第5話 凪の真実の告白

「キミは…」


もう分かっていた。推測せずとも、その顔には確かに見覚えがあった。


「もー!名前で呼んでって言ったの、忘れたの?」


断片的な記憶が、徐々に形を成していく。


「な…凪」


「ぷっ」


凪は口に手を当てて吹き出した。


「なに照れちゃってんの」


凪は僕の事をちゃんと覚えてくれていた。

僅かなピースも欠けてなく、驚く程にしっかりと。


「ずっと…待ってたんだからね」


彼女の言葉には確かに重みがあった。

これ程の月日を重ねた重圧が。


「はは…ごめん、この場所がわからなかったんだ」


「いいよ、今日こうして会えたことが一番嬉しいから」


凪は僕に向かって走って来て、僕に抱きついた。


「本当に、すごく嬉しい。今までのどんな時よりも幸せ。ありがと」


僕の肩に顔を乗せ、そう言った。

その時の彼女の表情は、きっとどんなものよりも美しかったのだろう。


「……星。綺麗だな」


「うん、あの時みたいにね」


今、あの時の少女と、あの時と同じ光景を見ている。

その事がどれだけ奇跡的な出来事だろうと、それを知る人物は僕らしかいない。

そんな優越感に浸りながら、至福の時間を過ごす。


「僕今、凄く幸せだよ」


「私も」


「ありがとう」


「……うん」


彼女の顔には涙が浮かんでいて、

それはそれでとても美しく輝いていた。


「…実は言わなきゃいけないことがあるの」


「うん」


「えっと…あの…」



僕を抱きしめながら、ゆっくりと告げる。


「私…幽霊、なんだ…」


凪の身体はとても暖かいはずなのに、その小さな凪の身体には、果てしなく大きなものがのしかかっていた。

僕はこの一瞬でそれを理解する事はできなかった。


「それを今日、どうしても言わなきゃって…」


僕が理解できないまま、彼女は喋り続ける。


「私、もう会えなくなっちゃうかもしれないから…」


「ど、どういう事…?」


「私、多分ここに未練を残した地縛霊なの。

だから未練が無くなったら消えちゃうかもしれない」


「その未練が、この僕なのか?」


「…それはわからないけれど、貴方とここで出逢った後に、私は亡くなったの」


「………え?」


次々と情報が投げられ、凪の話は止まらない。


「車の衝突事故だったみたい。私はそこで亡くなった」


僕は彼女が今ここにいる理由がわかった。

ただ、情報が少なすぎる為に曖昧に漠然とした理解だった。


「でも、君はここにいる。それだけで僕は十分だよ」


おそらく僕は彼女の半分も理解していない。

なのに、上の空で言葉を紡ぐ。


「ま〜たそんなセリフ吐いちゃって。ちょっとそれ貸して」


そう言って僕の首に掛かっているキーホルダーを手に取った。


「わたしがあの時なんて言ったか覚えてる?」


「ああ、これを持ってればいつか会える、だっけ?」


「うん。あと、大事にしてよねって」


「ちゃんと守ってた」


「………ありがと」


小さくそう言うと、彼女はキーホルダーに語りかける。


「お願い。私の願いを叶えて…!!」


刹那、黄金に輝き視界が白く染まる。

すると、凪の柔らかな声が聞こえてくる。


「やったぁ!やったぁ…!」


視界に入ったのは、さっきよりもはっきり見える凪の姿。


「ど、どうなってるんだ…?」


更に非現実で突飛な出来事を目の当たりにし、唖然としていると凪が顔を覗き込む。


「ふふっ、やっとここから出られる」


とびっきりの笑顔でそう言った。


「…お願いがあるの」


「な、なに…?」


頭が真っ白になり、半分上の空で質問した。


「私を、ここから連れ出して!」


もう訳が分からなくなり、僕の思考が途絶えた。

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