第18話 ビンボーなあんず

 まあ、いいさ。

 おばあちゃんがよく言っている。

 元気と寝るところさえあればいいって。


 それにしても、イチゴが食べたい。目を閉じると『放送局さん』のつやつやイチゴがはっきりと浮かんでくる。でも、うちの畑にはない……、いや、あるけど、しょぼすぎて鳥のエサだ。観賞用ってことにしてるらしい。


 麦茶をもう一杯飲みながら、冷蔵庫を開ける。喜ぶようなものは入っていない。アメやガムでいいんだけど、いつからあるのかわからないマズいのどアメが二つ、かつお節のパックのとなりに転がっているだけだ。


 ひもじさを抱えながら、台所を見回していたら、電子レンジの横に、大袋のカラ付きラッカセイが置いてあるのを見つけた。おばあちゃんが買ってきたんだろう。


 おばあちゃんは、豆やせんべい、かりんとうをよく買ってきて、あたしやお姉ちゃんにも分けてくれるけど、正直、あまりうれしくない。どうせ買って来るなら、クッキーやスナック菓子がいい。チョコと黒砂糖なら、チョコがいいに決まっている。


 でも、お母さんは、「おやつなんか食べなくても、死なない」って人だから、分けてくれるだけ、おばあちゃんはマシなのかもしれないけど。


 家には誰もいなかった。いつもはおばあちゃんがいるはずなんだけど、この日は近所に出かけているらしい。一番遠くの畑まで行っているのかもしれない。そろそろ夏野菜に向けて準備が忙しいって言っていたから。


 自分の部屋にあがりランドセルを放り投げるとそのままにして、Tシャツと短パンに着がえた。短パンはお姉ちゃんのおさがりで、色あせはじめたカーキ色だったけど、Tシャツはこのあいだ買ってもらったばかりのものだ。


 なんで白いシャツばっかりなの、ってミコちゃんがきくから、今回は水色のやつにした。ミコちゃんは一人っ子で、いつも高そうなオシャレな服を着ているけど、うちはお父さんがいないしビンボーだから、洋服をえらぶってことは少ない。


 ぶっちゃけ、ミコちゃんのおさがりがもらえたらなって思うんだけど、残念ながら、あたしのほうが、サイズがデカいからムリなんだ。服も靴も頭のサイズまで。頭くらい同じかと思っていたから、これにはちょっとショックをうけた。


 でもサイズがないわけじゃないから気にしない。

 お母さんなんて、足が入る靴がないって言って、男ものをはいているから。

「いずれ、あんたもそうなるよ」っておどすけど、まだその日は来てない。


 出発前にもう一杯、お茶を飲んだ。


 暑くて、すぐにのどがかわく。水とうを持って行こうかなとも思ったけど、すぐには見つからなかったからやめた。お姉ちゃんに使われないように、人気アニメのキャラクターシールをでかでかと貼っていたんだけど、おばあちゃんが畑に持って行って使っているのかもしれない。

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