合わせ場所を設定するなんて回りくどいことを…」
駅前の噴水ね!と凪に言われ、先に待ち合わせ場所にいるのだが、一緒に行けばいいのにと言ったら、
「ムードとか色々あるでしょ!」
って言われた。 全くわからない。
「お待たせー!」
「お、おう…」
白のワンピースに身を包み、ふんわりとした笑顔をした凪の姿がそこにはあった。
「行くよ!まずは駅前のショッピングモール!」
僕は凪に全てを委ねる形となった。
「うわぁ…すごく大きい…」
「だな…僕も来るの初めて」
果てしなく広がる空間に、思わず目を奪われた。
側面には無数の店が羅列し、エスカレーターを登れば更に同じような光景が一段、二段と続いている。本当に大きく、自分が迷子になりそうだ。
「ねぇ、湊?」
「どうした?」
「広くて迷子になりそうだから…その…手…つなご?」
「お、おう、そうだな…」
上辺だけで返事したものの、女の子と手を繋ぐなんてしたことのない僕にそんな高度な事は荷が重すぎる。
手汗大丈夫かな?汚いとか思われないかな?
そんな事を気にしつつ、勇気を振り絞って凪の手に触れた。
「えへへ…」
どこか照れ臭くて、お互い顔を合わせられない。
手の体温が直に伝わって来て、気分が高揚する。
「な、凪はどこに行きたい?」
「服…かな?」
ぎこちない会話をしながらも、なんとか日本ではだいぶ有名な洋服店に着いた。
「ねぇ湊?私の服…選んで欲しいの」
凪が紅潮して言う。
「わかった。可愛いやつ見つけて来るから、とりあえず凪もさがしたら?」
「うん!楽しみにしてるね」
さて、どうすっかな…
服なんて家にあるものを適当に選んで着て来るような無頓着な男に、こんな大役が務まるのだろうかという不安も感じていたが、凪の為にはとびっきりのやつを選んでやらないとと、再び喝を入れた。
「可愛いやつ…可愛いやつ…」
ハンガーを一つずつどかし、凪の着るイメージをしながら探す。
「…これだな」
黒のミニスカートと、白のゆるゆるなTシャツ。
「はい、これ着てみてよ!絶対似合うからさ!」
「うん!ちょっと待っててね」
試着室に入り、カーテンを閉める。
その奥からする服を脱ぐ音が、正直気になる。
「着れたよ!」
僕の服を着た凪は、単純にすごく可愛かった。
脚が綺麗だからミニスカートと似合うし、ゆるゆるゆるなTシャツも、少女だからかそれほど気にはならない。
全体がマッチしていて、とてもいいと思った。
「それ、とても似合うよ!」
「本当?ありがと」
はにかんで微笑を浮かべるその顔も、僕にとってはたまらなく愛おしかった。
「じゃあ、買ってくるわ」
「えっ、それは流石に申し訳ないよ…」
「凪、お金無いでしょ?」
「あ…ありがとうございます」
彼女さんですか?と店員に言われ、少し照れながらも会計を済ませた。
「次はどこ行こっか?」
「じゃあ…鞄とか買いに行くか」
この時間がいつまでも続けば…
幸せな時は、いつもより時間の流れが早い。
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