第6話 葛藤の先

 デレ度100パーセントの性格……だと!?

 常に人を殴る空純が? 聞き間違えかな? そうだよな、きっと。


「もう一回言って?」


「デレ度100……恥ずかしいです!」


 ボゴォ!


 また殴られた。

 よし、嘘だろうが本気だろうが、この性格を変えたいと言っている今がチャンスだ!


 殴られ続ける人生はごめんだ。まだ一人暮らしする目処が立ってない今、空純の性格改善に精を出すべきだ!


 と、いうわけで俺と空純は俺の部屋へと移動して座った。

 そして俺は、少し偉そうに空純に問いかける。


「えー、ではまず、『デレ』とはなにか」


「デレデレすることだと思います」


「うむ、よしわかってるな。では次、『ツン』とはなにか」


「ツンツンした人のことだと思います」


 なんだ、ちゃんと分かってるじゃないか。これは改善も早く済みそうだぞ。


「じゃあ『殴る』という行為は、どちらに含まれる?」


「ツン……だと思います」


「うむ。では、これからは俺を殴らないように。それがまず最初にやるべき行為だ」


 話が逸れ始めた気がするが、気にしない気にしない。己の命を一番に!


 俺の言葉を真に受けて、空純は浴場へと向かった。

 空純の足取りは、悲しむ様子も怒る様子もなく、何かを考え込んでいる感じだった。


 そんなにも『デレ』になりたかったのか、と思い、少し胸が締め付けられる。

 自分のことばかりを思い、相手の気持ちを二の次に考えていた俺はバカでミノムシ以下だ。兄が妹の気持ちを優先しなくて、なにを優先するってんだ!


 俺は自室の積まれた本棚の中から、とびっきりの『デレデレ』系ライトノベルを探す。できれば妹がデレデレモノを。


「――ッ」


 ある本を見つけて、俺は声が詰まる。

 なぜ俺がその本に気が付かなかったのか。それは、隣に『妹が大大大好き』という名の本が置いてあったからだろう。


 今、この立場になると、『妹が大大大好き』よりも先に目に入った『お兄ちゃんが大大大好き』という本。全四巻で、見ると三年前に完結したらしい。

 それから幾度となく本を買いまくっていたので、この本に気が付かなかったのだろう。


 本をギュッと握って、これを空純に貸してあげれば……! と、思って作者を見ると、『妹が大大大好き』と同じだった。


「なあああああああああああああにいいいいいいいいいい!?」


 家の中を轟かせる俺の声。アニメなら家が動いたりするシーンだ。

 それほどまでに声を上げたせいで、風呂を切り上げた空純が真っ白の薄いワンピースで上がってくる足音がする。


 ――ヤバい!


 いや、いいのか? 見せようと思ったんだし、見せてもいいよな。

 ……いや待てよ? インターネット使って作者つながりで『妹が大大大好き』の本が見つかったらどうしよう!


 と、考えているうちに、空純が勢いよく扉を開けた。


「な、何があったんですか!?」


「えーとな、あーっと、そうだ! これを貸そうと思ってさ。読むか?」


 とっさに背中に隠した『お兄ちゃんが大大大好き』の本を空純に見えるように渡す。すると、


「これ、読みました」


「へ?」


「タイトル的にこれが私にベストかと思いまして。次いでに『妹が大大大好き』って本も読みました。まさかお兄ちゃんがあれを買っているとは思わず、少し引きました」


 軽蔑の眼差しで後ずさる空純。止める手立てはないし、止める理由もない。……てか、


 ――読んでたのかよっ!!


 そのまま後ずさって自室に戻って眠る空純。俺もなんか色々疲れたので、風呂に入って寝ることにする。



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