嫁になりたい勇者

火蜥蜴ひとかげの惨劇と呼ばれたあの日から三年。


「ステイくん、本当に行くの?」


「ああ」


師匠であるおじさんが死んだ日、俺はいつか旅立つと決めていた。大切なものを守るために、もっと強くなるために。

いつか、あのサラマンダーに報いるために。


「そう、できれば、私はあなたにここを離れてほしくない」


18になった俺は、おじさんの代わりに村の警護を任されていたが、この村に残ったままでは成長に限界がある。


「あなたは、私に残されたたった一人の家族だから」


もちろん、モエロさんを一人にすることには不安がある。

農業は彼女と、手伝いだけでなんとかなるが、それ以前に、

彼女を独りにすることが、恐かった。

でも、行かないといけない。


「大丈夫だよ、モエロさん。俺は居なくなる訳じゃない。また戻ってくるから。モエロさんを守れるくらい...」


ギュ


俺は気付けば、モエロさんの腕の中にいた。


「お願い。なるべく早く帰って来て。大切な弟なんだから」


「分かってるよ。ありがとう...姉さん...」











村を出てどれくらい歩いただろうか?

そろそろ次の町が見えてくるだろうか?

いつまでも続く木々が、不安を煽り続ける。

なんかもう帰りたい。帰ってモエロさんをもみもみしたい。

いや、後半の煩悩は忘れよう。


そのとき、目の前の茂みがざわつく。

俺はとっさに木刀を構え、魔法で金属剣へ。

ひときわ大きく茂みが揺れると......。











「くっそーーー‼‼」


俺は森の中を、スライムに追われて全力疾走していた。


やけくそ気味に剣を叩きつけるも、ぷよんと跳ね返り、再び逃げる。

その繰り返し。


「なんでよりによってスライムなんだ‼」


スライムは物理攻撃耐性が以上に強い。

そして俺は物理攻撃しかできない。


スライムは意外に早く、少しずつ距離が縮まっていく。

あぁ、これもう終わったわ。むこうでおじさんに会わせる顔がないわ。


「でゃぁぁ!」


スライムの頭上から何かが降ってきて、スライムを大きく凹ませる。

その勢いのまま何かは宙返りして俺とスライムの間に降り立つ。

何かとは、白い鎧に身を包み、白い剣を握った女騎士だった。長く赤い髪が風でたなびいている。


「君、ここは私に任せてもらおうか!」


いきなりそう言い放った女騎士は、声質から考えて、俺とそんなに歳は違わないようだ。


「任せてって、あんたも剣士なら、あのスライムにダメージは与えられないだろ!」


現に、スライムはまだピンピンしている!


「問題なし!」


そう言った女騎士は、なぜか剣をしまい、左手を前につき出す。

魔法でも使うのかと思ったが、よく見ると左手には、奇妙なナイフが握られていた。


そしてそのまま、ナイフを自分の体へ、鎧の継ぎ目から突き刺した。


「お前!何やって!」


「大丈夫だから!」


すると、彼女の髪が強く発光しだした。その赤い光はどんどん強くなっていく。

そう、まるで、あの日見た炎のように。


いつのまにか赤く染まった鎧に身を包む騎士は、警戒して動かないでいるスライムに対して、格闘家のような構えをとる。


「『火拳ファイアフィスト』‼」


打ち出された彼女の右拳から、炎が吹き出す。

スライムは回避すらできずに蒸発した。


「ね、任せてって言ったでしょ」


そう言って俺の方へ振り返る彼女の髪や、鎧は元に戻っていた。

そして、初めて彼女の顔を見たことで、俺は、彼女と俺の歳の差があまり無いという予想が当たっていたこと、彼女がとてつもない美少女だということを知るのだった。


「うん、ドンピシャ」


「は?」


「君、ステイくんだよね」


「そうだけど...なんで俺の名前」


「助けたお礼といっちゃ図々しいかもだけどさ」


彼女は、急に恥じらうかのように頬を赤く染め。


「私を...君のお嫁さんにしてくれないか...な...」


「????」


突然の出来事が連続して起こると、人間の脳は機能停止するのだということを、俺は知ることが出来た。

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