過去へ……

 「とりあえず、話を戻しましょう。 我々は過去へ行き、街を調べる事になりますが、その前に僕は魔女様の力、すなわち過去へ飛ぶ魔法に詳しくないので、出来れば魔女様から注意などがあれば良いかなと……」


 とりあえず、正三角を描く様に座り話を始めた儂達だが、王子から過去へ行く魔法について、この様に尋ねられたので、手短に説明する事にした。


 「えーっと、過去へ飛ぶ魔法じゃが、簡単に言えば、今現在までの記憶や意識をそのまま過去の自分に上書きすると言えば分かりやすいかのう」

 「なるほどわかりました。 ご説明、ありがとうございます魔女様」

 「うむ」


 流石王子じゃな、儂の魔法を理解してくれた様じゃ、それに引き替え……。


 「上書き? 過去の我に? ん? ん?」


 まったく此奴は、人に悪口を言う時は、頭が回る癖に、この様な時回らずしてどうするのじゃ!


 「ミュードラさん。 つまり、今のミュードラさんの記憶や経験を、昔の自分に植え付けると言いますか……」

 「ん? んん?」


 ダメじゃな此奴、頭を抱えて困っておる。

 所詮ならず者には理解できぬ話じゃったか……。


 「王子よ、此奴は口で言うより体験した方が早いじゃろう、とりあえず殺し合いを始める寸前くらいまで飛べば理解出来るじゃろう」

 「わかりました。 では魔女様、とりあえずお願いします」

 「うむ」


 儂はコクリと頷くと、地面に右手を当て、地面に魔法陣を展開する。

 そして、スゥッと力が抜ける感覚が身体中を駆け巡り終えると、儂と痴女ゴンは互いに顔を近づけ、殺し合いを開始する直前の体制、そして王子は右手を伸ばし、止めに入ろうか、そんな体制をしていた。

 とりあえず儂は、痴女ゴンから顔を離し、イスに足を組んで座ると。


 「……っとまぁこんな感じじゃ、分かったかのう?」


 と、右の手のひらを見せる様な動きを無意識にしながらそう言った。

 流石の痴女ゴンもそれを理解したらしく。


 「なるほど、そう言うことか……、我も理解したぞ」


 っと顎に手を当てながらそう言った。


 余談だが、時空魔法には二種類ある。

 一つ目は、儂の使う意識を過去へ飛ばすタイプの時空魔法。

 二つ目は、自身を過去、未来へ飛ばすタイプ、どちらも一長一短があるので、どちらが優れていると判断できない。

 だが、過去、未来へ飛ばすタイプの時空魔法は、ただでさえ珍しい時空魔法の中でも幻に近い存在故に、近年では一部の学会がらは空想の魔法とまで言われる始末、まぁ1000年生きてきた儂ですら、見た事がないので本当にそうなのかもしれぬが……。

 故に、時空魔法といえば、一つ目の事を指すのが魔法協会の一般的な見解となっておる。


 さて、話を現実へ戻そう。

 時空魔法の仕組みを理解した二人じゃが、王子はここで一つ疑問が生じたらしい。

 儂の目を見ると。


 「魔女様、質問が……」


 と右手を軽く上げる。

 うむ、実に良い心がけ、知的好奇心は己を育てるからのう。

 とても良い事じゃ、それとアクビをするな痴女ゴンめ!


 「その、仕組みは分かりましたが、時を遡れば、その度に合流に手間がかかりませんか?」

 「うむ、その通りじゃが、そこは儂に任せるがいい」


 儂は、そう言うと王子に近づき、胸板を触り、魔力を送り込む。

 むむ、これはいい胸板……オホン!


