未来へ進む

王子様とのお出かけ

 「へ? アタシを街に?」

 「ええ、魔女様曰く、ミュードラさんは人間社会に疎いようだから、勉強ついでに」

 「ホント!? やったやった!」

 「みゅ、ミュードラさん、ベッドの上で跳ねてはダメです!」


 それは突然だった。

 イルイルと楽しく話した次の日の朝、自分の部屋のベッドでのんびり本を読んでいたアタシに王子からのお誘い。

 もちろん、アタシは嬉しくてついピョンピョン跳ねる。

 しかし、二人だと抜け駆けみたいだしなぁ……、どうせならイルイルも誘おう!

 そう思ったアタシは。


 「なら、イルイル……じゃなくて、魔女を呼んでくる!」


 そして向かいの部屋へ向かおうとした時。


 「ミュードラさん、僕も魔女様をお誘いしたのですが、断られてしまって……、何でも考え事があるらしくて……、だから二人で頼むと……」

 「へぇ……」


 んーもしかして、何が作戦でも考えているのかな、イルイル?

 まぁ、イルイルがそう言うなら、二人っきりでも良いよね?

 アタシはそう考えると。


 「なら仕方ないね、行こうよ王子様!」

 「は、はい! ま、待ってくださいよ、ミュードラさん!」

 「ほら、王子も早く早く〜」


 王子を先導するように、アタシは小走りに城の外へ駆けて行った。

 前に拝借した白のワンピースを纏って……。


 …………。


 空は雲一つなく、青く大きな空が広がっている。

 流れるのは心地よく流れる風と、街の人々位、ホント素敵な朝だ。

 アタシはそんな素敵は1日の始まる煉瓦造りの街並みをスキップしたり、王子に抱きついて甘えたりしながら進む。

 だけど抱きつくと、王子は照れくさいのか。


 「だ、ダメですよ、ミュードラさん! 周りの目がありますからね、そんなはしたない事はダメですよ!」


 と慌てて言うものの。


 「でも目の前でもイチャイチャしてる人たちがいるよ! あ、ほら、あっちにも!」

 「そ、それでもダメです、ダメったらダメ!」


 周りにも同じ事をしている人間はちらほらいるのに、それでもダメって言う。

 なので、ベタベタ出来ず不満だとアピールする為に、ぷう〜っと頰を膨らませる。

 でも効果はなかった。


 だけども、それでも楽しかった。

 だって二人っきりで色々話せたから。

 アタシは二人で歩けて幸せだった。


 …………。


 さて、二人で楽しく話しながら、たまに市民に声援を受ける王子様の話す姿を眺めながら大通りを歩いていたアタシは、とある看板を見て立ち止まった。

 それは衣装屋と呼ばれるもの。

 立ち止まった理由は、イルイルと夜中話した時に。


 「お主は活発な雰囲気があるから、男物のようなラフな衣装が似合うと思うぞ! 買いに行く暇があれば行くと良い」


 そう勧められていたから、何か服を買った方が良いのかな?

 そう考えたから私は立ち止まった。


 もし、その〜お付き合い!

 王子とのお付き合いが始まったら、子供が出来たりして結婚……はとりあえず置いといて、えへへ。

 そうなった時、人間の常識や習慣を身につけておかないと、後々王子に恥をかかせてしまうぞ!ってイルイルも言ってたし……。

 うん、よし、服を買おう!

 でもアタシ……。


 「お金持ってなかったわ……」


 でも、もしかしたら財宝と交換してくれるかもしれないよね?

 でも、ダメなのかな?

 そう少し焦りを覚えていた時


 「あの、ミュードラさん、お金なら僕が出しますよ!」

 「へ? 今何と言ったの?」

 「ですから、服が欲しいのでしたら、僕がプレゼントしますよ、と言いましたよ」

 「え? え?」


 アタシに優しい笑顔でそう語りかける王子。

 と言うかプレゼントって言ったよね、王子様!


 「いやったぁぁぁぁぁぁぁ! ありがとう、王子様〜」

 「うわわわわわ!」


 アタシは嬉しくて嬉しくて、つい王子様に飛びつき、王子様はレンガの壁へ背中をぶつけてしまった。

 確か人を怪我させる事は悪い事。

 私はとっさに。


 「ごめんなさい、王子様!」


 と謝る、挨拶と謝る事はどんな世界でも大事ってパパもいってたから。

 そんな私の気持ちが通じたのか、素敵な笑みを浮かべて。


 「良いですよ、全然! まぁミュードラさんも嬉しかったのでしょうからね」


 と言って、アタシの気持ちを理解した上で許してくれた。

 うん、優しい!


 「あ、王子様! ちょうど良かった、一つ伺いたいことがありまし……、おっと」


 あれ、誰だろうこの人?

