第56話 難関突破せよ

 畑が見えてくると、『放送局さん』の丸っこいぷりっとしたお尻があるのに気づいた。でも、畑のおくのほうだったし、なにやら前屈みになって、足もとのあたりをいじくっている。このまま、つっぱしれば気づかれずにすみそうだ。


 くだり坂の勢いも手伝って、光の速度で畑の前を通りすぎる。ブレーキをかけると大きな音がでてしまう。だから、おっかないけど、一度もブレーキをにぎることなく、ぐいんとカーブを曲がる。


 カラカラカラ。

 車輪の音はどうしてもなる。

 あたしは、どきどきした。

 肩に力を入れて、風の抵抗を少なくするために体を前に倒す。


 いけ、いけ、オンボロ号。

 ビューンとカーブを曲がりきる。


 ちらっとうしろをふり返ると、『放送局さん』は熱心に畑仕事をしていた。

 ふぅ。

 一番の難関をクリアだ。


 カラカラカラ。

 リズミカルに自転車は音をならす。

 

 青空には白い雲が、たくさん浮かんでいた。

 小さな雲。大きな雲。

 ひこうき雲もあった。白く長く、空に線を引いている。

 地球が割れても、空は存在するのかな。


 爽快な景色に、思わず鼻歌を歌いそうになって、あわてて、だまってなくちゃいけないことを思い出した。前の道を右に曲がれば、あとは十字路まで、まっすぐだ。


 自分が一番かな。

 それともミコちゃん?


 ケイゾーは最後に決まっている。

 荷物も多いし、ノゾムくんもいるから。


 あたしは、ギッギッと自転車を急に止めた。右に行くところを、左に行けば、ケイゾーの家に行ける。何か、もしかしたら手伝ったほうがいいだろうか。ケイゾーは、よし子のほかに、お酒と米を持ってくるはずだ。この二つを持ってあげてもいいかな。


 自転車のハンドルを左に向けると、ぐんとペダルを踏み込んだ。

 あたしって、よく気がつくんだな。

 ケイゾーの、感謝感激する姿を思いうかべながら、ぐんぐんと先を急いだ。

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