その3
それからの事は記憶にない。気づいたら、自分の部屋のベッドの上に突っ伏していた。
薄暗い部屋で目を覚まし、何をする気も起きなかった。
「んんんん〜♪」
自分の鼻の奥から出てきたメロディにドキッとした。
無意識に口ずさんだその曲は、ロックさんがいつも歌っている曲だ。
でも、驚いたのはそこではない。
「俺はこの一曲だけで、天下取るぜ」
下手くそなのに無理に決まってるだろ。と内心、バカにしていた曲だった。なのに、今、初めて頭の歯車が噛み合ったように、凄いいい曲に感じた。
さっき美奈を見たときの悲しさが何故か少し癒された。
そういえば、ロックさんの部屋から、何も聞こえてこない。いつもなら、煩いくらいに歌いまくってる時間なのに。
僕は起き上がって、ロックさんに顔を見せることにした。
「ロックさん」
が、ドアをノックをしても、返事がない。なんだ、悪戯だろうか? この人ならやりそうではあるけど。
あれ?
僕は廊下を挟んだロックさんの部屋の向かいに目をやった。壁? 前に何かあったはずだけど……大輔くんの部屋だ。
なんで、壁になっているんだ?
それと同時に僕は、とても当たり前なことを忘れていた事に気付いて、自分にぞっとした。
なんで、大輔君が死んだのに、僕もロックさんも警察を呼ぼうとしなかったんだ?
虫が這い上がってくるように、不安が僕の全身を駆け抜けた。
「ロックさん!」
と、ノブを捻ると鍵が掛かっておらず……開いている。薄暗い部屋、ベッドの上にロックさんが寝ているらしい大きなシルエットが見える。
おかしい。
僕は、急いで部屋の電気をつけた。灯りがつくと、ロックさんが目を開けた状態で、動かなくなっていた。
「ロックさん!」
どれだけ揺さぶっても、ロックさんは人形みたいに動かない。心臓に耳を当てると
「死んでる……」
外傷はどこにもない。首を絞められたりした跡もない。
ガチャ!
管理人さんの部屋のドアが開く音、足音が二つ、こちらに近付いてくる。
「どうも薬が効いたみたいです……」
先生の声。
僕は、とっさに押入れの中に隠れ、隙間から部屋の様子を覗いた。
部屋に入ってきた、管理人さんと先生は、ロックさんの死体の前に立って、話を始めた。
「もう、これで彼が起き上がることはないでしょう」
やっぱり、この二人が殺したんだ。
「あとは最後の彼ですね……マッキー、牧原くんでしたっけ?」
「そうです」
僕のことを話している。
「正直、彼が一番厄介ですから、少し慎重に行いましょう」
先生と管理人さんは、そう言って部屋を出て行った。
「殺される。僕も……」
怖くなった僕は、部屋を出て、開いていた玄関から外へ飛び出した。
「あ、君!」
後ろから先生の声がしたが、構わず、靴も履かずに無心に走った。
「うわっ!」
が、ドアを開けると、目の前に見覚えのないコンクリートの階段があり、バランスを崩した僕は、下の道路まで転がり落ちた。
「イテッ!」
全身のあちこちを打って、あたりを見上げた。
「どこだここ?」
家を出たはずなのに、見たことのない街のビルの一角にいる。異世界にでも迷い込んだみたいに、頭の中がグチャグチャだ。
「おい!」
上から先生の声がする。
迷ってる暇はない。僕は知らない街を全速力で駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます