城へ戻り

 「お主はもう……、まったく……」


 ベッドに座るアタシの目の前に見えるお姉さんは、ため息をつきながら言う。

 アタシより高い痩せ型の長身、それでいて巨乳、そんな体をいつも白いズボンに青いスポーツブラというラフな格好を纏わせている。

 顔は小さく、目は鋭く、口は小さい。

 そして最も印象的なのは、毛先が首元から大きく外側に跳ねているやや長い髪の毛、それと若さと大人の色気を合わせたような不思議な雰囲気。

 そんな容姿を持つのが、アタシと最近友人になった魔女のイルイルだ。

 だけどさ。


 「何で頭を抱えて苦悩してるの、イルイル?」

 「そりゃお主がとっても危なっかしいからじゃ! あんな馬鹿な女共、体に教えてやれば良かったのじゃ! まったく、まったくもう……」


 そう言って心配そうな顔でアタシに訴えかける。

 あれ、ママかな?


 「えー、アタシ、弱い奴をいじめる趣味は無いし〜……」

 「無いし〜では無い! あの大バカ者達はお主の顔を狙ったのじゃぞ! 顔は乙女の武器なんじゃぞ!? まったく、儂が王子を魔法の音色で誘導してなかったらどうなっていたことか……」

 「そうなの? 知らなかった、ありがとう、イルイル! と言うか見守っててくれたの? ありがとう!」

 「れ、礼などにらぬ!」


 そう言って顔を赤くして右をプイと向くイルイル、照れてる照れてる〜。

 あ、そうそう!


 「ねぇ、どうしてイルイルは空間の向こうにいるの?」


 さっきから不思議だったのが、何故かイルイルは直接会って私に話すわけではなく、空間に開いた穴から、自分の自宅の椅子に座った姿をこちらに見せて話している。

 何でなのかな?


 「そりゃあ、のう……」

 「あれ? 何でイルイル目線を逸らすの?ねぇ?」

 「その、シルフィが……」


 そう青ざめた顔で口にしたイルイル、シルフィって確か奥さんだよね、あのちゃらんぽらんの?

 一体、それがどうしたのだろう?

 む、何か忘れているような……。

 あー何だっけ?


 「お主はホント、こんな時は知恵が回らないらしいのう……」

 「仕方ないじゃん〜、回らない時は回らないんだから〜、アタシ〜!」

 「ミューよ、そう寝転がって手足をバタバタするでない、王子が来たら引かれるじゃろうが……。 まぁよい、手短に、そして分かりやすく説明するぞ」


 そしてイルイルは一つため息を吐き、そして口を動かし出す。


 「シルフィが、儂と国王、追い回す、酒での失言、消し去る為に……」

 「あ〜、なんか嫉妬将軍?だっけ、そんな事言ってたな〜。 ところで何、その独島の言葉の発し方?」

 「ジッと将軍じゃったろう? これは短歌という、サムライの国の文化じゃよ。 儂も詳しくないが、5、7、5、7、7、の文字数で読み上げる短い歌……と儂は聞いておる」

 「へ〜……」


 なんか短歌って面白いね、よーし……。

 私は「何じゃ何じゃ?」と戸惑うイルイルをよそに王子に貰った服に着替え。


 「どうよこれ?アタシこの服、似合うかな?ちょっとサイズが、大きいけどね」

 「ふふ、新し物好きかのう、お主は。 まぁサイズは儂に任せよ、サイズダウン!」


 イルイルはそう言って、アタシに魔法をかける。

 するとさっきは少し大きかった服が、丁度いいのサイズになった。


 「ありがとう、アタシとっても、うれしいな、だけどどうして、そんな魔法が?」

 「あぁ、これは一人暮らしが長かったからのう。 生活を楽にする為に開発したんじゃ、他にもサイズを大きくするサイズアップや、家事をこなす人形を作り出すマジックドール、あと唱えればすぐに痩せられる、マジックダイエットなど、生活に役立つ魔法は沢山じゃ!」