 確かこの緑の服は、軍服って言う、市内で戦う兵士が着込む服だっけ?

 確か場内歩いていた同じ服装に聞いた時、そう言っていたし……。

 顔は一言で言えばかっこいい中年。

 後ろに束ねた髪に優しさを浮かべて感じがいい細い目、そして程よく鍛えられた、とても長身な体。

 それくらいしか特徴はないけど、この真面目そうな雰囲気は印象的だった。

 だって城の兵士、王様に似て、ちゃらんぽらんで口の悪い人ばっかりだし……。

 さて、そんな素敵な軍服の人は、私の顔を見るなり。


 「デート中でしたか、私としたことが、これは失礼……」


 そう気を使って、立ち去ろうとするけど。


 「ま、待って、シッド将軍! 話くらい聞く時間はあるから!」


 そこは真面目なアタシの王子様、軍服の人を手を伸ばして静止する。

 でも、軍服の人も気遣いでは負けていないらしい。


 「いえいえ、王子様のデートに比べれば他愛のない事ですのでお構いなく……」


 ニコニコした笑顔を浮かべ、右手をブンブン振りながらそうやってその場を離れようとする。

 だけど、これが気遣いと真面目さの戦いの始まりだったと思う。


 「いやいや、シッド将軍自らが動くって相当の事でしょ? 僕も話を聞くくらいは協力するから……」

 「いえいえ、これはお使いみたいなものですから、王子様はぜひデートの方を……」

 「いやいや、話を聞くだけだからね、そんな長々と聞くわけじゃないでしょ、シッド将軍……」

 「いえいえ、よく言うではありませんか? 人の恋路を邪魔するドアホウはくたばれ! って言葉が……」

 「いやいや。 将軍の話も聞かずデートに夢中になってたら、父上が『アルの奴が女に夢中になったみたいだぞ!』とか『やっぱり俺の息子だ、女とデートなんてな、ガハハハハ!』とか町中に話して回りそうだし……」

 「いえいえ、流石に国王……のドアホウは言うでしょうね……。 あ、それなら私は国王に『アイツ、そのうち好きな女を影から覗く、ジッと将軍って呼ばれるかもな!』とか『シッドの女を取るなよ? するとアイツは嫉妬将軍になるからな、ガハハハハ!』とか既に言われてますから」

 「シッド将軍ごめん、父上は後で積極しておくから……」


 うん、あのちゃらんぽらん、国王やめた方がいいんじゃないかな?

 アタシ、そう思う。


 「では王子様、そう言う事で……」

 「いやいや将軍、その話は終わっていないのでは?」

 「いえいえ、私は終わったと思ってましたよ?」

 「いやいや、僕は話はまだ終わってないと思うけど?」

 「いえいえ、いい加減女性を待たせるのは良くないのでは?」

 「いやいや将軍こそ、話せば終わる話だと思うけど?」


 そして、譲る心と真面目さはあまり合わないのだなぁ、っと目の前の光景を見ていて、アタシは思った。


 …………。


 「……という事で、王妃様が昨日酔っ払って言ったことを思い出し、大変恥ずかしくなったらしく『あの酒の席での記憶を消してやる!』と剣を振り回してまして……。 それで私達は王様達を捕まえるフリして、こっそり匿うために動いているのです」

 「なるほどね、でも僕は今日、父上は見かけていないね」

 「そうですか……」


 ここは、先程の衣装屋から少し歩いた所にあった〈イエローライン〉と書かれた看板が床に打ち付けられているのが特徴的なオープン喫茶。

 酒樽を再利用した机に、ふかふかソファーの椅子……、アレ、どっかで見覚えがあるような……、思い出せないや。

 とりあえず、その店で唯一のメニューであるワインを飲みながら、アタシ達は話をしている。


 ふふん、こう円満に解決したのはアタシのおかげ!

 アタシが「面白そうだし、アタシも聞きたい!」と言ったのが解決の糸口になったのだから。

 そこから、王子の。


 「デートと公務を同時に行うなら問題ないよね?」


 との言葉に、渋々シッド将軍は納得し、このオープン喫茶で話を聞くことになった。

 良妻ポイント、いっぱい貰えるよね、アタシ!


 さて、話は戻して、王子の答えを聞いたシッド将軍は立ち上がり。


 「そうですか、わかりました。 お時間を取らせて申し訳ありません」


 そう言って、すぐに泣いている女性の店員らしき人に何故か袋でお金を支払うと、そそくさと立ち去っていった。


 「僕らも行きましょうか?」

 「うん!」


 そして私達は衣装屋へ向かう。

 気遣い屋の将軍が全部代金を払っていた事を不満に漏らす王子と共に。


 …………。


 「いらっしゃいませ、これは王子様! こんな店に足を運んでいただき、大変光栄ですわ!」

 「すまない、彼女に服を買ってあげたくてね、見て回ってもいいかな?」

 「勿論です、どうぞご覧ください!」


 やや広い店内に入ると、若い女性店員が王子に目を輝かせて接客を始め、アタシ達を女性物の衣装のコーナーへと案内する。

 見たところ、結構露出の激しい服が多い。

 そういえば、城の兵士が「国王が露出の激しい服を推奨している」とか話していたっけ?


