六章 婚約者の気持ち

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 コーディアは部屋の中から空を見上げた。以前はこの空がムナガルへとつながっていると、郷愁の念に駆られていたのに、今は彼の地を思い出すことはあっても胸を焼き尽くすような渇望を抱くことはなくなった。

 この地に慣れてきたのだと思う。

 コーディアはこの国で生きていくのだ。正直に言うと怖くはある。まだこの国はコーディアにとっては未知だが、ライルの隣にいて恥じない自分になりたいと思うようになっていた。


 彼にちゃんと自分を見てほしい。

 決められた婚約者だから、というのではいや。

 だからこそ、コーディアは自分が原因でライルの評判が傷つくのが嫌だったし、いつまでも守られているだけの自分が悔しくもあった。


 これはコーディアの問題でもあるのだ。

 それに、昨日新聞に掲載された記事はコーディアの誇りを十分に傷つけた。

 これまでの記事だってコーディアを傷つけたが、あれはどちらかというとヘンリーの行動を非難するものだった。

 しかし今回のそれはコーディアの出生に関わるものだった。


 コーディアは、ヘンリーの実の娘ではなく、取り換えられた子だというのだ。

 コーディアはぎゅっと手を握りしめた。

 十三年前にムナガルのディルディーア人共同租界で起きた熱病。罹患した兄の看病をしていた母も同じ病に倒れた。

 助かったのは乳母によって隔離されていたコーディアと、ちょうど商用でムナガルを離れていた父のみ。


 記事は、本物のコーディア・マックギニスもその時熱病で死んでおり今のコーディアは乳母の手によって連れてこられたどこの馬の骨かもわからぬ娘だという。

 偽物の娘が伝統あるデインズデール侯爵の嫡男と結ばれることがあってよいものか、と記事はコーディアは糾弾する形で終わっている。

 ヘンリーも騙された被害者で、コーディアと乳母はヘンリーの財産を狙っている悪者だと、記事は決めつけていた。


 コーディアは記事を読んだとき、目の前が真っ暗になった。

 自分は母の顔もおぼろげだ。

 なにしろ、コーディアが母を亡くしたのはまだ三歳の頃のことだったのだ。写真で見る母は、確かに今のコーディアと似た顔をしている。


 けれど、コーディアは母との思い出をもう思い出せないのだ。どんな声で、どんなふうに笑いかけてくれて、どんな子守唄を歌ってくれていたかなど。

 エイリッシュはあなたとミューリーンの顔は本当にそっくりよ、こんな記事でたらめなんてこと、わたくしたちが一番に知っていますからねと励ましてくれたけれど。


 コーディアは決意を固めた。

 みんなコーディアには何も心配しなくてもいいというけれど、コーディアだって当事者の一人だし、ローガンの従妹でもある。

 父はいまだに連絡がつかないようで、エイリッシュもさすがに苛立ちを隠せないようだ。


(わたしがなんとかするしかない……)


 コーディアはどうやって一人で外出するかを考え始めた。

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