 そう素敵な笑顔で、誇らしげに言うイルイル。

 うん、アタシ今更だけど、イルイルって根は怠け者なのかな?って思ってしまった。


 「た、助けてくれ! 奴が、奴がやって来る! あ、イルちゃん! 俺もそっちに行かせて!」


 突如、アタシの部屋のドアを開け、四つん這いでバタバタ進みながら、イルイルに助けを求めるちゃらんぽらん。

 だけどイルイルは空間を手のひら程に狭め、悪い目でちゃらんぽらんを見ながら、言葉を発する。


 「悪いのう、鬼神の怒りを鎮めるには生贄がいるじゃろうからなぁ……」

 「あ、ずるいぞ! ね、お願いだから空間開いて! そして、みんなで不幸になろうよ」

 「不幸になりたいものなどおるか! 皆の幸福の為、大人しく贄となれ!」


 そして空間は完全に閉じた。


 「嫌だ俺はイエローラインの店長の二の舞にはなりたくない! だからほんとお願い助けて〜! へ、あ! シルフィ! その手を離せ、いや離してください! 助けて誰か! あーれー……」


 それがちゃらんぽらんの遺言になった。

 ちゃらんぽらんが必死に叫んでいる間に、恐ろしい表情で「はぁぁぁぁぁぁ……」っと殺気のこもった吐息を吐く鬼嫁がやってきて、右手でちゃらんぽらんの右足を掴むとそのまま引きづっていった。

 「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ……」と言う悲鳴を置き見上げにして……。


 「行ったか……」

 「い、イルイル!? いたの!?」

 「見えない程度に空間は開けておったから声は聞こえておったよ」


 立ち去ったと同時に元どおり、イルイルの座った姿が私の目に入る。


 「ところでミューよ、儂は一つ思ったのだが……」

 「ん、何を?」

 「王子が儂に始めて会った時言っておったのじゃよ『父がおかしくなった』とな……」

 「へぇ……」

 「儂はその原因がわかった気がする」


 アタシ、なんかわかった気がする。

 うん、それは凄くしょうもない原因……。

 多分それはイルイルも同じ、ため息を何度も付いているし。

 そして、口を開いたイルイルはアタシが考えていた通りの事を口にする。


 「フリードがおかしくなったのは多分、シルフィにやられて、頭のネジが何十本か飛び散ったのだと思う、儂……」

 「そうよね〜、それしかないよね〜」


 まぁそれは怖いものに襲われればそうなるかもしれないからね〜。

 今のところ、争いの種、見えないし!

 うん、きっとそれだ!


 「まぁ推理するまでもないのう、殺気のこもった吐息を吐く鬼嫁が、何らかの精神異常を与えない訳があるまいて」

 「へぇ? ちなみに、鬼嫁になる程の秘密って何なの?」

 「それはのう、ツンデレ発言じゃよ!」

 「ツンデレ〜、あはは、そんな訳ないじゃん! 全くイルイルは冗談が上手いのだから〜」


 流石にツンデレ発言だけであんな恐ろしい顔になる訳ないじゃない〜、イルイルはアタシをからかいすぎだって!


 「のうミューよ……、儂もきっと前ならそう思っておったじゃろうよ、じゃがな現実なんじゃよ、それが……」

 「いやいや〜、意地悪なんだからイルイルは〜、そんな事で起こる人間がいたら、世間は鬼だらけで大変だって……」

 「それが事実なんじゃって……。 仕方ないのう、ならばそれを証明するために儂の魔法で……、ぎゃ!」

 「へ!?」


 あれ? 何かイルイルの背後に人が回り込んで首をゴキって回したんだけど。

 なんか、こっちに鬼嫁が来てるんだけど!

 なんか、空間を越えて、こちらに来たんだけど!

 あっ!


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 アタシは首をゴキっと回され、ベッドに吸い込まれる感触と共に気を失った。

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