 「こちらはどうでしょう? 活発そうな彼女様に似合うと思いますが……」


 そう言って差し出されたのは、胸の谷間を強調する為なのか、第二ボタンまでが無くなった青のワイシャツに短い白のスカート、それにスパッツ、アタシはそれをとっても気に入った。


 「これが欲しいのですね、ミュードラさん」

 「う、うん!」

 「はは、目を輝かせて見てましたから、もしかしたらと思いまして」


 そ、そんなに目を輝かせていたのかな、アタシ……。

 えへへ、なんか恥ずかしいなぁ。


 「では、寸法を調整しますから、彼女様はこちらにいらっしゃって下さい。 王子様はここでお待ちください」


 そう言って私は店員に案内され、店の奥へ入っていった。


 ドアを二度開けると、そこは何もない薄暗い空間が広がっていた。

 ジメジメして埃っぽい、淀んだ空間、そこには店員以外に鉄の棒を持った4人の女が立っている、そして。


 「ねぇ、アンタ何様のつもり?」

 「私達の王子様に馴れ馴れしすぎない?」

 「ちょっとウザいんだけど?」


 アタシに向けて、睨みつけながらそう口にする女達、そしてドアの前でケラケラ笑う店員。

 どうやら、王子様とデートしているのが不愉快だったらしく、数で脅しているらしい。

 正直この程度、相手にもならないとアタシは感じている、だってたかが鉄の棒持っているだけだし。

 まぁ、アタシは戦う気なんて更々ないし、早く服を着て王子様の元に戻りたかったから。


 「それはどうでも良いから寸法を調整してよ、早く王子様の所に戻りたいから」


 と素直に本音をいう。

 すると、それが相当不愉快だったのか。


 「ちょっとこのメスに体で教えなきゃダメかな?」

 「仕方ないって、バカには力で教えてあげなきゃ」

 「ついでにキモオヤジ達に売り払ってやろうよ、きっといい金になるよ〜」

 「キャハハ、それいいね〜」


 なんて言いながら、鉄の棒を引きづりながらアタシに近づく、そしてその棒で私の頭を思いっきり叩く。


 「ほら、反省してるなら私の足を舐めてなさい……、え?」


そんな程度、私に通じるわけもなく、鉄の棒が少し曲がっている。


 「その程度、アタシなんともないからね」


 アタシはそう正直に伝える、それは貴方達じゃ敵わないよという警告も込めている。

 さて、そう言われた鉄の棒軍団は、そんなアタシの様子に動揺しつつも。


 「み、みんなでやればいいじゃない!」

 「そ、そうよね!」


 何て言いながら、みんなで鉄の棒を構え、そしてアタシを袋叩きし始める、鉄の棒軍団は「化け物、化け物」って声を荒らげながら。

 だけど。


 「い、一体ミュードラさんに何をやってるのですか、貴方達は!?」


 アタシは助かった、何故だか知らないけど、王子様がドアを開け、駆けつけてくれたから。

 その後、彼女達は兵士達に連れていかれ、アタシは店の外で話を聞かれた、何をされたとか、どんな状況だったのかとか……

 ちなみに後々教えてもらったけど、彼女達は余罪が何件かあったらしい。

 なので、とりあえずは牢屋行きだろうと兵士が言っていた。

 そして、話が終わり、慌ただしく憲兵隊が動く店の外で、ただ立ち尽くすアタシに。


 「ミュードラさん、今日はいろいろ大変でしたね。 これはプレゼントです」

 「うわ!? え?」


 突如背後から現れた王子が、そう言って黒い袋を差し出す。

 アタシは何だろうと思いながら袋の中身を取り出す、すると。


 「うわ! これって!?」

 「すいません、同じものはありませんでしたので、似たものですが……」


 それはアタシが欲しがった服とそっくりなもの。

 ただ、ワイシャツの色は白になり、スカートは短い赤に、そして黒いスパッツには細いドラゴンの紋章が左右の太ももに当たる部分に描かれている。


 「いいの!? 貰って?」

 「当然ですよ、何せミュードラさんを事件に巻き込んでしまいましたから」

 「やったぁぁぁぁ、ありがとう、王子様! アタシ、城に帰ってすぐ着てみる!」


 アタシは喜びのあまりぴょんぴょん跳ねると急いで城に戻っていくのだった。




 

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