未来のために?

 兵士達は足並みを揃え。


 「王子様、申し訳ありません……」

 「なんかブタとネズミの人形になっているみたいなんで……」

 「変人だけど、あれでも俺達の恩人でもあるんでな……」


 そう口にしながら入り口を封鎖する。

 そして。


 「ブヒヒ〜、大人しく我輩達に殺されるのだ!」

 「我々の完全勝利なのであーる!」


 そう、声高らかに言うミニブタとヒゲネズミ。

 まぁそれは良いとしてさ。


 「ねぇ、何でちゃらんぽらんは、ボーっと座ってるの?」


 ずーっと気になってたんだけど、ちゃらんぽらんが椅子に座ったまま動かないんだよね。

 そんなアタシの言葉に真っ先に反応したのがイルイルだった。


 「ミューよ、よく見るんじゃ、フリードの目を! 目が真っ赤になって、虚ろじゃろうが! あれは操られておるんじゃ!」

 「へ? そうなの?」


 つまりこれは……。


 「殴れば元に戻るって事よね?」

 「馬鹿者! ミュー、お主が殴ったら、彼奴の記憶まで吹き飛びかねぬぞ!」

 「え、違うの!? だってママが昔言ってたよ! おかしいものは殴って直せって!」

 「ドラゴンが言う、おかしい物は殴って直せと言うのは、何をするかわからない奴は殴って理解させろ!って意味なんじゃ! 第一、お主らの力で人間を殴ったら、下手をすれば一発あの世行きじゃ!」

 「へ? そんなの?」


 知らなかった、アタシの力ってそんなに強かったんだ……。

 あ、でも。


 「でも、今まで王子様を押し倒したり抱きついたりしてきたけど、全くそんな素振りはなかったよ?」

 「それはきっと、超が付くほど真面目な王子の血筋かのう……」


 なるほど〜……。

 アタシの押し倒しや抱擁が平気なのは、血筋だからなのか〜……。

 なーんて、そんな枠無いじゃん!

 アタシはそこまでバカじゃないもんね!


 「アハハハハ〜、イルイルも状況が上手いのだから〜。 血筋はあんまり関係ないでしょ!」

 「……人型首折モンスターじゃぞ、王子の母親は……」

 「ごめんなさい……」

 

 うん、血筋って本当なんだね……。

 アタシが甘かったです、はい……。


 「お二人とも! 話している暇はありませんよ!」

 「「へ? あ!」」


 気づけば周りは剣を構えた兵士達にぐるりと囲まれ、逃げ場を失っていた。

  だけど不思議な事に、そこから一切次の動きを見せようとしない。

 それどころか、戦うことに迷いがあるのか、剣を握る手はガクガク震え、鎧から聞こえる呼吸は早く大きく、そして不安定なリズムを奏でている。

 なんとなくアタシは分かる、兵士達も殺したくないのだと思う、正当性の無いただの処刑に対して……。


 「ブヒ〜、お前達、何を戸惑っている!」

 「早く始末するのであーる!」


 そんな兵士達にミニブタとハゲネズミがそう口にするけど兵士達は動かない。

 そして遂に、痺れを切らしたのか、ミニブタ達は。


 「ええい情けない! 殺さねば、この国王に王子を頃るように言うぞ!」

 「国王に、自らの手で王子を殺したという苦しみを与えたくなければ、お前たちの手で奴らを殺せ!であーる」


 そう大声で騒ぐ。

 だけど、ちゃらんぽらんは動かない。

 兵士達は変わらない、きっと彼らも迷っているのだろう、だから次の行動を選択できずただ立ち尽くすだけだった。

 それはミニブタ達にとって、予想外だったらしい。

 慌てて。


 「ブヒヒ〜、役立たず共め! ならば行け、人形と化した国王よ! 自分の息子を殺すのだ!」


 そして、静かに立ち上がったちゃらんぽらんは。


 「は、は……」


 そう、ゆっくり口走る。

 あれ? ちゃらんぽらんの目から涙が出てきている。

 これは……。


 「こ、これは……、フリードの奴め! 操られながらも、自分の意思を取り戻しつつあるのか!?」

 「え!? どういう事、イルイル!?」

 「見よ、奴の体を! 洗脳に抵抗しているのじゃろう、体が僅かなや震えておる!」


 アタシは思う。

 息子である王子様を殺したくない。

 そして、大事なこの国を守りたい。

 きっと、そんな思いがあのちゃらんぽらんに抵抗させる力を与えているんだと!

 うん、ちゃらんぽらんにしてはカッコイイ展開かも?


 「ブヒヒ!? せ、洗脳の粉末に抵抗しているだと!?」

 「そ、そんなバカな……であーる!」


 そんな状況のミニブタとハゲネズミはそれぞれそう口にする。

 どうやら、互いに目を合わせアタフタしているから、だいぶ焦っているのかな?


