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国王

 「しかしお主、どうやってここにたどり着いたんじゃ?」


 王子の説教も終わり、足の痺れが取れるまで世間話をする事になったのじゃが、冷静になってみると、その点が妙に気になった。

 故に尋ねたのだが。


 「簡単だ、我が夫の匂いに向かって真っ直ぐ走って突っ込んだまで! まぁ結果、街を破壊し、城の壁をぶち破った結果、人間を何人か吹き飛ばしてしまったのだが……」

 「お主、イノシシじゃ無いんじゃから……、と言うか白いワンピースを纏う余裕があるなら、冷静に行動出来たじゃろうに……」

 「その……城に着いた時、全裸に近いこの格好は、恥ずかしくのではないかと考えてしまってだな……、服を拝借した……」


 モジモジしながらこう申したドラゴンに対し、思った以上の単純さと鈍さを感じ、儂は心底呆れてしまった。

 ホント、こんな無鉄砲でよく生きて来たと感心する。

 む、そう言えば……


 「お主、よくそれだけ街を破壊する被害を出しておいて、よく王子に何も言われなかったのう……」

 「どうやら、レジスタンス側が使った新魔法と言う事になったらしい、実際にレジスタンスからの声明もあったそうだ。 普通なら我を疑うだろうに……、我が言うのも何だが、我が夫はちょっとアホだぞ!」

 「王子はアホか、言われてみれば、儂も納得するのう……」

 「お二人とも、ちょっと良いですか!?」


 儂たちが、そう世間話をしていた時、王子が飛び込んで来た。

 まぁどうせ話題は……。


 「と、突如レジスタンスから未知の魔法の攻撃を受けてしまった様で……、それに対処する為お力をお貸しください! それと魔女様にお伺いしたいのですが、これは過去へ飛んだ代償か何かなのでしょうか!?」

 「まぁ、そうじゃの……」

 「くっ! 僕は運命を悪くしてしまったのか!?」


 まぁ、とりあえず王子よ、何で当然のようにイノシシドラゴン女がいるか、考える事から始めるべきじゃよ。


 「安心しろ我が夫! 絶望の気持ちを我が肉体にぶつけよ! そして絶望の化身を生み出し、世界を破滅させようではないか!」

 「え? あ? ダメです、ミュードラさん! ダメ、ダメですって!」


 お主はこのタイミングで発情するでないわ!

 はぁ、仕方ないのう……。

 儂は一度距離を取ると、四つん這いで王子にまたがるミュードラへ向けて、全力ダッシュし、華麗にジャンプ、そして。


 「うにゃ!」


 見事なドロップキックを顔面に浴びせ、儂の勝利、敗者のミュードラは顔を抑え悶え苦しんでいる模様。

 そして、襲われていた王子に右手を伸ばし。


 「ほれ、未知の攻撃とやらに対処するのじゃろう? 儂らのやれる事をさっさとやるぞ!」

 「あ、ありがとうございます……」


 そう言って引っ張り起こす、この右手はしばらく使わないようにしたいのう……。

 じゃが、そんな素敵なワンシーンに文句を言うのが痴女ゴンである。


 「な! 魔女よ、我らは今、とても良い雰囲気だったのだぞ、このまま獣の様に……、な、何だ顔を近づけて……」

 「これ以上アホをするなら、街がああなったのは貴様が原因であるとバラすぞ……」

 「き、貴様、汚いぞ!」


 これ以上発情バカによって話が進まぬのも考えものじゃと思った儂は、ミュードラの耳元でそう囁く。

 と言うか、コイツより先にヤラせてたまるか!


