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「僕だってあんな女娶りたくなんてないんだ。南国育ちの世間知らずなど」


 ローガンにとっての結婚相手というものはきちんと教育をされた伝統的な貴族の娘だ。だからよく聞く莫大な持参金目当ての成金娘との縁談など考えることもなかった。

 大事なことは伝統を守ることである。平民の血を侯爵家にいれることなど考えたくもない。


「そう言うな。ヘンリーの財産だぞ。いくらあると思っている。あいつは侯爵家の次男なんだ。稼いだ金をこちらに寄越すのは義務だろうに、それを今後はやめにしたいなどと世迷言をぬかしおって。最初独立するときに金を用立ててやったのはその侯爵家だ。恩をあだで返し追って」


 エイブラムは忌々し気に舌打ちをする。

 ちなみにその時借りた金などヘンリーはとっくに返しているし、その後何度も金を無心されるたびに彼はエイブラムらにそれらを用立てていた。その恩義などすっかり頭から消え去っている発言である。


 最初ローガンはコーディアなどと結婚するつもりなどなかったのだ。

 ローガンは貿易国ロルテームの貴族令嬢に目を付けた。公爵家で財産もたっぷりと有り、しかもその血筋は血統書付き。そこの家の次女をたぶらかし、あとは婚約をし、結婚式の日取りを決めるという段取りまでこぎつけたのに、娘の父がローガンの借金を調べ上げ、話自体を白紙に戻した。 大誤算だった。


 ローガンは結婚相手の持参金を当てにしていたのである。そのお金で借金を清算しようと思っていたし、大層な財産家だったのでその後も色々と当てにできると踏んでいたのだ。

 その娘も今では別の男の婚約者に収まっているというのも腹立たしい。


(いっそうのこと、コーディアも流行熱で死んでいてくれればよかったんだ)


 ヘンリーの妻と息子は十数年前の流行熱で命を落としている。

 と、ここでローガンは妙案を思いついた。ローガンは別にコーディアと結婚したいというわけではないのだ。彼女が手にするであろうヘンリーの財産が手に入れば問題はない。


「そうか……この手があったか」

 くくっと笑い出した息子にエイブラムが眉を持ち上げる。

「どうしたんだ。突然笑い出しおって」

「いえ、別に。僕はちょっとこれから忙しくなりそうです」

 ローガンはそれだけ言って書斎から出て行った。

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