繰り返される夜

 説教が終わる頃、儂らは朝日を浴びると共に、眠気も限界に達していた。


 「や、やっと説教が終わったか……」

 「あ、アタシもう足が動かない……ってアンタどこに行くのよ?」

 「へ。部屋で寝るつもりじゃよ、足も痛いしのう……」

 「なら、アタシもそうしよう……」


 そして、互いに腕の力だけで体を移動させ、それぞれ部屋に移動する、しかしミュードラ、その状態その体制でよくもまぁ、儂の倍近い速さで進めるのう……。

 そんなミュードラの背中を見つつ儂はをったりと自分の部屋として提供された一室へ向かう、こっそり一人だけ過去に戻り、王子をヤッてしまう計画を実行するために……。

 じゃがこの計画、静かに行う必要がある。

 儂らの部屋は、それぞれ向かい合ったように配置されておるため、警戒して行わぬと計画がバレる恐れがある。

 そして、この部屋以外の場所じゃと、大概何人かの人がいる、故に我の魔法に巻き込みかねん。

 その為、ここが最も適した場所になる。


 そうこうするうちに、ここで難所、よしミュードラの部屋のドアは固く閉ざされておる!

 そして儂は、物音を立てぬようゆっくりと、自分の部屋に移動し静かにドアを閉める。


 ふふ、あとは術を唱え、過去に行くだけじゃ!

 眠さに勝つんじゃ儂!

 頑張れ儂!

 そして儂は術を唱え、過去へと飛んだ。


 …………。


 この感覚、ちょうどミュードラを送った後かのう、まぁ多少疲れはあるが、瓶を持って、夜這いにいくかのう。


 儂は酒瓶片手にワクワクしながら王子の部屋の前へ行く、すると。


 「あ!?」


 そこには、居るはずのないミュードラが今、ドアを開けようとしている光景じゃった。

 まさか……、まさか……!

 儂は早足でミュードラに近づくと。


 「お主、儂の部屋におったな?」


 そう問い詰める。

 すると不器用な笑顔を浮かべると、目線を徐々に左下に向け。


 「あはは〜、私、未来の事、分からな〜い、ベットの下に隠れてないよ〜」


 とふざけたとぼけ方をする。

 ええい全く腹立たしい、此奴が先に夜這いするのだけは阻止せねば!

 そして、そんな儂から殺気を感じたのだろう、ミュードラもこちらを向いて、戦闘体制をとる。


 「お主、勝手に便乗するとは、ちと卑怯ではないか?」

 「王様に初めて会った時、力を合わせるべきと言って同意したでしょうアンタ!」

 「それは過去の儂の行い故い知らぬ……痛! 耳を引っ張るな愚か者!」

 「アンタなんて、アンタなんて〜!」


 そして。


 「お二人とも、夜中に何喧嘩しているのですか!? 怒りました、二人とも、朝まで説教です!」


 バンと開かれた扉から王子が現れ、儂らはまた同じ説教を受けるハメになった。


 …………。


 説教が終わる頃、儂らは朝日を浴びると共に、足の痺れも眠気も限界に達していた。


 「……さて、儂は自分の部屋に戻って寝るかのう」

 「アンタ、またそう言って一人で過去に飛ぶ気でしょうが!」

 「ちっ、その無駄な時に回る頭も痺れてしまえばよいものを……」

 「アタシも、その無駄に卑怯な頭が痺れでマトモになればいいと思うわ……」

 「……やるのか、儂と?」

 「……魔女が勝てると思うの?」


 儂らは互いににらみ合い、そして腕の力だけで移動し、互いの間合いをつめ、そして。


 「ぬぐぐ、太ももを叩くのを止めぬか、痴女ゴン!」

 「アンタこそ叩くの止めなさいよ、陰険魔女のムッツリン!」


 儂らは互いに太ももをパンパン叩き合う。

 しかし、この痴女ゴンめ、少しは過去へ運んだ苦労を思って、このチャンスを譲るとかそういう労わりはないのか!

