嫁になりたい勇者
「ステイくん、本当に行くの?」
「ああ」
師匠であるおじさんが死んだ日、俺はいつか旅立つと決めていた。大切なものを守るために、もっと強くなるために。
いつか、あのサラマンダーに報いるために。
「そう、できれば、私はあなたにここを離れてほしくない」
18になった俺は、おじさんの代わりに村の警護を任されていたが、この村に残ったままでは成長に限界がある。
「あなたは、私に残されたたった一人の家族だから」
もちろん、モエロさんを一人にすることには不安がある。
農業は彼女と、手伝いだけでなんとかなるが、それ以前に、
彼女を独りにすることが、恐かった。
でも、行かないといけない。
「大丈夫だよ、モエロさん。俺は居なくなる訳じゃない。また戻ってくるから。モエロさんを守れるくらい...」
ギュ
俺は気付けば、モエロさんの腕の中にいた。
「お願い。なるべく早く帰って来て。大切な弟なんだから」
「分かってるよ。ありがとう...姉さん...」
村を出てどれくらい歩いただろうか?
そろそろ次の町が見えてくるだろうか?
いつまでも続く木々が、不安を煽り続ける。
なんかもう帰りたい。帰ってモエロさんをもみもみしたい。
いや、後半の煩悩は忘れよう。
そのとき、目の前の茂みがざわつく。
俺はとっさに木刀を構え、魔法で金属剣へ。
ひときわ大きく茂みが揺れると......。
「くっそーーー‼‼」
俺は森の中を、スライムに追われて全力疾走していた。
やけくそ気味に剣を叩きつけるも、ぷよんと跳ね返り、再び逃げる。
その繰り返し。
「なんでよりによってスライムなんだ‼」
スライムは物理攻撃耐性が以上に強い。
そして俺は物理攻撃しかできない。
スライムは意外に早く、少しずつ距離が縮まっていく。
あぁ、これもう終わったわ。むこうでおじさんに会わせる顔がないわ。
「でゃぁぁ!」
スライムの頭上から何かが降ってきて、スライムを大きく凹ませる。
その勢いのまま何かは宙返りして俺とスライムの間に降り立つ。
何かとは、白い鎧に身を包み、白い剣を握った女騎士だった。長く赤い髪が風でたなびいている。
「君、ここは私に任せてもらおうか!」
いきなりそう言い放った女騎士は、声質から考えて、俺とそんなに歳は違わないようだ。
「任せてって、あんたも剣士なら、あのスライムにダメージは与えられないだろ!」
現に、スライムはまだピンピンしている!
「問題なし!」
そう言った女騎士は、なぜか剣をしまい、左手を前につき出す。
魔法でも使うのかと思ったが、よく見ると左手には、奇妙なナイフが握られていた。
そしてそのまま、ナイフを自分の体へ、鎧の継ぎ目から突き刺した。
「お前!何やって!」
「大丈夫だから!」
すると、彼女の髪が強く発光しだした。その赤い光はどんどん強くなっていく。
そう、まるで、あの日見た炎のように。
いつのまにか赤く染まった鎧に身を包む騎士は、警戒して動かないでいるスライムに対して、格闘家のような構えをとる。
「『
打ち出された彼女の右拳から、炎が吹き出す。
スライムは回避すらできずに蒸発した。
「ね、任せてって言ったでしょ」
そう言って俺の方へ振り返る彼女の髪や、鎧は元に戻っていた。
そして、初めて彼女の顔を見たことで、俺は、彼女と俺の歳の差があまり無いという予想が当たっていたこと、彼女がとてつもない美少女だということを知るのだった。
「うん、ドンピシャ」
「は?」
「君、ステイくんだよね」
「そうだけど...なんで俺の名前」
「助けたお礼といっちゃ図々しいかもだけどさ」
彼女は、急に恥じらうかのように頬を赤く染め。
「私を...君のお嫁さんにしてくれないか...な...」
「????」
突然の出来事が連続して起こると、人間の脳は機能停止するのだということを、俺は知ることが出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます