そして目を覚ます

 「……て下さい、ミュードラさ……」


 背中にふかふか布団の感触、お腹をグラグラ、私の体は揺らされている。


 (誰だろう……)


 私はそう思いながら目を覚ますと。


 「あ、ミュードラさん、眠っていたところすいません、兵士達からの伝言で、父が私たちを呼んでいるそうで……」

 「へ?」


 あれ? 夢だったのかな……?

 夢だよね、流石に、ねぇ……!

 そうだよ、夢に決まってる、うん、夢だ!


 「あの、どうしました? 突然無言で頷いて?」

 「え!? えーっと、いや、何でもないよ〜何でも〜。 と、ともかく行こうよ! 王様の所へ〜」

 「あの、魔女様をお忘れですよ〜」

 「あ! 危ない危ない、イルイルちゃんの事、忘れてた……、んじゃ、イルイルちゃんのとこへ行こう!」


 そして私は自分の部屋の扉を開き、イルイルちゃんの部屋の部屋へと向かった。


 「しかしミュードラさん、最近お疲れだったのですか? 8日間ずーっと眠ってらっしゃいましたよ?」

 「嘘だよね……」


 …………。


 「…………」


 イルイルちゃんの部屋のドアを開けると、そこには首を右に向けてベッドの上で白目を向いて気絶している、イルイルちゃんの姿があった。

 うん、これは夢だ、夢なんだアタシ。

 だから疲れているだけなんだアタシ。

 アタシはそう自分に言い聞かせ。


 「お休みなさい……」


 私はイルイルちゃんの隣に寝転がる。

 だって夢なんだもん、夢の中で起きている意味ないもん。

 だからアタシは寝るんだ、おやすみ。


 「起きて下さいよ、お二人とも! 夢の世界から帰ってきて下さいよ!」


 うん、王子に揺らされていると感じるのも夢だ、あ、でもちょっと揺らすのやめてほしいかな……、ちょっと揺らしてるせいで胸がイルイルに擦るように当たって、その……。


 「え、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「ん?」


 揺らすのを止めたかと思えば、突如王子が叫び声を上げる。


 (何? 何なのだろう?)

 

 アタシは王子の驚く声を聞いてそう思い、ゆっくり目を開く、すると。


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! イルイルの首が、首が無い!」


 そう、イルイルの首が無くなっているの!

 え!? どういう事? 死んでる? 死んでるの!?

 頭が大混乱を起こしたアタシはガバッと起き上がって。


 「王子様、どうしよ!? どうしよ!?」

 「と、とりあえずミュードラさん、誰か呼びましょう! え、えっと、誰を呼びましょう!?」

 「分かんないわよ! あわわわわわわ、イルイルが、イルイルが……」


 どうすればいいか分からず、王子様の襟を掴んで揺らして慌てるだけだった。

 その時。


 「何じゃ、騒々しい……」

 「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


 ベットの下から生えてきた喋る生首にアタシ達は驚き、つい抱き合って声を上げる、そして。


 「落ち着けバカップル、儂は本物だ! ちなみにそのベッドに寝ているのは人形じゃて! 匂いもせんじゃろう?」

 「あ!?」


 確かに言われてみれば、イルイルの匂いは全くしない、なるほど、そういう事だったのね。

 そしてイルイルは、ベッドの下から胴体、足と生やし、アタシ達の前に立ち上がると。


 「……ところでいつまで抱き合っておるんじゃ?」


 と顔をニヤニヤさせアタシ達に言い放つ。

 アタシ達は我に返った。

 そして、互いに顔を赤く染めながら、少し距離を置き、視線を逸らした。


 …………。


 「と、ところで魔女様は一体なぜベッドの下にいらっしゃったのですか!?」


 あれから少し時間が経ったのに、恥ずかしさが残っているのか、ガチガチに硬く口にする王子様。

 まぁ、体が落ち着かず、小さく動くアタシも人のことは言えないけどね。


 「全く初々しい二人じゃな。 まぁ儂がベッドの下で寝ておったのは、首折り聖騎士モンスターの……、あっはっは、実は特に理由はない、気まぐれじゃ。 しかし世話がやける二人じゃない、ソレ!」


 一瞬何かを言いかけつつそう言ったイルイルは、アタシ達二人の頭をそれぞれ強めに叩く。

 ちょっと、いきなり叩くって何なの!?


 「いきなり頭を叩くなんて、それは酷いよイルイル!」

 「いてて、一体何を魔女様!」

 「緊張は解けたな、なら何処かに行くのじゃろう? 王子、案内してくれ」

 「なるほど、分かりました魔女様!」


 なるほど、そういう事だったのね、流石イルイル、アタシの友達ね!

 そしてアタシ達は国王の間へと足を進めていった。


 …………。


 「さっきはゴメンね、イルイルの気持ちも知らないで……」


 アタシはさっきの事を両手を合わせ、頭を軽く下げて謝っていた。

 さっきは慌ててたとはいえ、相手の気持ちも知らず文句言っちゃったわけだし、やっぱり謝らないとね。


 「あぁ、さっき叩いた事か? 気にするでない、友達じゃろ?」

 「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいな!」


 そして、優しい友達イルイルはそう言って許してくれた。

 だけどアタシはふと思った。

 アタシ、世話になってばかりじゃないかな?って。

 思い返せば、酔っ払って寝ていたアタシを運んでくれたのもイルイルだし、アタシが王子様と二人でデート出来たのも、王子様を使って自然に助けてくれたのもイルイルだし、アタシやっぱり世話になってばかりだ!

