第4話 急襲1
──午後九時。
ヒュ~~~・・・ドーンドーンドドドドーン
永田町周辺に七色の花火が上がる。その中心にはSDという文字が浮かんでいる。作戦開始の合図である。
――総理官邸前。
一人の人が暗闇から現れた。膝下まで伸びた黒のコートに背中には白色でShadow Demonという文字が刻まれ、顔には般若の面を着けている。更に右手には二五cm程度の筒状のものを持っている。
「ハズレくじを引いた皆さん、罰ゲームは俺と仲良く遊ぶことです」
昴は高らかに宣言すると、右手の斬光剣を始動させ一番手前にいる敵を斬りつける。斬られた者は反応できずに胴から斜めに血を散らした。
「ざ、斬光剣だ」
ある人がそう言うと全員こちらを見て武器を構える。
「知覚能力の低い者は撤退、本部に葉風昴が現れたと報告。応援を送ってもらうように言ってくれ」
田端人史警部補が的確な判断を下し、下位の者を下がらせる。この場で一番位が高い訳ではないのだが。
人史は正眼に刀を構える。
「葉風昴。何故こんなことをする?全部聞いたぞ、総合成績Sであることを。そんな才能に恵まれているのに何故?」
「全部聞いているならわかるだろ。一人裏世界に生き、仕事を達成しても誰からも褒められないだけでなく、認知すらされない。お前だって俺がこんなことしたから知ったんだろ」
「反論はできない。事実その通りだから。それでも考え直せ。こんなことをして何になるんだ?仲間だっているんだろ?仲間を危険に晒してまですることなのか?」
「俺が何の為にやっているかわからないなら黙っていろ。俺のやろうとしていることに邪魔をするな」
昴は話すだけ無駄と言うかのように剣を振った。人史は寸でのところで受け止めた。
無駄話のせいでこの場には知覚能力が高い者だけになっていた。
昴に対して総攻撃を仕掛ける討伐隊。その面子は警察も軍部も関係なくいる。それでも国内ということで警察の方が多いが。
しかし昴は右手一本で全てを裁く。所詮使いっぱしの雑魚だ。師団長なり課長なりが相手なら左手を使うが。
それでも中には数人腕の立つ者もいる。例えば先程話をした者。乱戦の中で良い立ち位置を取っている。他の人を狙った攻撃を悉く防いで致命傷を与えないようにしている。
しかし今回俺だけが攻めている訳ではない。
プシュッ、プシュッ、と銃弾が当たる音があちこちから聞こえる。それと同時に呻き声が聞こえる。優佳による狙撃。知覚能力が高いと言えど昴に集中している中他のことにまで手を回せる余裕があるはずがない。
優佳がどこにいるか知らなかったが一発目でどこにいるかわかった昴は優佳が撃ちやすいように位置取りをした。
そのおかげで敵はどんどん減っていき、最後には腕が立つと思った四人だけが残った。かすり傷を大量に受けているが。
そのとき後方から何かが飛んできた。昴は反射で横に跳ぶ。刹那、昴が立っていた場所で爆発が起こり、余煙が天に昇っている。
「ようやく遊び甲斐のある奴が来たな」
「今の躱せるとはやはり只者ではないな。大丈夫か、お前ら」
「はい、俺たちは何とか」
「そうか、まだ行けるな。サポートを頼むぞ」
「「「了解」」」
今まで苦虫を噛んだ顔をしていた人史たち四人はこの男の登場で目に闘志が現れた。
「警察庁特殊八課課長畠中圭介警視正だ。お前も名乗れ」
「《砲台の圭介》ってのはお前か。日本国軍影隊隊長葉風昴大佐。今は《
「なるほど。貴様があのS級か。S級がどのくらい凄いのか見せてもらいたいものだな。なんせ今までS級とは手合わせしたことがないからな」
「あんま舐めてっと、ぶっ殺すぞ」
昴は怒鳴ると同時に地面を蹴る。肉薄する昴に対して圭介は得物の砲台をひっくり返すと底面だった部位から筒の穴の大きさそのままのレーザー剣が伸びた。それで昴の斬光剣を受け止める。
すぐにがら空きの昴の背中を狙う人史たち。これを察知した昴はあっさりと引き下がる。
圭介の得物は爆発弾を撃つ面と直径約十五㎝剣身六〇㎝のレーザー剣というよりレーザー棒が伸びる面を持つ長さ六〇㎝の砲台である。
「面白い武器を使うな。てかこの感じ全員同じ課ってとこか」
課長の登場による士気の上昇と動きの良さからわかる。
「それにしては人数少ないんじゃないか?俺の予想は一つの場所に一つの課が付くと思ってたんだけど」