 儂が行ったのは、マジックマーキングと呼ばれる魔法。

 本来は、位置を知るだけの魔法であるが、儂はそれを更に、一度発動すれば解除するまで、過去であろうが関係なくマジックマーキングされている相手の側へワープ出来る様に改良した、いわばマジックマーキング改とでも呼べる魔法にしてある。

 故にどこにいようが、一瞬で駆けつけられるという訳じゃ。

 さて、それを早速説明するのじゃが。


 「さて、儂のマーキングを受ければ、ホレ!」

 「うわ、イスに座っていた魔女様が目の前に!」

 「これを使って、一瞬で王子の所に集まる訳じゃな! 無論このマーキングを受ければ、過去でも問題なく使えるのじゃよ」

 「なるほど、流石魔女様です!」


 との好評を頂いた、ふふふ……伊達に長く生きておらぬわ!

 まぁ、王子の為じゃからな、王子の……。


 「おい、我はどうすればいいのだ?」


 全く、知恵が回るべき時に回り、回らぬで良い時に知恵を回しおって……。


 「お主は得意の痴女力で、王子を探し当てれば良かろう?」

 「我を愚弄するか、陰険魔女っ子ムッツリン! 我が夫の所へ駆けつけられる様にしろ!」

 「それが他人に物を頼む態度かのう?」

 「そちらが先に我に対し、痴女力とは失礼な物言いをしただろう!」

 「ほらほら、お二人とも、にらみ合わない、喧嘩しない!」


 ち……、王子に言われては仕方ない……。


 「ところで魔女様、ミュードラさんの件ですが、どうにかなりませんか?」

 「ほら、我をどうにかして欲しいとお願いしているぞ、魔女っ子ムッツリン! ムッツリスケベなお主の事、何か策があるのだろ?」

 「ミュードラさん、挑発はいけません!」

 「はーい……」


 此奴め、いつか消し炭にしてやるからのう……。

 しかし、大好きな王子に叱られて目に見えて落ち込んでおる、これは嫌味で畳み掛けねば……。


 「何じゃ、落ち込んでおるのか、痴女ゴンの癖に! まったくドラゴンの癖に情けない……。」

 「情けないのは魔女様もです! どうしてお二人は仲良く出来ないのですか!? 良いですか、お二人共! 共存とは……」


 これが、長いお説教の始まりじゃった。

 その後二人床に正座させられ、優しく時には厳しく説教する王子。

 そんな話を長々と聞かされ、儂は一つ悟った。

 正座に全く慣れてない儂にとって、これは拷問だと……。


 …………。


 「あ、足が動かぬ……、あ、足がくすぐったくてたまらぬ……」

 「ふはは、日頃から陰湿根暗な魔女様には耐えられまい! 我など、自然と笑ってしまう程余裕だ!」

 「お主も痺れているんじゃろうが! しかも足を伸ばしおってから!」

 「わ、我の足をパンパン叩くな! くすぐったいではないか!」

 「貴様こそパンパン叩くでない! ええい止めぬか! 痴女ゴン!」

 「貴様こそ、根暗魔女!」

 「お二人とも! 何太ももを叩き合っているんですか!?」

 「「ごめんなさい……」」


 説教され、仲良く並んで座る形じゃった儂らは、痺れた足の太ももを互いに叩き合い、また説教を受けるハメになったと思っておったが。


 「まぁ流石にこれ以上説教しては、足が大変でしょうし、そろそろ過去へ行きましょう! まずは一ヶ月前からお願いします! あの頃から少しして何かおかしくなった様な気がしてならないのです!」