 と言うか……


 「お主はビッチなのじゃから、別に初めてじゃなくても良かろう!」

 「ダメよ、それは絶対ダメなんだから!」

 「何でじゃ!? 何でダメなんじゃ、お主!? どうせ初物がいいとかそんなのじゃろうが!」

 「……なのよ、アタシ……」

 「む?」


 何じゃいきなり、顔を俯け、声が小さくなりおって……。

 む、体が震えておるが、何じゃ一体?


 「何じゃ、一体何なんじゃ、早く言わぬか!」

 「アタシ、アタシ……」

 「だからどうしたと……」


 儂が全て言葉を発する前に、ミュードラは真っ赤に染まった顔を、儂に突き出すようにして。


 「アタシ、そう言う事初めてなの! だからあんな事までしておいて、下手でしたなんてオチ、恥ずかしくて嫌なの! それ以前にあんな態度、変態みたいでしたく無かった! だから譲ってよ、アナタ何回かは経験あるでしょ! だからいいでしょ!」


 そう大声で涙ながらに儂に訴えた。

 そして儂は。


 「いや、儂も初めてなんじゃが……」

 「へ?」


 そうカミングアウトし、互いにキョトンとした目で見つめあった。


 …………。


 「さてとりあえず、儂らは過去に来たわけじゃが……」


 とりあえず、眠気が限界な体でいても始まらぬと思い、酒場からの帰宅後の時間帯来て、儂の部屋のベッドの上に座っている訳じゃが、結局互いに先がいいと主張し合い、平行線の様子を辿っている。

 じゃが、先程から。


 「お願い、お願いよ〜、アタシを先に行かせてよ、お願いよ〜!」


 儂の襟元を掴みながら、ミュードラは儂を揺らしておる。

 じゃが、儂は譲る気は無い。


 「ダメじゃ! お主は自分の行動で自分の首を締めたのじゃろうが! 何が何でも儂が先じゃ!」

 「お願いよ〜、それに間違いなくアタシの方が、彼の事を思ってるから〜」

 「いーや、儂の方がお主の100倍思っとるわい!」

 「じゃあ、アタシはその1000倍!」


 む、これでは話にキリが無さそうじゃな、ならば。


 「ならば、互いに何故王子を好きになったかのエピソードを語り合い、どちらが王子の事を思っているか競おうではないか!」

 「良いわ、ならアタシからいくわよ!」


 そして、ミュードラは目を閉じて、語り始める。


 …………。


 あれは、一年くらい前、まだカルカンダ山の中、それも奥深くに住んでいた頃……。

 パパ達がいなくなって6日が経とうとしていた時かな?

 あの時、とっても寂しくてさ、ずっとアタシは泣いていたよ。

 だって50年一緒にいたのに、ある日二人とも、冷たくなって動かなくなってさ、あぁこれが〈死〉なんだって。

 考えればさ、パパ、急に私に魔導宝物庫の力を私に継承してきたしさ、きっと死ぬのが分かっていたんだろうなぁ……。

 そう考えたら、余計泣いちゃってさ。

 でも毎日泣いていたからだろうね。

 その日、私を討伐するために人間がいっぱい来たんだ。

 真っ黒の鎧を纏った……。

 「バケモノめ!」

 「目を狙え!」

 「人里に被害が出る前に殺さねば!」

 そんな事を言ってさ。

 でもアタシ、木の実が主食だし、人間なんか襲った事ないんだよ、食べた事も無いんだよ!

 今考えれば、あの人間達は自分勝手だなぁと思うよ。


 〈ほう、なら何故人間を恨まなかったのじゃ?〉


 それはドラゴンにだって、自分勝手で暴れん坊で気にくわない奴はいたし、人間だってそうじゃないかな?って思ったからね。 だからアタシは恨まなかったよ、それにパパがよく言っていたもん「種族が違えど知的生物、傾向はあれど例外もある」ってアレ? どういう意味だっけ? 確か偏見は良くないって事だっけ?


 〈まぁよい、話に戻ってくれ〉


 分かった。

 アタシは人間を襲うつもりが無かったから、三日三晩逃げ続けたよ、空を飛んだりして。

 でも、人間達も諦めなかったよ、ずっとずっと殺気を放ちながら追いかけてきて、私を殺そうとしてた。

 ずっと逃げていたらさ、人間の放った矢なんかで羽もボロボロになっちゃって、最後は飛べなくなっちゃって、最後はただ蹲るだけだったよ。

 そして「あぁ、死ぬのかな?」そう思った時。


 「止めないか!」


 そう言って止めに入ったのが、王子様だったんだ。


 「貴様は我らの敵国であるアルセイユの王子か!?」

 「我らフランドルフの死神騎士団の邪魔をするか!」


 私を追っていた人間はそう言ったよ、でも王子はそんな人間達に静かに言ったんだ。


 「見たところ、この龍は逃げてばかりであったが、お前達に被害はあったのか?」

 「そ、そりゃないが……」


 人間達は歯に何か詰まったような感じでそう言った後。


 「だが、コイツは人間の里を襲うかもしれないのだぞ!」

 「我が国に被害が出てからでも言えるのか?」

 「正義感だけの無能は引っ込んでいろ!」


 なんて叫んだ。

 でも、王子は引き下がらなかったよ。


 「人に被害を出していないのに、殺すだと? 人間の里を襲うかもしれないから殺すだと? ふざけるな!」


 恐ろしく放たれる殺気、人間達も一歩後ろへ下がったよ、そして叫ぶように大きな声を出したよ、王子は。


 「人間はいつから、命を自由に扱えるほど偉くなったのか!? 自分が神にでもなったつもりか!? それほど人間とは偉い生き物なのか!」


 嬉しかったなぁ、こんなに一生懸命アタシを守ってくれる人間がいて。

 でも、奴らは違った。


 「ええい、小生意気な説教を垂れるな!」

 「せっかくだ! ドラゴンもろとも、この野郎を八つ裂きにしろ!」

 「フランドルフに逆らった愚か者を殺せ!」


 そう言って王子に襲いかかった。

 王子は一人で何百人、それもアタシを守りながら戦ったよ、ボロボロになりながら、一日中。

 結果的には真っ黒な鎧達は撤退し、王子は勝ったよ、でも瀕死だった。

 至る所から血を出して、もう指一本も動かないボロ人形みたいになって立っていた。

 アタシは必死に舐めたよ、傷が治るよう、そして王子様を救いたくて。

 一緒懸命、生きて欲しかったから、助けてくれて嬉しかったから。

 ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと……。


 でもアタシもボロボロだったのかな、何日かして、意識が無くなったよ。


 次に目を覚ました時、王子がアタシの手当てをしていた。

 ボロボロだったアタシの体に薬草を当てて「生きてくれ! 生きてくれ!」って叫びながら。


 嬉しかったよ、自分もボロボロなのに、自分の事を気にせず、それも長い付き合いがあるわけでもないのに、薄ら泣きながらさ。

 それから数日間、舐めたり、薬草を塗られたりの関係を繰り返してさ、たまに彼が気を失ったり、アタシが気を失ったりしながら、互いに助け合ったよ。

 そして。


 「君のおかげで助かったよ、もし良ければ、僕の国に来ないかい?」


 王子は回復し、アタシも足を残して回復し、王子は国に戻る事になった。

 それで、王子はそう言ったのだけど、アタシは足がまだ不自由だったから、首を振り、足に目線を向けて断ったわ。

 すると。


 「分かった、もし何かあればあそこに見える国に来ると良いよ、それでは」


 そして、ステキな笑顔でそう言って、アタシに礼をすると立ち去って言った。

 でも、不思議と胸に穴が空いた気がしたわ。

 そして分かったの「あぁアタシ、あの人に恋をしたんだ」って……。


 その日から、アタシの努力が始まったわ!

 毎日、人間の言葉の練習、人の形へ姿を変える練習。

 必死にやった、毎日、欠かす事なく、絵のある本を読んだり、人間を観察したり、色々やったの!


 …………。


 「そして、アタシは……」

 「もう良い、儂の負けで……」


 あぁ、此奴の話を聞かなければ良かったのう……。

 儂はそう後悔した。

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