 「おい、もしや俺たちの声が国王に届いて、洗脳が解け始めてじゃないか?」


 そしてそんな国王の様子に、アタシ達を囲んでいた兵士達の一人がそう叫び、それに呼応するように、他の兵士たちも声をあげる。


 「そうだ〜負けるな〜ゲス野郎!」

 「女好きのゲス野郎が洗脳なんかに負けるな〜!」

 「飲み屋のマスターが早く店を弁償しろって言ってたぞー!」

 「フリードのドアホウ~! 私に対してありもしない噂を流すな~、それとジッと将軍とか嫉妬将軍とか言うな~!」


 という声援を飛ばす……、あれ、いつの間にか嫉妬将軍も混じってる!? あれ、嫉妬将軍だよね? きっと……。

 と言うか、飲み屋壊したの、ちゃらんぽらん!?

 そして更に。


 「反乱軍突入〜ってアレ? ちょっと~、おっさん手はず違うじゃんよ〜」


 なんか反乱軍を名乗る一般市民風の人たちも乱入する。


 「き、貴様たちはレジスタンスじゃな! 力を貸すんじゃ! 今お前たちの国王は操られておるが、それが儂達の声援のお陰か溶けかけているみたいなんじゃ! おぬし達も声援を送るんじゃ!」

 「え、は、はい!?」


 へ? イルイルこの人たち知ってるの?

 そんなアタシの疑問はおいて行かれ、レジスタンスと呼ばれる人たちは。


 「なんだか分からないが、国王くたばれ~」

 「国王、ガールハントしに出てくるな~、カップルの数が減るだろうが~」

 「おっさん~、定期的にイエローラインを破壊して、店長を泣かせるな~!」


 と声援?を送る。

 だけどアタシはそれを見ていて思う、一見罵倒だけど、それに愛がこもっているって。

 きっとこの人たちのコミュニケーションなんだって。

 だから……。


 「ちゃらんぽらん~、アタシ王子はイケメンだし優しいから大好きだけど、ちゃらんぽらんは別に好きじゃないぞ~!」


 と声援を送……。


 「ミュー、お主! こんな場で何を言っとるのじゃ! というか、抜け駆けはずるいぞ!」


 送っていたら、イルイルがアタシの両肩に手をかけて揺らしながらそう言った。

 冷静に考えたら抜け駆けだよね、これじゃあ。

 うん、誤ってちゃんと説明しなきゃ。


 「ゴメン、イルイル。 でも声援送らなきゃって思ってさ、罵倒の様な声援を……、だからアタシ……」

 「む? なるほど、そんなとらえ方もあるか! よーし……。 フリード! 貴様、儂等にナンパしようとした後、大人のカフェで「俺の口説きテクニックもさび付いたのかもしれない……」と落ち込んでいたそうじゃが間違っておるぞ! 儂等は王子に恋心を寄せても、お主みたいな不良中年はお断りじゃ!」


 そして、アタシの説明を聞いたイルイルも声援を送る。

 うん、後は王子が声援を送れば……、あれ、王子、泣いてる?


 「グス……、私の父はこんなに情けなかったのか……」


 …………。


 「ツンデレ聖騎士に説教されろ~」

 「俺たちの彼女を奪うな~」

 「この前行った女の子の店の代金を建て替えた分を返せ~」

 「節操なしのガールハンターはくたばれ~」


 相変わらず飛ばされる声援に圧倒され、苦々しい顔を浮かべていたミニブタ達だったけど、ここでなにかを思いついたのか、表情が不敵な笑みへと変わる。


 「ブヒヒ、これは我輩としたことがあわてておったわ……。 もう一度、洗脳の粉末を吹きかけて、改めて洗脳すれば良いではないか!」

 「そ、そうであーる! 早くそうするであーる!」

 「ブヒヒ、わかっておるわ!」


 「止めろ! 父上を、父上をこれ以上苦しめるな!」

 そう王子の声が飛ぶ、だが。


 「ブヒヒ、無駄だ無駄! これで吾輩たちの完全勝利なのだ!」


 ミニブタは満面の笑みを浮かべてそう口にすると、ミニブタは手のひらに軽く乗せた洗脳の粉末を、ちゃらんぽらんの顔に吹きかけようとする。

 が、その時。


 「ハッッックション!」


 ちゃらんぽらんが突如、大きなくしゃみをする。

 そのくしゃみは、ミニブタが手に持っていた白い粉をミニブタ自身にかける結果となり。


 「ブヒヒヒー! こ、粉が、我輩に粉がかかった……」

 「な! 何をやっているであーるか!?」


 そんな予想外の展開にそう口にしつつ慌てる二人が。

 そして、何事もボケっとした顔で鼻を右手でこすりながらすすっている、ちゃらんぽらんの姿があった。

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