下町へ
「という事で! 我らは」
「国王であるフリードに、王子を襲う役割を頂いたのじゃ!」
「何を言っているのですか、お二人共!? と言うか目がキラキラしてますよ! 洗脳でもされたのですか!?」
国王の間から出て、王子と再会した儂らは胸を張って早速報告をするが、王子は儂らが言いくるめられたのだと思っている様子。
甘い、甘いのう王子、儂らはそこまで愚かではない。
じゃが、不安にさせておるし、どれ、不安を振り払っておくかのう……。
「安心せい、これは作戦じゃ、作戦! 儂らは王様の言う事を聞きますと言う態度を示して、信頼を得ようという作戦じゃ! のうミュードラ!」
「そ、そうだ! 我らは信頼を勝ち取るため、わざと引っかかったフリをだな……」
そうなのじゃ、儂らは信頼を勝ち取るためにあんな演技をしただけなのじゃ。
故に決して、決して本心ではない。
そう、決して本心ではないのじゃ!
そんな儂らの思いは、王子に通じたらしい。
「これは失礼、お二人を疑ってしまうなんて……」
チョロい……、じゃなくて、流石乙女の心をよく理解しておる!
さてとりあえずは……。
…………。
「……で、何でココなんだ?」
周りは酒樽を再利用した机が並べられ、それと不釣り合いなフカフカの長椅子が囲う様に置かれており、そこには荒くれどもが酒を飲む光景が広がっている。
それがこの、イエローラインという酒場なの特色じゃろう。
じゃが、この酒場という建物の有効性をこのドラゴンは知らぬ様じゃな、まったく世間知らずめ。
「貴様は世間知らずよな、人間の世間一般では、情報収集の基本は酒場にあり!っと言う言葉があってじゃな。 まぁ毎日通いつめれば、いずれレジスタンスの情報は手に入るじゃろうよ」
「そんなものなのか? モグモグ、しかし酒も果樹も美味いな……、勉強になる、ありがとう」
儂らは王子と別れ、夜になってから二人だけで酒場に来て、ソファが並んだ席に二人並んで座っていた。
儂らだけで来たのにはちゃんと理由がある。
まず、王子は有名すぎて顔も割れておるし、もし酒場に王子がいれば、警戒、もしくは誘拐の恐れもある。
二つ目は、乙女二人だけならば、エロを纏った酔っ払い達が情報を流してくれるかもしれぬから、この為にあえて並んで座り、向かいを開けている訳だ。
そして、最後の一つ、それは酔っ払ったフリして王子を襲っても、酒に酔って覚えていないと言い張って正当化できるからのう、うふふふふ……。
「モグモグ……しかし、ここの食事はとても美味いな、食べだしたら止まらないのだが……」
「お主は食べすぎじゃろ、木の実の盛り合わせを15皿も食べおって、支払うの儂じゃぞ……」
「モグモグ……その代金分は、我の宝物庫からくれてやるから安心しろ」
「お主、宝物庫宝物庫言っておるが、お主の宝物庫は一体どこにあるんじゃ? まぁ無理して答えろとは言わぬが……」
「モガガモガ!(ここだここ!)」
そう言うと、人差し指をゆったりと伸ばす、すると。
「何じゃこれは!?」
目の前に現れた空間には、金銀財宝が山の様に、それも地平線の彼方まで黄金色に輝いていた。
そして、その空間をスッと閉じると。
「モグモグ、ゴクン……、これで安心したか? 木の実の盛り合わせとお水、おかわり!」
そう言って、また木の実の盛り合わせ、そして水を注文するのであった。
じゃが、こんな所で金目の世界を見せるようマネをしたのが悪かった。
「ねぇねぇお姉さん達、僕らと遊ばなーい?」
「俺等、女の子に飢えていてさ〜遊びたくてたまらないんだよね〜」
「ついでに、俺たちの物になって、あの金銀財宝を僕らにくれたら嬉しいなぁ〜」
金銀財宝の空間を見ていたのだろうか、数十人の下品な笑みを浮かべた男達が儂らを囲む。
そして男達はこれ見よがしにナイフを見せつけ、儂らを脅しているつもりらしい。
「魔女よ、コイツらは何を言いたいんだ? 此奴等が情報源が?」
「つまり、お前の子供が欲しい、あと財宝も欲しいと言っておるのだろう、優しい言い方をすればじゃがな。 あと此奴等はたたのならず者、情報にはならぬと思うぞ」
「ちなみに、此奴らは強いのか?」
「主はホコリ如きが強いと思うのか? 汚いだけじゃぞ、コレ等は」
「何だ……。 なら散れゴミ共、汚い面を酸で溶かしてから出直すがいい」
そんな儂らの言葉に。
「何だとクソ女!」
「女二人が調子に乗るんじゃねぇ!」
「裸にして、川に捨ててやる!」
等と、口だけ大層な事を儂等に言い放つ。
そして、儂等に腕を伸ばして連れ去ろうとしたその時。
「あぁぁぁぁぁ熱いぃぃぃぃぃ! こ、この女、焼ける様に熱いぞ!」
「シビビビビビビビ! こ、こ、こ、こっちは電撃ががががが……」
ミュードラは服が溶けるほどの熱を発し、儂は身体中に電気を纏わせた。
まぁ、不快な男に攫われようとしているのじゃから、そんな態度をするのは当然じゃがな。
「暴れたいなら暴れてもいいぞ、何、時間を戻せばノーカウントじゃからな」
「そう言う貴様も大暴れしたいみたいだな、我には分かるぞ」
そして、二人でニヤリと笑みを浮かべ、暴れようとした、次の瞬間。
「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ、てめー等、まだ三件目だぞ! 酔い潰れたらアレな、アレをアレするからな、ガハハハハ!」
「アレじゃ分かんないっすよ、フリードさん〜」
「ガハハハハ、そりゃそうだな、すまんすまん!」
その硬い空気をぶち壊すように、酒を片手にジーンズにシャツの男が飲み仲間を連れてやってくる。
間違えるわけがない、アレは国王のフリードじゃな。
「おぉ、フリードのおっさん! 何だよまた奥さんに追いかけられた? まったく女に尻に敷かれるなんて情けねぇ〜、マジクールじゃねぇわ〜」
そして、儂等を囲んでいた男達の一人がフリードに手を振りながら、馴れ馴れしく声をかける。
「バッキャロウ、家庭の平穏のコツは、家内を立てる事だろ?」
「おっとおっさん、それはドMなのを認める発言すか? そりゃあんな堅物女騎士を妻にしながらナンパをやり続けて、毎回説教をくらってれば、皆察するっすけど。 というか、女口説きすぎでしょ、マジで!」
「バッカ、分かんねぇかなお前等、女騎士って良いんだぞ〜! 特にな、シルフィは怒った顔がな、もうすんごい可愛らしいんだよ! もうおっぱいでかくてキュートで可愛いくせに、怒るとズキッと冷たく刺さる目線をして、これがまた良いんだよなぁ、これが……」
「おいみんな、フリードのおっさん、ドMを自白したぞ! ぎゃはははは!」
「あ、バッカ、ドMじゃねぇよ! って言うか羨ましいのか、羨ましいのか、おい!」
「ち、ちげーっすわ! 絶対そんな事無いし……っておっさん、肩に手を回すなって!」
「おうおう、おっさんに正直に言ってみろって? 顔を赤く染めて図星っぽい様子な童貞不良少年A!」
「ど、童貞ちげーし! 虐められるの、別に好きって訳じゃ……ねぇし……」
まさに酔っ払いの織りなす下品な会話じゃろう。
儂もミュードラも呆れた目で会話を見ておる。
と言うか、この親父、チンピラとも仲良しとは、大物なのか……?
「ところでてめえ等、一体何やってたんだ? ん? んん!?」
お! やっと気づいたのう、酔っ払い国王。
なんか酔っ払って真っ赤だった顔が青ざめていっているぞ!
「あぁ、フリードのおっさん、今日バカ達を騙したついでに、コイツ等を荒々しくエスコートしてやろうとして……痛! おっさん、いきなり何で打つんだよ!」
「バカヤロウ! この二人は息子の嫁候補だぞ! それも俺が勝手に任命した!」
「マジすか! そ、それはとんだご無礼しちゃったっすわ〜……」
「いいかお前等! バレたら俺は、シルフィとアルの二人から、それはそれは気が遠くなるほど長い説教を正座して聞く羽目になるんだぞ!」
まぁ間違いなく怒られるじゃろうな、フリード。
あと、王子は知っておるからな、既に。
「マジすか!? おっさんマジ、パネーよ! もうマジパネーわマジ! マジリスペクトっすわ」
お前はマジマジ言ってばかりで、何が言いたいか分からんぞ、不良少年A!
「よーし、とりあえずお前等! 俺はこの二人に話がある、金をやるから向こうで飲んでろや!」
「「「あざーす!」」」
そして、スッと儂等の席に座ったフリードは、ポケットから金貨を数十枚取り出すと、それを不良少年Aに手渡した。
そして不良少年A達は、こちらに笑顔でお辞儀をしながら反対側の席へ移動していった。
「さてと二人とも、どうしたんだ? 酒場だし、何か情報集めか?」
「ま、まぁちょっと……のう……」
「ふふん、我らは王子に頼まれて、レジス……ふぎゃ!」
「おっと虫が口に付いているぞ、痴女ゴン! そうそう、儂等は王子に頼まれてな、一人にして欲しいと……」
頭空ゴンが余計な事を言いそうになったので、口をパンと叩いて、自然にフォローする。
隣から「何をするんだ、貴様!」と叫ぶ声が聞こえてくるが、スルーする事にする。
「そうか、アイツ落ち込んでいるのか、そうかそうか……、うーむ……」
む? 右手で口を隠す様に押さえ、そして真剣な目をしているな。
儂の感だが、フリードは息子であるアルライン王子を大切に思っておるのだろう。
一言で言うなら不器用な父、故に……。
「ところで、可愛い友達いない? 人間以外で? 最近人間だけナンパじゃモチベーション上がらなくってさ〜、サキュバスとかだったら最高なんだけど……、いだだだだだだ! 魔女ちゃん冗談だから! 首をねじらないで、首が、首が一回転しちゃう……」
此奴は女の敵じゃ!
じゃから今此奴の息の根を止めねば、不幸な女子が増える。
ところで、そこのドラゴン女、儂の背中を殴るな! 痛いだろう!
それと、飲むか食べるか殴るか、どれかにしろ!
…………。
飲み屋は、儂が魔法やら物理的やらで大暴れしたせいで至る所に机が飛び散り客の大半は気絶するか避難したかの二択、そして店主がメソメソ泣いておる。
そして、そんな片隅では。
「グーグー……」
「此奴、結局食って飲んでばかりで、腹が膨れて満足したら寝てしもうて……」
「俺は女の子を食べたい……」
「お主は黙っとれ、バカ国王!」
全くミュードラといいバカ国王といい、城へ帰るために運ぶ荷物が増えてしまったわ。
それに結局、儂はこのバカ国王に付き合わされたせいで収穫なし、実に腹立たしい!
「ま、魔女ちゃん……、ちょっといいか? お前達が知りたがっているレジスタンスの話なんだが……」
「お主は黙っとれと言っ……今何といった?」
「お前達が知りたがっているレジスタンスの話さ」
儂は魔法で机と長椅子を並べ、儂とフリードが話し合うスペースを作る。
それは、これが鍵となる予感。
そんな未確定で形のない物体が、儂にそうせよと言った気がしたから……。
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