 「うむ!」


 流石は未来の王子、相手を思いやる心も持っておる、ただ説教が長々しいのは直した方がいいと思うぞ、儂は……。

 さて、それはさておき儂は床に魔法陣を張り、時空魔法を起動する、そして。


 「正座で忘れておったが、結局我、どうするのだ……」

 「「…………あっ!」」


 そう言えば、そんな話をしておったな、王子も忘れておった様じゃな。

 まぁ、でも……。


 「すまん、ここまで時空魔法を発動しては、中止できぬのだ、頑張れ」

 「ま、魔女様、何とか出来ないのですか!?」

 「無理じゃな……」


 そして儂らの意識は過去へ飛んだ。


 …………。


 そして今、過去の世界に着いた儂は、王子の元へ飛び、王子の素敵な体を見た事によって鼻血し、王子に運ばれベッドの上に眠っている。

 窓の外に見える風景は昔と変わらぬ赤レンガの街並み、城も儂が知る頃と大差ない石造りの壁、きっと見た目も変わってないじゃろう。


 あぁ、しかし心地よい気分じゃ……。

 体の重みを吸収するかの様な、ふかふかベッド。

 そして、ベッドに漂う芳しい男性の香り、否、王子の香り……。

 それは、私を夢の世界へと案内する魔法の空間。

 あぁ、そこでは、無数の王子から抱擁を一度に受ける夢のような空間、そして布団に顔を埋めた我の瞳は、徐々に激しくなる吐息と共に自然と閉じてゆき……。


 「はぁはぁはぁ……」

 「ベッドに体を擦り付けて興奮する変態に警告する、我と変われ! 我もその空間を楽しみたい!」

 「はあ!?」


 似合わぬ白いワンピースを纏った痴女ゴンが横からそう口にした事によって、夢の時間はぶち壊されたのであった。


 「嫌じゃ、儂は今日一日、王子から優しくしてもらうんじゃ、故に今日は儂の領域、そして一日かけて、儂の匂いをマーキングして、儂の香りでメロメロにするのじゃ!」

 「はーっはっは! 加齢臭でメロメロになると考えるとは、貴様の愚かさに我もびっくりだが」


 ええい、これだからならず者の発情痴女は……。

 まぁしかし儂も愚かではない、キチンと譲歩という言葉を知る乙女、故に此奴に最大の譲歩をしてやるとするか。

 ここで暴れて、部屋がメチャメチャになって説教されるのも嫌じゃし……。


 「仕方ない、痴女ゴンは香りだけでご飯を食べる権利を与えてやろう……、貴様の鼻だ、三里離れていても十分じゃろ?」


 ふっふっふ、流石に寛大だな儂は……。

 さぁ大人しく条件を飲んで……何で笑っておるんじゃ?


 「良いのかそんな事を言って? 我は香りを閉じ込め、それを香水の様に何度も振りかけられるレアアイテム〈永久なる愛しの匂いの香水〉を6つ、我が宝物庫にある! 我にベッドをくれるなら、譲ってやらぬ事もない」

 「何それ、すごい欲しい! あ、オホン……」


 その程度か痴女ゴンめ!

 我も凄い技術を持っておるわ!


 「貴様も良いのか? 儂は対象の人物そっくりの等身大の人形を作る儀式魔術を知っておるぞ、しかも動く……。 大人しく引き上げるなら、王子の人形を作ってやらぬ事もないぞ」

 「な、それは是非欲しい……訳じゃないぞ!」

 「…………」

 「…………」


 無言で互いに見つめ合い、儂らは互いに息を飲む、此奴、儂と同じ考えが……。


 「のうドラゴン、儂と手を組まぬか?」

 「奇遇だな魔女、我もそう思っておった」

 「お主の香水と……」

 「儂の魔術を使って……」

 「「王子の匂いがついた人形を二つ作る……!」」


 儂らは互いに指を合わせる様に人差し指を指し、不敵な笑みを浮かべそう言った。


 「ふっふっふ、分かっておるなミュードラよ……」

 「魔女、貴様もな……」

 「「ふっふっふ……、わーっはっはっは!」」


 その時突然ドアがバタンと開く、そして。


 「二人とも、喧嘩するつもりですね! 二人とも説教しますよ!」

 「ち、違うぞ! なぁドラゴンよ!」

 「そ、そうだ! 我らは初めて気持ちが通じ合い……」

 「嘘はいけません! 悪意を持った顔をしていたのです! どうせ、互いにどう辱めようか等と邪な考えていたのでしょう!」

 「いや、なぁドラゴンよ……なぁ……」

 「その通りだ魔女よ、我々は邪な考えは浮かべていたが、互いを……」

 「言い訳無用です! さぁ二人とも正座するのです!」


 そして、儂らは過去に来てまで説教された。

 あと、儂貧血なの忘れておらぬか、王子……。

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