第2話 僕らの学園生活

ここは都内ではあるが、23区外なのでそこまで騒音はない。

周りは住宅街で、木々が立ち並び、自然と共存している。

その真っ直ぐに延びた道、見慣れた景色。

ようやっと車が走り始めた時間帯。

まだ夏でもないのに、気が早い蝉はぼっちで必死に鳴いている。


「よう、湊!今日も元気か?」


そう肩に手をかけて来たのは、瀧島 空。

寝癖で朝はいつも髪の毛が逆立っているが、

それが空と絶妙にマッチしている。

中学のクラスが3年間が一緒だった事もあり、

今では親友と呼べる関係にまでなっている、俺の数少ない友人だ。


「ほんと、朝から暑苦しいわね、あんた達」


2人の会話に入って来たのは九条 可憐。

こちらも中学からの友人で、紫髮のロングストレート。

美しく凛とした表情をしていることが多く、男子は勿論のこと、女子にも人気が高い。

中1の頃に僕と空が一緒に下校している最中偶然出会って、帰る道が同じだった事で、今では3人で下校することが多い。


「周りからしてみれば、みんな同じようなもんだろ。暑苦しいのが男ってもんだ!な?」


空は手を頭の後ろに組んで言った。


「賛同はするけど…暑苦しい」


「み、湊が!俺を見捨てたぁぁぁっ!」


「落ちつけって…見捨ててはないから。

そういえば可憐、話変わるけど昨日の数学課題難しくなかった?」


「まぁいつもよりかは応用問題が多かった気もするけど、大した事なかったわよ?」


「流石可憐だわ…」


「空?何でそんな青ざめた顔してるの?」


「や、ヤベェ…俺そんなん知らねぇよ…」


空は、まるで人類が滅亡するかのような絶望に満ちた表情で言った。


「あー、なんて言ったらいいか分かんないけど…取り敢えず、どんまい」


「あは、あははははははは…」


「いつになったらこの忘れっぽさを治せるのよ…」


天を仰いで生気の無い笑いをしている空を見ると、なんだかものすごく申し訳なくなってくる。今日は踏んだり蹴ったりだな…


「だ、大丈夫だよ、提出は放課後だから。

僕らも手伝うからさ、ね?」


「いつもの事だし、わかりきってた事だからいいわ」


そんな声をかけると、空は魂を取り戻した様で


「う、うう…ありがとう…」


こんなのんびりとした、なんでもない日々がいつまでも続くと思っていた。

あの子の正体に気付くまではーー


僕が通っている紫仙高校は、学力平凡で極一般の進学校だ。

校門の前に風紀委員が何人か立っていて、服装や髪型の校則違反を指導している。

僕らは当然校則違反などしたことがないので、元よりそんなことは関係ないのだが。

道をまっすぐ進むと昇降口がある。

僕ら3人は高校のクラスまでもが同じという、異様な幸運に見舞われた。


「可憐ちゃんおっはよ〜!」


「あら、美月さんおはよう、今日はいい天気ね」


可憐はいつも教室に入るやいなや、女子のクラスメイトに囲まれるので、大体ここで別れる。

天気の話を持ち出すのはコミュ障の常套句だと踏んでいたが、可憐が言うと何だか品がある様に聞こえる。


「じゃあな可憐」


「また後でね」


「ええ、またね」


そんな短い会話を済ませ、僕らは席に着いた。


「授業全然やる気でねぇわ…」


「僕も怠い…共倒れだな」


「俺の課題手伝ってくれるんだよなぁ?!

生きててくれよ?!」


僕の身体を揺さぶって問いただす。


「分かってるよ、まぁ僕より可憐がいた方が戦力になるけどね」


怠い、けど楽しい1日が始まろうとしていた。

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