第10話 あんずはコーンフレーク派

 翌朝。

 目がさめると一番に、『よげんの書』に手を伸ばした。


 何か変化があったらすぐに気づくようにって、まくらもとに置いて寝たんだけど……

 残念。夜に光り出すとか、不思議な夢を見るなんてこともなく、まったく変化なしの普通の本。本当に、つまらない。


 でも、朝になったらって、さっそく、始めから開いてページをめくってみたけど、やっぱり何の文字も書かれていない。もしかしてって、期待してたんだけど、がっかり、白紙のままなんだ。


 パッとしない寝起きだったけど、よげんの言葉を思い出して、シャキッとする。

〈トモダ先生にキケンが……〉

 うーん、思わず鼻の穴がふくらんじゃうね。

 なにが起こるのか見逃さないように、ちゃんと見はっとかないと。


 学校の制服に着がえて、朝食にコーンフレークに牛乳をたっぷりかけて食べる。あたしはこうやって、しっかり牛乳にフレークが浸っているくらいが好きなんだ。チョコ味も好きだけど、この日はプレーン味。


 ジャクジャク音を鳴らしながら食べていると、早朝から畑に行っていたおばあちゃんが、戻ってきた。あたしの顔を見て、「元気なったね」ってにっこり。


「うん。カレー、今日の晩ごはんに食べれる?」

 もう、全部食べちゃったかな。

 でも、おばあちゃんは、よっこらしょっと椅子に座りながら、「なら、お昼に食べずにとっておくよ」って言ってくれた。


「うん、ありがと。ごちそうさま」


 パチって手を合わせて立ち上がり、食器を流しに運んだ。そうしていると、階段を転げ落ちるような音をさせてお姉ちゃんが起きてきた。


「テスト勉強しすぎたーっ」

「徹夜はよくないよ」とおばあちゃん。

「徹夜じゃないよー」


 お姉ちゃんはそう答えながら、冷蔵庫に顔をつっこむ。


「あ、カレー食べていい?」

「ダメ!」


 あたしとおばあちゃんの声が重なる。

 それから、プッて二人して笑った。お姉ちゃんは、何なの? って顔をしていたけど、カレーはあきらめて、あたしと同じようにコーンフレークを食べることにしたらしい。


「グラノーラがいいんだけど」

「どっちもにてるじゃん」


 ちがうしぃ、とお姉ちゃんはあたしにあきれた視線を向ける。


「あんた、友だちにダサいって言われない?」

 ちょっと、朝っぱらから感じ悪すぎ。

 言い返そうと息を吸い込んでいると、おばあちゃんが割って入った。

「ほら、遅刻するよ。時計見てごらん」


 かべ掛け時計の針がちょうど真上に動いた。

 やばい。っていうか、お姉ちゃんはもっとやばくない?


 中学までは自転車通学だ。それでも距離が小学校のときの倍になるから、急がないと遅れてしまう。お姉ちゃんは火がついたように、コーンフレークを口にかきこむ。それから、むせて白いしぶきを吹き出す。


「きったなーい」

 あたしは言ってやってから、逃げるようにランドセルを急いで背負った。

「じゃあ、行ってきまーす」

「はい、気をつけてお帰りね」

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