 「まぁ、儂は魔女じゃからな、さて王子よ、行くのだろう」

 「は、はい、では私に着いて来てください」


 そして、儂は王子の後を付いていく。

 駄々をこね「離せ、離せ」と叫ぶ、イノシシドラゴンを引っ張りながら。


 …………。


 儂らが連れてこられたのは、アルセイユ城内にある、国王の間と呼ばれる広い空間。

 全体的に赤と黒を基調とした、シンプルながら味がある空間。

 だが、入り口から続く赤絨毯の道の端々には、剣を構えた鎧の石像が置かれており、やや物々しさを感じてしまう。

 そんな光景を、柱に掛けられたランプが優しく照らしていた。


 そして、その赤い絨毯の道の奥にある、一際豪華な椅子に座った男がいる。

 顔立ちは非常に良い男。

 ボサボサした大雑把なオールバックに、野心溢れた見開いた赤い目。

 そして口はニヤけているが、いやらしさを感じさせず、どちらかといえば少年の様な純粋さがある。

 そして特に目につくのが、国王とは思えない、ジーンズにシャツという格好、おかげで飲み屋にいても違和感のなさそうなそんな中年の男、それがこの王子の父であり武術の達人と言われる、フリード・フォン・アルセイユと言う男だった。


 「父上! 申し上げ……」


 王子がそう声を上げる、しかし。


 「言わずとも分かっている……」


 言葉を言い終わる前に国王は開いた左手を伸ばし、王子の話を静止する。

 何だこの男の言葉は……。

 不思議とこちらを見通されている、そんな独特の雰囲気を醸し出している。

 そして……


 「結婚……。 つまり、両方嫁にしたいんだろ? 帝国のルールにも反していないし、俺は全然構わんぞ! ちなみに父ちゃんはな、今のお前と同じ18の頃に、街で見回りしていたシルフィ、つまりお前の母ちゃんをナンパして、夜の戦いを行なってお前を作ったわけだしな!」

 「「おぉ!」」

 「父上!」


 嬉しさのあまり、ガッツポーズする儂とミュードラ。

 そして、予想外の言葉により驚きを隠せない王子。

 当然王子は、真面目な軌道に話を戻す。


 「ち、父上! 私は今回のレジスタンスの事件を調べる為の話をしにきたのであって、色恋の話ではありません! このお二人は協力者です!」

 「協力者ねぇ……」


 そう呟く様に口にした王様は数秒「うーむ」と唸り声を上げ、考え込んだ様子を見せ、そして。


 「よし分かった! 二人とも、俺の事はフリード君と呼んでくれ、あ、名前は何? いや〜間近で見ると可愛いねぇ〜」

 「父上!」


 そう言って、儂らにナンパを始める国王、流石に儂はタイプではないし、ミュードラもタイプでないらしい。

 なので儂等は二人して、国王に不愉快と訴えるような視線を送る。

 すると。


 「アル、お前ちょっと外で待ってろ、この二人に話がある」

 「は、はぁ? それは何故ですか?」

 「まぁ、ちょっと気になることがあるだけだ。 ちょっと、な。 だから早く出てよ~アル~。 俺、鼻が敏感だから花粉症になっちゃう~」

 「……何を考えているか分かりませんが、分かりました。 私は席を外しましょう」


 儂等の目線から何かを感じ取ったのだろうか?

 突如そんなことを国王は口にする。

 そして、儂ら二人を置いて、王子は入り口へ向かい、扉を開け。


 「……父上、手を出してはダメですよ」

 「大丈夫! 俺、くしゃみが出そうになると、そこから出るまでの間、固まるんだよね、だから大丈夫! あ、花粉症のせいで、くしゃみが出そう!」


 不信感漂う目つきで王子は王を牽制する。

 と言うか、何というくだらぬ嘘をつくんじゃ、此奴は!

 全く、嘘をつくにも考えて……。


 「そうなのですか!? ならば、大丈夫ですね」


 いや、大丈夫じゃないじゃろう! どう考えても嘘じゃろうが!

 というか待て! 戻るんじゃ王子!


