第5話 空純の本心

「出来たァ!」


 料理、と呼ぶには些か浅はかではあるが、一応空純と協力して作ったチャーハンがダイニングテーブルに並んだ。


「お兄ちゃん……これって……」


「ん? チャーハンじゃん。俺と空純が一緒に作ったヤツだ」


「でも……真っ黒……」


 そう、本来のチャーハンはきつね色の美味しそうなのが一般的だ。けど、今ダイニングテーブルに並んでいるチャーハンは真っ黒。

 理由は空純が焦がしたから、ではあるが、俺はそれでも、


って所に意味があると思わないか? チャーハンの味云々の前に、初めて協力して作ったんだ。俺は食べるぞ。空純はどうする? 嫌ならまた新しいの作るけど」


 スプーンでチャーハンを食べた。……これはまた、すげぇ味だな。

 今後空純に料理はさせない。俺は涙を流しながら心に誓った。


「やっぱり私が手を加えたばかりにそうなってしまった…………んですね」


「おいおい、どうした? 随分弱気な発言だな。気分悪いのか?」


 気落ちする空純を慰める意も込めてからかってみたが、空純はさらに気落ちした。


「ちょっ、どうした? マジでどうした!? 何かあったなら言ってくれ! これでも兄だぞ」


「じゃあ質問します」


 おぉ、なんか先生みてぇだな。


「なぜお兄ちゃんは私に優しくするのですか?」


「……は? 兄なんだから当たり前だろ」


「――ッ!」


 顔を赤面させて俯く空純。……俺、変なこと言ったか?


「お兄ちゃんの……ばか」


 えぇー……何故に俺は罵倒されてるの? って反撃すると殴られるだろうしなぁ。

 触らぬ神に祟りなしって言うし、今は触れないでおこう。


 話題を変えるべく、俺は共通の話を考える。

 ラノベ脳の俺が、真面目勉強家と何を話せばいいんだろう。と、考えた矢先、一つ疑問浮かんだ。


「空純、なんで昨日今日と俺の部屋にいたんだ?」


「………………」


 俺の問いかけに空純は黙って俯いた。

 別に俺は怒っているわけじゃない、純粋な質問なんだ。


「あの……」


 数分後、空純はようやく口を開いた。

 相変わらず声が小さいので、頑張って聞き取れるようにしながら話を聞く。


「私……お兄ちゃんのライトノベルを……拝借していました……」


「は? ラノベ? なんでまた」


 空純の口から“ライトノベル”って単語を聞く日が来るなんて、考えたこともなかった。

 親近感湧くなぁ。


「ライトノベルでその………………性格を…………」


「ん? なんだって……と、言うと思ったでしょ? 言いそうだけど言わないよ? 言ってないから殴るのはお門違いだぞ!?」


「じゃあ、なんて言ったか分かってるんですね?」


「なぁ空純、人生とはなんだ? 俺は考えても答えにたどり着かないんだよ。難しいよな、ああ難し――ッて! なんで殴るんだよっ!」


 ……まぁ、分かってたけどね? わかって上で言うと、超痛い!


「はわわ……またやってしまいました……」


「ん? なんか言ったか?」


 パァン!


 ビンタ直撃。俺、学習しねぇなぁ……。

 痛む頬を撫でながら涙を流して地面に座り込む。おぉ痛い……ほんとに痛い……。


「どうしましょう……変えたいのに変えれません……。なぜライトノベルの女の子達は皆して性格がいいのでしょうか……」


「え、性格どう変えたいんだ?」


「聞いていたのですか……!?」


「目の前で独り言言ってて、聞いてない方がどうかしてるだろ。で? ラノベ関係なら俺におまかせあれ」


 痛む頬など既に忘れて、バッと立ち上がってカッコつけてみた。相手妹だけど。

 それでも俺は、妹の本心が聞けた気がして、とても嬉しいのは間違いではない。変えたくて変えれないのであれば、少しでも俺が支えになってやる。それが兄の務めなのだから。


「で、どう変えたいんだ? ツンツンした性格を少し和らげるとか? 人を殴らない風にしたいとか?」


 純心に訊ねる。

 きっとこうであろう。といった、俺の勝手な想像で言ってみたが、返ってきた返答に思わず声を失った。


「デレ度100パーセントの性格です……」

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