レジスタンスとは……
「とりあえず、レジスタンスとは何か、語ろうか……」
「その前に、何でこのタイミングでそんな話をしてきた?」
「あぁなるほどねぇ、それは……」
フリードは今までとは違い、気だるげな声を出し、とある方向へ指を向ける。
そこには、腹をかきながらヨダレを垂らして熟睡するドラゴン女の姿がある。
「彼女、ちょっと失礼な言い草だが、知恵が足りないみたいじゃないか? 俺が情報集めか聞いた時も、君が口を叩かなければ、普通に全部話していただろう? アルからの秘密のお願いを……」
「……ホント、主は愚かか天才か分からぬよ……」
そんな儂の呆れた声の一言にフッと笑うと、腕を組んで話を始める。
「まず、レジスタンスって言うのは、今の帝国を倒そうとしている市民の集まり、それは間違いない。 だがそれを支えるスポンサーなのは、この俺だ! まぁ市民は大概知ってるんだがな、知らないのは貴族のバカ達位かな?」
「何!? ど、どう言う事じゃ!?」
儂は机を叩いて声を荒らげる。
普通に考えても、それは自分の首を絞める行為、何故その様な事をしているのかが分からぬ!
「驚いている様だな?」
「そりゃそうじゃろ、まさか心底ドMじゃったとは……」
「まったく、またその話題を持ってくるとは、君はドSか、魔女さんよ」
「なぁに、世界はドSに溢れておるようだからな、なにせ儂ですらドSなのだから」
「くく、そりゃ違いない! まぁ冗談はここまでにして話を進めよう。 ところで黙って警護してないでお前もどうだ? 一杯くらいなら付き合っても問題ないだろう」
「む? な!?」
フリードの言葉に呼ばれて来たのは、見覚えのある一人の聖騎士、そしてフリードの妻でもある人物だった。
「何だ貴様、気づいていたのか?」
「好きな女の気配はよく分かるものさ」
「ふん! ふざけた奴め!」
そう口にしながらも、フリードの隣にくっついて座る、何じゃ、ツンデレかのう……。
「んじゃまぁ、話を始めるか? それと話を滑らかにする潤滑剤が欲しいのだが、マスター?」
「ワインなら、無傷の物がが2箱ありますがね、フリードさん、店の弁償マジお願いします……うう、明日からどうすれば……」
「分かった泣くなマスター、だからワインを持って来てくれ」
「それが聞ければ十分でさ! 急ぎワインを持ってきます!」
そして儂らの横にそれぞれ置かれる蓋の開けられたワインの箱、中は6×5で30本入っている事が分かる。
そして、フリードはその箱からワインの瓶を取り出し、口で器用に蓋を開けると、それを一杯口に含ませ飲み込み。
「さて話を始めよう、レジスタンスとは何か? 俺が何を考えているか?」
先程までのダメな男の仮面を捨て去り、不敵な笑みを浮かべた男の顔を新しく取り付けた。
…………。
「結論から言えば、レジスタンスは俺が考えている民主化への道、その為に国の予算をこっそり流している」
「民主化……じゃと? 何故そんな事をするんじゃ?」
「まぁ、俺としては王国貴族という地位を悪用して、市民に迷惑をかけるブタやネズミを中心とした……まぁつまりガキみたいな大馬鹿野郎が増えた分、もう王国としては長くないなと思ってな。 それなら少しでも早く壊れた方が真っ当な市民の為にも良い、そう思ったのが理由だな。 ちなみに、十日後に革命が起き、貴族の屋敷などを抑え、城内を制圧する茶番を行う予定だ」
「ほう? じゃが良いのか? 国王の地位を失えば今の様な楽しい生活も出来ぬぞ?」
「ふっ、一向に構わないな、それくらい……」
そしてフリードはまたワインを口に含み、今度は一気に中身を飲み干すと。
「あ〜……。 まぁ市民が幸せなら……、勿論シルフィやアルが元気に幸せに暮らせりゃ十分だ」
まるで少年のような笑顔でそう言った。
そして。
「わ、私も貴様がいれば、幸せ……だぞ……」
それに続くように、顔を赤く染め、体をモジモジさせつつも、気を張った表情のシルフィがそう小さく呟く。
ふふ、初対面の時は堅物に見えたが、意外と可愛らしい所もあるもんじゃのう。
「お、何だシルフィ! 今更ながら俺にツンデレか? はっはっは、そんな可愛らしい所もあったんだな……、って首を絞めるのダメ……!」
「何も言ってない、私は何も言ってないぞ!」
「わ、分かったから離してって……」
不思議と見ているだけでほっこりさせられる夫婦じゃと、儂は思う。
それは一見、首を絞める女騎士と首を絞められる男に見えるじゃろう。
じゃが、二人の顔は微かに笑っている。
多分、二人も冗談半分のじゃれ合い、否、仲睦まじく光景なのじゃろう。
そんな素敵な光景に、儂もつい、口をにんまりとさせてしまう。
いつか儂も、王子とこんな仲良く喧嘩できる関係になれればなぁ……、そんな関係も悪くない人生かもしれぬな……。
じゃが、儂はこの時疑問を持った。
この様に市民を思う男がなぜ、後にレジスタンスを滅ぼすような指示を出すのじゃろうか?
それ以前に息子を思う発言をしておきながら、息子に討伐にむかわせるのじゃろうか?
そんな疑問が儂の中に浸透して……、いや待て、それは結論を早めすぎているのう。
まぁこの場合、考えるより聞くが早い。
そう思った儂は、どうなっているのかやや遠回しに聞き出すことにした。
「一つ気になったのだが、他の貴族は民主化は反対なのかのう?」
「全員一致で反対してるな。 俺も貴族の前だと反対してるな!」
「ならば、そんな連中が余計な行動を起こさせない為に、立場上レジスタンスの討伐の指示を出さねばならない場面もあるのではないか? 傭兵を雇ってレジスタンス壊滅という結末にでもなったら、たまったものじゃなかろう?」
「そりゃ立場上あるが、俺が許可しないと軍の派遣は出来ないからな。 まぁ、貴族のバカどもを満足させるために、やらざるを得ない場合は、表向きは山岳に潜むレジスタンス討伐との名目で山にピクニックに出かけるつもりだ!」
なるほどのう、山への討伐のタネはこういう事かのう……。
うむ、何も聞かなかった事にしよう。
伝えれば儂、お役目御免になりそうじゃし。
「ところで他に聞きたい事はあるか? 答えられる範囲なら答えるぞ!」
「まぁ、気になる事があるからのう、儂なりにな」
それは勿論、王子の好きなものとか、洗脳薬への耐性はあるか等、儂の恋愛を成就させる為に必要な情報は全て……、オッホン!
じゃが、儂らの話は一時中断になる。
「ねぇフリード〜、シルフィね、アナタの事、だ〜いすきなの! またシルフィは会いたいの〜、だ〜か〜ら〜目覚めのキッスして〜、はーむ!」
「なぁシルフィ、真剣に話している時は俺の首筋を甘噛みするな、あとキスは家に帰ってからだ、人目があるからな」
「えへへ〜……シルフィ、フリード、大好き〜、キャハハハハ! あ〜眠くなってきちゃった〜お休み〜」
それは、女騎士がワイン瓶片手に好き放題喋り、そしてバタンと勝手に眠った為。
儂の見間違いでなければ、酒を飲む前まで硬く真面目そうな聖騎士のシルフィであったはず。
「いつシルフィは、酔っ払いのそっくりさんと入れ替わったのじゃか……」
「シルフィの奴は昔から酒癖が悪くてな、全く一箱飲み干してやがる……ほら」
フリードが指を指した先にある箱を見ると、少し前まで30本あったワインが入っていたはずなのに、それが全部空になっている。
うん、フリードの普段の行いによるストレス故じゃろうな……。
「全く世話がやける……」
そう口にしながら、フリードは立ち上がり。
「おいマスター、毛布を二つ貸してくれ!」
「は、はい! こちらに!」
そして、マスターから毛布を貰うと、片方を床で眠るミュードラの体を覆うようににかけ、もう一つをシルフィの腹にだけかける。
「まぁ、ドラゴン娘も酒が抜けてくる頃だし、念のための寒さ対策だな。 必要ないかもしれないが……」
そう小さく呟いたフリードの顔は優しさある微笑んだ顔とでも言うべき表情。
じゃが、初対面の印象が強すぎて儂にはどうも違和感がある、故に。
「流石、ナンパ男じゃのう」
と皮肉を込めて言うと。
「なに、これは男としての仕事だ」
っとカッコつけた事を言いおった。
まったく、別人になるのはシルフィだけではなかったようじゃな……。
…………。
「さて、単独取材を再開するが、その前に記者君、名前で呼ばず魔女と呼ぶのには抵抗があってね、君の名は?」