 …………。


 王子は去った。

 バタンと扉が閉まる音が響く、すると。


 「お前達、アイツの事、好きだろ? それもとっても、夜戦したい程……」


 先程までの女好きは何処へやら、先程までと違い、愛情と優しさに満ちた顔つきで儂らに単刀直入に語りかけてきた。

 

 「わ、儂らに一体何をいきなり……」

 「な、何を我らに言うかと思えば……」

 

 流石にいきなり言われた儂らはつい、そう誤魔化す態度を取るが。


 「おいおい、目を逸らして言ってしまっては、誤魔化すつもりですって言ってる様なものだぞ〜お前達〜」


 自分ではそんなつもりは無かったが、自然とそんな仕草をしていたらしい。

 じゃが、儂は本音を当てられるのは好きではない、故に儂なりに自然と否定する。


 「ほう、言うのは勝手じゃが、いきなりそう言われ、恥ずかしさで目を背ける乙女もいよう」


 ここで終われば良かった。

 じゃが、痴女ゴンが余計な事を言い出す。


 「そうだ、このムッツリスケベな魔女は別として、そんな純情な乙女もいるだろう!」

 「うるさい、万年発情期でオープンスケベの貴様が言うな! 第一、貴様は純情な乙女から最も程遠いじゃろう!」

 「何を! 王子のベッドに体を押し付けて興奮していた貴様が、我より純情に近いと言うか!?」

 「残念じゃが、儂は純情枠に入るんじゃなぁ、実際……。 あ、発情ドラゴン、お主はフルスイングでアウトじゃからな」

 「な、そんな訳……!」

 「あっはっはっはっは!」


 儂らのやり取りが面白かったのか、国王は腹を抱えて笑っている。

 その姿に、儂もミュードラも目をキョトンとさせ、争う気も失っていた。


 「ナンパ男は意外と人を見る目があると思わないか? まぁいい、俺の独り言を聞いてくれよ」

 「「は、はぁ……」」


 儂らは既に此奴のペースに乗せられているのじゃろう。

 不思議と此奴の話を聞き入りたくなっていた。


 「いや〜実はな、アルの奴な、俺がナンパしてる姿ばっかり見てきたから、恋愛に関してウブと言うか拒否反応があるんだよ。 だからこの際、魔女だろうがドラゴンだろうが、アイツを無理矢理にでもヤる様な可愛い子が欲しかったんだよ」

 「「つ、つまり?」」

 「YOU達、ヤっちゃいなヨ! ちなみに、この国は王妃は二人までOKだから、二人一緒に襲ってもいいぞ! ついでに襲った時にトラブルが起きても、大抵の事は国王命令で黙認させてやるから、安心して襲うがいい!っと国王としてお願いする」

 「「お父様、王子を頂きます」」

 

 これ程までに話が分かりやすい御仁がいた事が……。

 いやぁ、王子の父上は実に素晴らしい父上じゃ!


 「魔女よ、素晴らしい国王だな! さてここは、我らの力を合わせるべきだと思うのだが?」

 「意見が合うな、儂も同意見じゃ!」


 そして儂らは硬い握手を交わす、そして。


 「フリード! 今日は兵士達の訓練を手伝うのだろうが! 兵士達がさがしていたぞ!」


 ドアがバンと吹き飛ばされ、1人の女騎士が我らに構わずガチャガチャ鎧の軋む音を立てて王様の元へ向かう。

 見た目は20代前半で大変美しい青い瞳の金髪鎧騎士。

 だが、鋭い目つきは歴戦の猛者のそれに似たものがあり、その腰に付けている天使の紋様を見るに、世界でも数少ない聖剣使いである事が分かる。

 しかし、国王を呼び捨てにして……いやまさか、若すぎる、流石に……。


 「し、シルフィ! いや、その! そう、あれだ! 二日酔いだったんだよ、あ〜いだだだだ、訓練が出来ないくらい、頭が二日酔いで痛い……」


 シルフィ……という事は、国王の妻で、王子の母親という事に……。

 で、でも人間じゃろ、見た目が若すぎるじゃろう!

 あと国王、貴様先程まで元気じゃったろうに……。


 「貴様、それでも国王か! それでも我が夫か!?」

 「うわぁぁぁぁ、国王に剣を向ける聖騎士がどこにいる! 夫に剣を振り回す妻がどこにいる!」


 そして自称二日酔いは、元気に聖騎士に追いかけ回され、国王の間から逃げていった。


 「儂、あの騎士をお母様と呼びたくないのじゃが、めちゃくちゃ怖そうじゃしな」

 「魔女よ、我も同意見だ……」


 儂らは握手せたまま、入り口を眺め、そう口にした。

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