暗器屋さんのとある日
「くっそ!なんなんだんだよ!」
一人毒づきながら男が深夜の暗い裏路地を走っている。いや、一人ではなく後ろから黒い影が近づいて来ているため、逃げているようだ。走っていた男は急に足を止めて後ろを向き、腰から拳銃を引き抜き、追ってくる影に向かって撃った。
「食らえっ!」
撃って撃ち続け、弾が切れるまで撃った。埃が舞い上がり、前が見えないが確実に殺ったはずだ。だから言う。
「殺ったか?」
人間なら銃を撃てば簡単に殺す事ができる。さらに狭い裏路地ならより簡単にできる。
だが、
「そういうのは死亡フラグって言うんですよ。というか今時知らない奴いるんですね」
「は?」
それは一般人だ。一般論からかけ離れたヤバイ人間もいる、人間と言って良いのかすらも危うい人間もいる。
「どうして!?すべて避けたのか!?いや、無理だ、無理なはずだ、あり得ない!」
「そういう風に決めつけるの良くないですよ。まあ、これですべて弾いたんですけどね」
追ってきた影、近くから見て分かったが裏の世界とは無関係に見える青年は腰に吊っていた刀を指さしながら言った。
「ふざけんじゃねぇ!」
銃弾が見えない暗さで全弾はじくなんて人間じゃない。持っていた拳銃を投げ棄て走った。走ろうとしたが両足の甲に激痛と熱を感じてその場に倒れた。
「くっ!撃たれてる!どこから!」
「間に合ったようですね、シオンさーんナイスショットー」
青年が向こうの方へ手を振っているが横の建物が邪魔で見えない。
「とはいえ、なかなか冷静ですね。足撃たれてるのに」
「お、俺だって一応養成学校で首席だったからな、もう無理ってことはわかっていらぁ。で、お宅さんらの名前は?」
「『中根商店』です、来店いつでもお待ちしております」
『中根商店』…か。
そこで意識が途切れた。
ふー、一段落
「おつおつ傘くん」
真っ黒な服をきた店主がヘラヘラと暗闇から出てきた。
「お疲れさまです。まさかあそこで止まって撃ってくるとは思いませんでしたよ」
ただ逃げるだけの無能だと思っていたが、さすがスパイ養成学校の元首席だ。自称でほんとかどうか知らないけど。
「そう言えばシオンさんは?」
こっちの方から撃ってきたっていうことしか知らなかったから適当に手を振ってたからシオンがどこから撃ってきたか気になった。
「うん?あのビルの、ほらあそこ」
「化け物かよ」
店主が指さしたのは月が薄く照らす高層ビルの屋上だった。距離は約2000m、通常800m程の距離で撃つのだが1200mも増している。その上ビルとビルの間を縫って、路地裏の足を連続で狙撃…アホじゃねえの?
《お疲れさま、傘喰》
「お、お疲れさまです」
シオンが口頭マイク越しで話しかけてきた。
「どこなんですか?いまいちどこかわかんないんで何かやってくれないですか?その場で」
《え?うーんあ、これで…よし、いくわよー》
「どうぞー」
その直後、ひゅーと風を切る音が聞こえ、大きな花が咲いた。その真下を望遠鏡で見てみるとシオンがジャンプしながら手を一生懸命振っている。
「おー、見えました」
《そう、なら良かったわ。じゃ、店で会いましょう》
横の店主も聞いていたらしく、じゃ帰ろっかと言った。花火を打ち上げて何かいい終わりかたしたみたいになってるけど今、夜の12時だから。そんな事を考えながらどうしてこうなったか事の顛末を思い出した。
2時間前
「今日も実務系だよ」
「最近多いですね。」
「物騒な世の中になったわね」
「そーですねー」
『中根商店』の店内は恐ろしいほどだらけていた。しかし仕事はしっかりやろうとする。できる限りだけど。
「で、店主今日のターゲットは?」
「今日は某国のスパイに復讐。」
某国ってどこだよ、というかスパイ相手かよ…めんどくさいよ。
心のなかでごねてるとシオンが店主に質問をした。
「どういう理由で復讐をするのかしら?」
「なんか国のお偉いさんがちょっくら殺られちゃってその家族が頼んで来たんだよ。元は夫を殺した秘書の男を殺してだったんだけど調べたら色々分かっちゃって、スパイって分かっちゃたんだよ」
結構簡単にスパイって分かっちゃうんですね。きゃー怖い。
「まあ、そういうことだから。今日の深夜1時に作戦開始って言うことで」
店主がさらっと作戦開始時間を伝えるとすぐに佐々木が挙手した。
「すいませーん、平日の深夜は無理でーす」
「じゃあ良いよ」
「塩ラーメン並みにあっさりですねー、まあ良いですけど。じゃあ、お願いしますねみなさん」
佐々木は明日学校があるのか?でもまあ平日の深夜っていうのは滅多にないから今からドッキドキだよ。
「他にはないかねー?…よし。じゃあ準備よろしく」
ちょっとした会議が終わるとシオンが早速リュックサックと帽子を宇宙戦艦風の押し入れから出していた。シオンちゃん遠足と勘違いしてないかな?まあ、そんなこと言ったら殺されるから言わないけど。
シオンは僕がそんな事を考えていると知らずに黙々と荷物をリュックサックにいれている。えーっと、M67破片手榴弾に、M1911に、3尺玉、プファイファー・ツェリスカ、まだ入れてくようだ。
「シオンさん、そんなに使うんですか?」
「何言ってんの?あって困るものではないのよ。あ、傘喰そこのバレット取って」
嫌です、自分で取って下さい。とか言うけど取ってあげた。バレットってくそ重いですね。
「あ、そうだ。傘喰今回完全に前衛ね」
「店主にどうぞ」
「嫌よ」
「えー、僕前衛あんまりやったことないですよ?」
「良いわよ、しょせん現実の諜報員でしょ?主人公属性がなければ瞬殺できるわ」
「映画のスパイ強いですもんね」
普通の警察官でもダイがハードだもんね。
「ところでシオンさんって何歳ですか?」
「今聞くところかしら?」
まあ、何となく。
「ねぇ、なんか暇だから行かない?」
前振りもなく暇だから人を殺しに行く。これが『中根商店』クオリティー
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