第42話 あんず、目がハートになる
「なにがおこってんだ?」
ケイゾーがずいっと前に出る。えらそうな態度だったけど、緊張をかくそうとしているのがわかる。肩に力がはいっているし、手はぎゅっとかたく、にぎられていた。
あたしは『よげんの書』から煙がふきだしたのを知っているから、なんとなく状況がわかったけど、ケイゾーとミコちゃんはちがう。ちょっとパニックになっているかもしれない。ここはあたしの出番だな。
ケイゾーの横にいくと、失礼かなと思いつつ、前を指さした。
「これ、『よげんの書』の精霊だよ」
「せいれいぃ?」
ケイゾーが納得いかない顔をする。
くすりと精霊が笑った。
「そう思ってくれて、かまわない。わたしは精霊なのだろう」
「なのだろうって。ちがうんなら、ちがうって言えよ」
怒り出すケイゾー。
精霊は「そうか」と言って、ほほ笑む。
余裕のある態度だ。
それがしゃくにさわったのだろう、ケイゾーは精霊をにらみつけた。
あたしは肩ごしにふりかえって、ミコちゃんを見た。不安げに手をにぎり合わせて胸でかかえている。目はずっと精霊に向けたままで、あたしの視線には気づかない。
「いいじゃん」と、あたしは前に視線を戻す。
「精霊ってことでさ。それより時間がないってどういうこと」
精霊がにっこりする。
あまりの完璧なほほ笑みに、顔が熱くなってきた。
ゲームやアニメに出てくる王子様だって、こんなにステキじゃない。
人間じゃないってわかっているけど、かっこいいって思ってしまう。
ミコちゃんもそう思っているのかもしれない。もう一度、ちらっと見てみたけど、やっぱり、精霊のほうをじっと見ていて動かないから。
「重大なことがおころうとしている」と精霊。
重々しい口調だ。顔もちょっと、けわしくなった。
「だが、手順さえまちがわなければ、心配することはないんだ。わたしの頼みを、君たちがきいてくれさえしたらね」
「だから、なんだよ。わけわかんねーよ」
ケイゾーがふんぞり返る。緊張がとけて、今度は腹が立ってきているようだ。
でも、あたしのほうは彼とはまったくちがう感情の波が押しよせて来ていた。
危機感。
あたしは、そわそわしていた。すぐに精霊に協力しないと、とんでもないことがおこりそうだって予感でいっぱいだった。
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