 うん、パパも「助けてもらったら、その人が喜ぶ事をしてあげなさい」って生前言ってたし、うん、アタシはイルイルが喜ぶ事をする!

 ……って言っても、イルイルと王子様をデートさせる、これしかないよね、よし、アタシはやるぞ!

 そしてアタシは王子様に駆け寄ると。


 「お二人とも、着きましたよ」


 タイミング悪く、国王の間に着いてしまう。

 ま、まぁ時間はあるよね!

 そして、そんなアタシの気持ちなど知らないであろう王子様はドアを開けた。


 …………。


 「失礼します、父上! 一体何の御用でしょうか? む、貴様達は」


 そう声を上げる。

 確かにおかしい。

 なんか、ちゃらんぽらんの隣にチビでデブでチョビヒゲでヒゲのブタがいるもの!

 その逆側には、デカくてガリガリで出っ歯でハゲのネズミがいるもの!

 あんなのアタシ見たことないよ!

 と言うかそれ以前にちゃらんぽらんが人形みたいに固まってるんだけど!


 「な、なぜ貴様らがここにいる、コベリイ、ビスキ!」


 ん、王子様知っているの?

 とりあえず聞いてみよう。


 「ねぇねぇ王子様、あのブタとネズミは何なの? ペット? 魔物?」

 「みゅ、ミュードラさん、あれは動物でも魔物でもありません、あれでも人間ですよ……」


 アタシに尋ねられた王子様はアタシにヒソヒソとそう伝える。

 だけど、この二人にはそれでも聞こえたらしい。


 「ブヒ! き、貴様! このダンディで天才的な貴族のワシに、何という無礼な物言いなのだ! ブヒ、我輩はコベリイ・ミレクトロイ! よーく覚えておくのだ!」


 へ?今何て名乗ったのこの人……。

 えーっと、えーっと。


 「イベリコ、ミルクトレイ! だっけ?」

 「ミュー……、違うぞそれは、じゃがなんか美味しそうじゃな、イベリコって……」

 「じゃあ、コベーリ、ビスキトイレ?」

 「ビスキトイレって、あのネズミがトイレに行っただけじゃろうが……」

 「じゃあ、コバルト、ミライヒカル?」

 「ミューよ、クイズじゃないんじゃ、分からなければ分からないでいい」


 イルイルの気遣いは嬉しかった。

 でも、パパが「相手の名前は覚えなさい」って言ってたし、覚えなきゃいけないけど、む〜覚えにくい名前嫌い……。

 そんな苦悩を知らないブタは。


 「ブヒヒ! 貴様ら、我輩の名前を愚弄するか! 許さんぞ、ブッヒッヒー!」

 

 っと飛び跳ねながら怒っていた。

 そんな隣のブタをほっといてネズミは。


 「フッフッフ……、コベリイ大臣と違ってワガハイの名前は間違えようがないのであーる! 我が名は、ビスキ・バセと言うのであーる! 偉大で素晴らしーい貴族なのであーる!」


 っと妙な話し方で自己紹介を始める。

 名前は短かったけど、滑舌が微妙で聞き取りにくかったなぁ……、えーっとえーっと。


 「ネズミ、ハゲ?」

 「ハゲでないのであーる!」


 だって、聞き取りにくいんだもん、仕方ないもん。

 分かりにくいものは仕方ないじゃん、だってだって……。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」


 私は感情を抑えきれず泣き出してしまった。

 そんな私に王子様は「大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけ、そしてイルイルは。


 「お主ら! 女子を泣かす貴族が誇らしいのか? え?」


 っと名前が覚えにくい二人に文句を言ってくれた。

 ううう、ありがとう、ホントありがとうね二人とも……。


 「ほら、アイツらを呼びやすい呼び方で言うんじゃ!」


 そう優しく語りかけてくれるイルイル、アタシやっぱり、イルイルに助けてもらってばかりじゃん……。

 でも、嬉しいから言葉に甘える!


 「何でもいいの?」

 「何でも良いんじゃ、ミューが感じたままにな……」


 感じたままに……。

 私は腕を組んで一生懸命考え、そして。


 「ミニブタ、ハゲネズミ! あ……ごめんなさい……」


 うん、感じたままに言ったけどこれは悪口だね、失敗失敗……。

 だけどアタシ、謝ったのにこの二人は。


 「ブヒヒ〜、だまらっしゃい! いでよ兵士達!」

 「は、ハゲでないのであーる! 絶対許さないであーる! 兵士達、奴らを叩き潰すであーる!」


 そう言うと、ドアの入り口から、呼ばれた兵士達が入り口を覆うようにゾロゾロやってきた。


 「い、今のノーカンで! 間違ったの、間違ったんだってば……、だから謝ったじゃん!」

 「ブヒヒ〜、我輩をミニブタ呼ばわりしたものは、おしおきなのだ!」

 「ワガハイも同意見なのであーる! ハゲネズミ呼ばわりした奴は、おしおきであーる!」


 アタシ、謝ったのに……。

 そしてアタシは頰を少し膨らませた。


 




 

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