第4話 キャバクラのお酒の作り方
「店長」
冷たい声が響いた。
「あなた男にまで手を出したら、脳みそが下半身にもついていないことになりますよ。」
「やだなーじゅん。スキンシップだよ。俺犬みたいなもんだから。えへへ・・・」
えへへじゃすまないですよ。本気で危険感じちゃってましたからね。
「じゃあ、そんなじゅんくんからのお酒つくり講座でーす。」
店長は僕の横をじゅんさんに明け渡すと元居た対面に座りなおした。
「あ、あのっ・・・」
僕は少し不安なことがあったのでちょこっと手を挙げた。断っておくが店長のことは少しどころではなく不安である。
「お酒って女の子が作るものじゃないんですか・・・?」
店長はちょっと考えて、
「かえでくんちょっと立ってみて!」
ほれほれと言って僕をたたせる。
「ここから見える席にお客さんが座るんだけど何席あると思う?」
1・2・3・4・・・・5・・・???
「だいたい100くらいですか?」
「そう!だいたいそれくらい!まあ俺も数えたことないんだけどね!」
「それとお酒を作るのって何か関係があるんですか?」
この際店長がアバウトなのは気にしない。学んだ。気にしたら負けだ。
「じゅーん!今日のうちの出勤何人だっけー?」
横で持ってきた器具の整理をしていたじゅんさんは胸ポケットからメモを取り出した。
「23人で、内2人が派遣ですね。ゆうなさんとせれなさんは同伴のため遅れるそうです。」
「ありがとう。忘れちゃうからまた朝礼で教えてね。」
店長はこちらを向きなおってまじめな顔を作って人差し指を立てた。
「つまりお客さんに対して女の子が足りてない」
「だめじゃないですか。」
ま、まさか僕に女装して接客しろとでも・・・
「言わない。言わない!まぁそれもありだけど・・・」
「や、やっぱり帰ります⁉」
やだ、もう女装はこりごりだ。同級生の男に告白されすぎて彼女はできない生活なんてもういやなんだ。
横のじゅんさんは僕の後襟をつかんで座らせた。
「店長、いい加減にしないとほんとに逃げられちゃいますよ。」
「いやあごめんごめん!反応がいちいち可愛くてねー!」
店長は煙草の火を消して、
「これはわざと減らしてるんだ。経費が馬鹿にならないからねー」
また煙草の火をつける。ふぅーと大きく息を吐きだす。
「そこでお酒の話、待ってるお客さんにはお酒をウェイターが作る。」
こんな感じで・・・・
「じゅん、山崎のダブルのロックとビール。後コークハイ。」
横にいたじゅんさんは手馴れた動作でテーブルのゲスグラとキャスグラと持ってきたグラスを置くと順番に氷を入れ、棒で回し始めた。
「じゃあ、俺が解説するね。」
店長は新しく出てきたグラスをさして
「これはロックグラス。ロックって言われたら裏にあるこいつを使わないといけない。」
「これならバーで見たことあります。私が飲まされたのはもっとちっさめでしたが・・・」
店長はくすりと笑って
「それのおっきいやつって覚えておけばおっけ!」
「わかりました!」
「んで、この氷をアイスペール、棒がマドラー」
店長は忌々しそうに言った。
「これが一番変えるのめんどうなのよ・・・」
そんなこと言ってるうちにロックグラスに持ってきた山崎が注がれた。
「それにしても・・・」
店長は嬉しそうにじゅんさんを見ていった。
「じゅんちゃんなんで俺が山崎っていうと思ったの。」
「これだけ長いとノリも分かってきますよ。」
じゅんさんは好きでそうなったわけじゃないけどな、とでも言いたそうな顔をしている。というか僕にそれを訴えかけてきた。困る。キラーパスすぎる。
僕は必死にメモを取るふりをしてごまかした。
「次は今作ってるビール。これはさっき言ったように小さいキャスグラに作るんだけど、注ぐ前に氷でグラスを冷やさないといけないんだ。」
じゅんさんは手慣れた動作で氷を回し氷をペールに戻した後ビールを注いだ。
「これで完成だ。」
店長はビール瓶を掴むとラッパ飲みにした。僕が怪訝な顔をしていたのか店長は遠くを見つめて
「いやほらもったいないからね。じゃあ次はコークハイだっけ?」
ビールを片手にコーラの瓶を指さす。
「これは裏にあるから注文されたらもってくる感じでおっけい。氷入れて回してグラス冷やして酒入れて割る水とかコーラ入れるだけ。」
ね?簡単でしょ?といって出来立てのコークハイを飲み干す。
「じゅんのお酒はうまいねぇ・・・やっぱり人に入れてもらうお酒はかくべt・・・」
通りすがったのあさんが店長の頭を掴む。
「どれどれ私が見てやろう。」
それだけ言うとテーブルの上にあった山崎のダブルをにやにやと眺め一息に飲み干した。
たんっ・・と乾いた音がテーブルに叩きつけられる。
のあさんは言った。
「酒は酒だ。いつ飲んでもうまい。」
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