フリードは二箱目から取り出したワインを片手に取ると、儂にその様な事を聞いてきた。
じゃが、儂は名前を捨てた、故に。
「名前は忘れた、好きに呼ぶがいい」
そう答える。
すると、一瞬軽く驚くような表情を浮かべたと思うと、直ぐに真剣な表情に戻り、口を動かす。
「ならば……」
すると、フリードの右手から突如、トランプが現れ、それが風が吹いてもいないのに空高く舞い上がる。
そして花びらのように降り注ぐカードの一枚に、これまた突如出現したナイフを投げつけ、壁に貼り付けにする。
そして、ナイフを手にすると、途中にトランプのクイールが刺さったナイフの刃先をこちらに向け。
「クイーンか、少しもじってクイール、イル……、名前はイルでどうだ?」
「カッコつけめ……。 じゃが良い、儂のことはイルと呼ぶがいい」
そう言った儂にフッと鼻で笑いながら、やや照れ臭い表情で儂にそう言った、そして。
「さぁ、今日の記者会見は、とりあえず日が昇るまでにしよう。 なぁに、永遠に続く短い時間だが酒を飲みながらイルの取材を楽しく受けるさ」
夜はまだまだ開けぬ時間なのに、二重のそんなふざけた冗談を飛ばす、フリード。
そんなフリードに儂は、フリード自身の考えや本心を良く知る為、質問をした。
長く長く続く、短い夜の間……。
…………。
話を終えた儂らはそれぞれ酔っ払って爆睡している連れの者たちをそれぞれ魔法、そして背中に背負う形で運び、城への帰路についた。
そして少しの間、運んだ疲れを癒すと、酒場でこっそり持って帰ってきたカラの酒瓶を手に。
「あはは〜、酔っ払っておるぞ〜儂〜」
と口にしながら王子の部屋の前へ向かう。
ふっふっふ、酔った勢いならヤッてしまっても覚えていないでセーフじゃし、無駄に真面目な王子も責任感じて結婚を……フヒッ。
「あはは、我、酔ってるぞ、我!」
じゃが、そんな計画を台無しにする様に、王子の部屋の前で、そう口ずさむミュードラと会う、此奴もまさか……。
「何じゃ、ドラゴンのアルコール漬け、貴様の部屋は別にあるじゃろう?」
「我は、そう我は酔っ払っていて、お主が何を言っているのか分かりませーん」
此奴、ふざけた真似を……、なら!
「時空よ、その空間を開き、このふざけた痴女に氷と冷たい水を浴びせたまえ!」
儂はそう口走ると、時空のねじれをミュードラの頭上に作り出すと、そこから氷の混じった冷たい水をミュードラにドバーッと強烈な音を立ててかぶせる、すると。
「ぎゃぁぁぁぁぁ! 陰険魔女、アンタ何するのよ、か、体が寒いわアタシ……」
今までと違う一人称、二人称を使って自分の寒さをアピールする、と言うかじゃ……。
「それがお主の本性なのか?」
「ええそうよ! 何、何が悪いの!? アタシだって、あんなダサい口調したく無かったわよ! でもドラゴンは威厳を持たねばならぬって昔おじさんに怒られたから、していただけなの! 悪い、アタシ何が悪い!?」
「いや、悪くは無いじゃろうが……」
多分、此奴が騒いだのが最大の原因じゃろう。
「お二人とも! 深夜なのに何を喧嘩しているのです! 全くそこに正座、今日は朝まで説教ですよ!」
そして儂らは朝まで説教を食らう。
しかし、儂は諦めなかった、それはチャンスだと思った故に……。
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