「その通りだ。特殊八課でここを守っている。だがまさか正面からやってくるとは思わなかったからな。そこらかしこに配置してあったのだ。しかーし、もう全員揃っている。今が攻め時だ。全員突撃」
おおお、と雄叫びをあげながら昴中心に全方位から攻撃を仕掛ける。その人数約百人。課の先鋭中の先鋭だ。
しかし昴は動じることはない。優佳からの援護はないとわかっている。他の戦場の方が大変であるはずだから。
昴はコンマ零零一秒で服の中の銃を取る。それを自分の足下に向け引き金を引く。
ピカーン、その辺りが光に包まれる。閃光弾。昴が銃に最初に込めていた弾である。
その場のほとんどが直撃し、目を潰される。そこに昴は容赦なく刃をむける。伸びる剣であることの優位さをふんだんに使い敵を斬り刻む。
たったの数秒であるが半分に減らしたのは昴の強さなのか、はたまた敵が弱いのか。
ここからが昴の真骨頂である。一剣一銃。それが昴の本来の戦いのスタイルだ。
視野が戻ったところに間髪を入れず引き金を二度引く。実弾が二弾、さらに二人の敵を減らす。
ここでようやく敵の攻撃が届き、昴は剣を縮めて防御に徹する。
攻撃の起点は圭介。砲台からレーザー棒を出し、振り回しながら昴を襲う。少林寺拳法の棒術のように。
昴は左下、顔、背中、右脇腹、右後ろ、下、頭、左肩、左腰、胸とたった三秒の間に剣を振り身を守る。圭介の攻撃だけでなく周りからの銃弾や剣撃をも躱し防いでいた。
攻撃の手が一瞬緩まった。その刹那の時間を見逃さず昴は地面に向けて銃を撃った。
キーン───。
高音で不快な音が響き渡る。学お手製の音弾である。昴は耳に着けたインカムの防音機能により影響を受けないが敵は何の対応もしてないため、身体が固まる。
動きが止まった二秒程度の時間で昴は二人を残して敵全員を戦闘不能の致命傷を与えた。これが斬光剣が最強の剣と謳われる理由である。
昴は斬光剣の伸びるボタンを押し続ける。そうすると剣先は敵の武器にぶつかり反射する。それをこの場のありとあらゆる金属に反射、時には乱反射してこの場を斬光剣で埋め尽くされ、その光の通り道に敵がいれば斬るという至ってシンプルな攻撃である。
しかしたたでさえ見えない剣筋を身体が竦んだ状態で回避することは至難である。現にこの攻撃を防げたのは圭介だけである。もう一人残ったのは斬光剣の通り道に立っていなかった人史だった。
圭介は息が荒くなり、汗だくになる。今の攻撃は本当に危なかった。認識するよりも先に身体が動いていた。こんな経験初めてである。初めて命の危機を感じた。
課の先鋭をもってしても止めることすらできないのか。
無力感に押し潰される圭介。対照的に人史は刀を強く握った。込み上げてくる怒りに。
「テメェーーー」
人史は昴に刃を向ける。だが怒り任せに振る刀が昴に当たるはずがない。
人並み外れた速度で振られる刀を涼しい顔をして躱す昴は渾身の上段斬りを脚を振り上げ受け止める。
「お前誇っていいぞ。偶然と言えどライン上にいないで《尖光蜘蛛の巣》を回避したんだからな」
「うるせえ。テメェから褒められても嬉しくもねぇよ。畠中さん、どうしたんすか?」
圭介は呆然と突っ立ている。焦点は何処にも合っておらず人史が孤軍奮闘しているにも関わらず精気を感じられない。現に人史からの声にも反応しない。
「あれは終わった目をしている。自分の無力さに絶望しているんだよ。あいつはもう立ち直れないかもな」
昴の一言に人史は一度止まった刀を再び振るう。幾ら激昂しても当たらないものは当たらない。
昴はイージーゲームと高を括り他の戦場に気を飛ばす。
次の瞬間、昴は目を大きくして人史を突き飛ばし自分も後ろに下がる。
ドン―――。
先程まで二人がいた場所に長さ約二m幅約三〇㎝の大剣が突き刺さっていた。半径一〇mの地割れをコンクリートに刻み。
「これを避けるとはさすが俺の弟だ」
闇夜からドスの効いた声が響く。その方角を見ると全身に身に纏った金色の鎧が月光に反射して輝いていた。
「お褒めに預かり光栄です、兄ちゃん」
今度は昴が冷や汗を掻く番である。偶然遠くに気を飛ばしたことで兄の存在に気付き、いち早く回避することができた。運も実力の内と言うが運が良すぎる。
「全員に通達。兄ちゃんが出現。作戦に変更はない。お前らも頑張れよ」
昴はインカムを通して仲間に交信する。ここからが昴にとっての佳境である。
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